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あたしはアヒル2  作者: るりまつ
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試しにコレで 食ってみやがれ

 

 ハナコはカウンターの中で、使い込まれた大きな土鍋におじやを作った。

 真夏のおじや。そして、


「はい、アヒルちゃん。二日酔いの時は水分と、あとちょっと塩分も多めに摂ったほうが良いのよ」


 と言って、土鍋の中でふつふつ煮立ったおじやを、手になじむ小さな木のお椀によそい、 同じ揃いの木のスプーンを付けてアヒルの前に置いた。  

 具は溶いた卵と、シャケのほぐし身とシメジ。 熱々の上に刻んだ三つ葉とすりゴマがたっぷりと乗っていて、親しみのある香ばしい匂いが、洗練されたラウンジいっぱいに広がる。

 そして上品な笑みを浮かべ、鮮やかな青いグラスに冷たい水を注いでくれた。


「タケル、あなたもこっちに来て食べなさい」


 ハナコに呼ばれ、タケルは仕方なくのろのろと立ち上がり、明るいデッキからラウンジの中に戻って来て、元いたアヒルの一つ隣のスツールに黙って座った。

 そこへ湯気の立つ、山盛りのおじやが入った中華どんぶりがドンッ!と置かれ、その横に南部鉄のような黒くてゴツいレンゲが添えられる。 それから『KIRIN』と書かれた透明なグラスの口いっぱいまで、たっぷりと水が注がれた。


「召し上がれ」


 ハナコの声を合図に、タケルが置かれたどんぶりの前で両手を合わせ、神妙な声で「いただきます」と言う。

 それにつられて、アヒルもタケルをチラリと横目で見てから、同じように手を合わせた。


「い、いただきます」


 アヒルは見るからに熱そうなおじやを、木のスプーンに少し取り、 フーフー冷ましてからそっと口に運んだ。 すると見た目の薄い色に反し、しっかりとコクのある味噌味がして、ほのかな甘みが感じられた。


「あ!白みそですか?これ」

「あら、アヒルちゃん分かる?そうなの、うちの実家がね」


 ハナコが、味付けに素早い反応を見せたアヒルに対し、嬉しそうに説明を始めようとした時、 ガラン、べちゃ。という音がして、続いて、


「ぅぁぁぁあああああああああ熱っっちいぃぃぃぃっっっっ!!!!」


 と叫び声を上げながら、タケルが鉄のレンゲを手から落とし、椅子から弾けるように飛び上がった。そしてそのまま「ヒャァァ!ホォッホー」と奇声を発し、片手で口をハフハフ仰ぎ、もう片手を高く掲げて、アヒルの横でぴょこぴょこ跳ね回り始めた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 アヒルは目を丸くして、咄嗟に水の入ったKIRINのグラスを、タケルの前に差し出した。

 しかし歓喜の舞を踊るインディアンのような滑稽なタケルの姿に、思わず吹き出してしまった。

 ハナコも綺麗な口を大きく開けて、ゲラゲラと声を立てて笑い始めた。

 二人に笑われながら、タケルは必死の形相で差し出されたグラスを奪い取り、水を一気に飲み干すと、


「んだああああぁぁぁ!?モチぃ!?モチかぁぁぁ!?!?モチ、入ってやがった!!!」


 とモチを連呼し、空になったグラスをカウンターの上にガンッ!と置き、 側にあったアヒルの青いグラスに素早く手を伸ばし、止める間も無くそれも飲んでしまった。

 ハナコは急いで両方のグラスに水を継ぎ足すと、眉をひそめて言った。


「がっついて食べるからよ。火傷やけどするわよ?」

「もうした。ノド、やばい、、、溶けたモチが貼り付いた。てか、鉄のレンゲにも悪意を感じた、、、」


 そう言って、タケルは犬のように舌を出し、わざとらしく肩で息をして見せた。そして立ったまま、もう一度自分のグラスに注がれた水をゆっくり飲むと、力尽きたようにスツールに腰を下ろした。


 ウフッ。タケルさん、なんか可愛いかも……


 ここに来てから、ずっと気取ったような態度だったタケルの取り乱した姿を見て、アヒルはクスクス笑いが止まらなかった。それをタケルは横目で睨み、


「人ごとだと思って……おまえ、試しにコレで食ってみやがれ!」


 と言って、鉄のレンゲをアヒルの方に押しやると、 代わりにアヒルの使いかけの木のスプーンを、小さなお椀から奪い取った。


「あっ、それあたしの、、、」


 慌てて取り返そうと身を乗り出したアヒルの前で、タケルはドンブリの中のおじやをそれですくうと、そのままパクっと口にした。そして、


「うん、これならいける」


 と言って、あっけにとられるアヒルに向かって、嬉しそうにうなずいた。

 そして今度はアヒルと同じように、おじやにフーフー息を吹きかけ、ゆっくりと食べ始めた。



 私の使ったスプーンなのに、、、


 イヤじゃない……のかな。


 あんな美味しそうに食べてる……


 そういえば、コップも……


 わ、わ……なんか、どうしよう、、、


 

 

 一瞬見せた、タケルの無防備な笑顔と予想外の行動に、アヒルは自分の頬が再び真っ赤になるのを感じた。





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