第6話 呪詛
漆黒の闇の中、炎は天を焦がしていた。
炎にあかあかと照らされながら、白髪頭を振りたてて、物の怪に取り付かれた老婆は、玉串を手に踊り狂っている。
「この城に呪いあれ!」
炎の脇に立つ女も、目をぎらぎらさせながら唱和する。
「この門を通る者に呪いあれ!」
「この井戸を使う者に呪いあれ!」
「この城にある物全てに呪いあれ!」
老婆はふいに、ふんふんと鼻を鳴らしながら空気の匂いを嗅いだ。
「臭うぞ、臭う、鬼子の臭いがするぞ。かような仕儀に相成ったのも畢竟、あの鬼子のせいであろう!鬼子を探せ、鬼子を探すのじゃ!」
老婆が絶叫した。
女も、呪文を唱えるように同じ言葉をかん高く叫んだ。
暗闇の中から人々が沸いてきた。
皆口々に、鬼子のせいじゃ、鬼子のせいじゃ、あの鬼子さえ生まれなければ我等はこの城を追い出されずに済んだのに、と叫んでいる。
「見つけたぞ、鬼子はあれじゃ!」
老婆は暗闇に潜む者を指差して叫ぶ。
それは、茂みに隠れて震えている子供だった。
目にいっぱい涙をためて、がちがちと歯を鳴らしている。
異様な気配に怯えて、つんのめる様に逃げ出した。
後ろから人々が追いかけてくる。
膝ががくがくして、いくら足で地を蹴っても、前に進まない。
人々は既に人間の形を成していない。
その声は直接、子供の頭の中に響き渡る。
お前さえ居なければ!
お前さえ生きていなければ!
何本もの手が伸びてくる。
尖った爪が子供の皮膚を掻きむしり、指が、腕が、身体に絡みついてくる。
地の底へと子供を引きずりこんでいく。
絶叫した。
だが、いくら叫んでも、もがいても、助けは何処からもやって来なかった。