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俺以外

作者: 浅川天一

 もしもの話だ。

 地球上にいる俺以外の全員が他人の心を読む能力を持っていたら。

 彼らは他人に心を読まれないようにする術も知っており、テレパシーで会話したいとき以外はその方法で自身のプライバシーを保護している。ただし俺にはそういった能力は無いので、俺の個人情報や思考はダダ漏れだ。皆それを知っているから、俺には本当の秘密を話さない。皆が俺に教えてくれる秘密は全部嘘の情報だ。

 もしも、俺以外の全員が宇宙人だったら。

 別に、俺が彼らによって生み出された人工生命体などと言うつもりは無い。俺は偶々(たまたま)この地球に一人だけ存在していて、そこに宇宙人達がやってきて歴史という名の創作話を書いたのだ。なんと壮大なストーリーであろうか。

 もしも、俺以外の全員が時空を操る魔法使いだったら。

 だとすれば納得がいく。俺が物を無くしたとき、その無くし物は、時空の魔法で特殊なゲートを開けた誰かによって勝手に使われているのだ。ほとんどの場合ははしばらく待てば返ってくるが、いつまでも返ってこないこともある。

 もしも、俺以外の全員がラーメン屋だったら。

 ラーメンが嫌いなラーメン屋、赤ん坊のラーメン屋、本業はラーメン屋の会社員、本業はラーメン屋のラーメン屋。野良猫を見て可愛いとはしゃぐ女性も、隣で笑っている男性も、駅伝で走っている大学生たちも、お笑い番組に出演している芸人たちも、朝早く船を出す漁師たちも、仕事終わりに居酒屋に入っていったおじさんも、日本人も外国人もみーんなラーメン屋だ。地球は惑星ラーメンだったのだ。

 もしも、俺以外の全員の鼻糞が妖精だったら。

 俺の鼻糞は喋らない。でも皆の鼻糞は喋る。一人一人の心の友だ。ちょっと羨ましいけれど、今更俺の鼻糞が喋り出しても正直怖いから、このままでいいや。でも、もしも鼻糞の妖精が現れたらなんて名付けようか。ブラウンファイヤーとかはどうだろう。皆は自分の鼻に住む妖精になんて名付けた?

 もしも、俺以外の全員がコンタクトレンズや眼鏡から生まれていたら。

 言っている意味がわからない? それはすまない。でもそのままの意味だ。眼鏡やコンタクトレンズを使用している人間じゃなくて、眼鏡やコンタクトレンズが両親。眼鏡の子、コンタクトレンズの子、といってもほとんど皆が混血だ。でも、視力の良さは人それぞれだ。親とは関係無い。裸眼だったり、眼鏡やコンタクトレンズなどを使ったり、伊達眼鏡なんてのもある。なんだか不思議だ。

 もしも、俺以外の全員が俺の秘密を知っていたら。

 俺だけ皆と違うとして、それは一体何故なのか。俺だけが特別なのか、俺以外が特別なのか。そんなことは俺にはわからない。皆知っているなら俺に教えてくれればいいのにな。何を言われても俺は皆を恨んだりしないから。

 こんな感じで適当にありえない妄想を語ってみたけれど、もしかしたら一個くらい当たってるかも。ありえないけど、ありえない話じゃない。









 この地球上に、ある一人の男がいる。

 他人の心を読み、時空の魔法で勝手に人の物を借りたりそのまま自分の物にしてしまう悪戯いたずら好きの宇宙人。迷惑な奴だけど、腕の良いラーメン屋で、可愛い鼻糞の妖精を連れている。宇宙にある眼鏡とコンタクトレンズから突然生まれた未知の宇宙人。天才的に想像力が豊かで、想像だけで真実に辿り着いてしまうことも時々ある。

 だけど、彼は自分が何者かすら忘れてしまった。心を読む方法も、時空に穴をあける方法も、ラーメンの作り方も、妖精との会話の仕方も、自分の出生も、みーんな忘れてしまった。

 彼以外の全員が彼の秘密を知っている。だけどそれは彼には秘密。それは彼との最後の約束だったから。


「俺は全部忘れてしまうけれど、俺はもう満足だ。ブラウンファイヤーはいなくなってしまったけれど、俺には皆がいる。どうか、全てを忘れた俺に真実を話さないでくれ。これからは、普通の人間同士として俺に接してくれ」


 悪戯好きのあいつと交わした約束。あいつには内緒の皆の秘密。

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