9話 情報屋は突然に
俺とフェンリル、スライム少女はダンジョンから離脱し、元来た道を辿り帰る。
「此処が……ふぅん。私の居た場所より全然良いんだ」
「これでもダンジョン探検で稼いでいるからな。と言っても住んでいるのが俺だけだったから寂しいものだよな」
メイドの一人でもいれば華やかなものになったのだろうか。
「そういえばご主人様は武器以外の金銀財宝を持って行って居ないようですが大丈夫なんですか?」
「まあ大丈夫と言えば大丈夫だな。知人に攻略されていないダンジョンを捜索してくれる奴がいてな。そいつと報酬を分け合う為に取っていないんだよ。まぁ攻略は大半俺一人で行うからかなり多く手に入るのだがな」
それはそうと俺の家の玄関前で見覚えのある長い金髪の後ろ姿やふりふりの洋服が風になびいている。
「……む? 孤高の迷宮攻略師君じゃないか!! それに……ふぅん、可愛いわんちゃんに可愛い女の子かぁ」
後方に居る俺らに気が付き振り向く。これが噂をすれば影がさす、っと言った奴か。
「さっき言った知人って言うのはコイツの事だ」
「知人だなんて酷いなぁ。私達は親友じゃないかぁ!! いや、親友ではないな……もっと上の。そうそう、恋人だよ私達は」
バッと両腕を大きく開き抱きつこうとしてくるところを一歩下がって回避する。
「勝手に捏造して変な記憶を植え付けようとするな」
フェンリルに至っては器用に前足で目を塞いでいる。
乙女か。
「さぁさぁ上がって!! なんにもない湿気た場所だけど許してね」
「お前の住処じゃねぇし湿気てて悪かったな!!」
まるで自分の家のように振る舞っているが、此処は紛れも無く俺の家だ。何故ここまで清々しく振る舞えるのか謎だ。
そんな謎は置いといて俺らは上がり込む。
「で、何故来た?」
「どうよ調子は」
コイツがそんなことを聞きに来たわけじゃないのは百も承知だ。ダンジョンの話か金の成る話だろう。
「それはそうとこのわんちゃん可愛いね。まさか飼っているの? それに私に隠して彼女まで作っちゃってぇ!! このこの〜」
フェンリルの両脇を両手で持ち上げると、ぎゅっと抱きしめた。
「助けてくださいぃー」
「あはは!! ワンワン言ってるよ可愛いなぁ。もっふもふだぁ!! ん? もう首輪を付けているのか? これ、中々センスが良いね。高かったろう?」
ワンワン? こちらからすれば助けてくださいとしか聞こえないのだが。
あぁ、そういえば首輪の効果で飼い主である俺は声を聞くことが出来るのか。
「そういえばお前は聞こえるのか? フェンリルの声が」
スライム少女に向かって質問を投げかける。
「まぁ、はい。同じくして魔物ですから」
「フェンリルだって!? あの神獣の!?」
仰天するかのようにフェンリルを上へと投げ飛ばす。
空中で一回転を決め、綺麗に俺の頭へと乗っかる。その後ひょいっと床に足を付け、少し間を取り変身しだす。
「ひゃー!! フェンリルだよ本物だ!! まさか生きていたなんて!! これは世紀の大発見にも匹敵するよ!!」
何時も以上にハイテンションになっていく。
「あ、自己紹介を忘れていたね。私は情報屋のレイミアって言うんだ。たまにスパイもやるよ。君達の名前は?」
「分かりません」
「付けてもらってないです」
そうだった。フェンリルのことはそのままフェンリルと言い、スライム少女のことはそのままスライム少女と言っていたんだ。
完全に忘れていた。
「え、あ、えっとな。この子の名前は」
スライム少女の肩に手を置くようにして少し時間を稼ぐ。
「赤黒巨大スライムです」
……。
なんて自己紹介だ。
「赤黒巨大スライム? スライムってあの雑魚魔物の? 触手でうねうねって美少女のあんなところやこんなところを弄くり回すあの?」
「お前のスライムに対する偏見っていうのはおかしい所が多いようだな」
とんだ風評被害もあったものだ。
……あれ? 怒っているのか? 髪が逆立って……。
「私も一度で良いからスライムにあんなことやこんなことをして貰いたいものだねぇ。流石にスライムに初めてを奪われるのは勘弁だけど。あっはっは」
背中から急に赤黒い触手が伸び始め、一瞬の内にレイミアの身体を縛り上げる。
「ひゃう!?」
「スライムは……決して弱くない!! 今ここで貴様を!!」
いよいよやばくなってきたんだが。
スライム少女から伸びる触手がレイミアの洋服の内部へと侵入していく。この時初めて思ったことがある。なんと言ってもスライムは偉大なんだということだろう。
「だめ!! ちょっと!! ゴメンってば!! 謝るからやめっ……あっ」
ある一瞬を境に、暴れに暴れたレイミアはその動きを止めた。その後ゆっくりと床に降ろす。
「軽い神経毒。ちょっと動けなくしたから」
毒まで操れるのか……ますます恐ろしくなってきたな。
「にゅるにゅるが……あぁ……」
洋服の下で何が行われていたのかは……特に考えないでおこう。
「まぁ分かって貰えたように、本物のスライムなんだよ」
「凄い……人語を喋れて尚且つ人間の身体で……」
納得して貰えたようでなりよりだが、まだ本題を聞いていない。
「とりあえず情報を受けて行ったダンジョンは攻略しておいた、後は任せたぞ。それで今日来た理由はなんだ?」
倒れ込みながら俺の方を向き、口を開ける。
「なんというか面白味のある話なんだけど、大迷宮って知っているかな?」
「大迷宮か。まぁ仕事柄小耳に挟んだことは幾らかはある」
大迷宮。この世界に今発見されている中で5つ入口があるとされる迷宮の一種と言われているものだ。また、俺らが足をつけて生きるこの大地と同じぐらいの大きさを誇るダンジョンとのことらしい。一度入れば攻略するまで脱出するのは不可能とされており、未だ脱出できた者は居ないとさえ言われている。
迷宮学者らの推測からすれば、その大迷宮は別世界の入口で、そこに住む人々の文明があり、世界があると唱える学者が居たり、俺らが生きるこの世界も大迷宮なのではないかと唱える学者も居る。ただ一つとしてその説が立証されたことはなく、大迷宮に関しては謎だらけで不確かなものとしか認識がされていないというのも確かだ。
つまり攻略するまで戻ってくることは出来ず、謎が多い迷宮と言ったところだろう。
そもそも攻略条件さえ、明確ではない。
「その大迷宮の入口の一つを、発見することに成功したの」
神経毒が引いたのか立ち上がり、何時もは見せない真剣な表情で見つめる。