表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしはアヒル2  作者: るりまつ
40/42

再会の予感


「ふんっ。ずいぶん、元気そうじゃねぇか」


 タケルは、ちっとも面白くなさそうに言った。


「あ、はぁ、おかげさまでその節は……ていうか、さっきの電話スイマセン、なんかユウキ君が、、、」

「もういい。だいたい想像つく。いつものアイツの独りよがりな冗談だろ」


 う……さすが幼馴染み。見抜いてる、、、


「あの、タケルさん。あたしも確かに用があったんですけど、その前に、タケルさんのあたしへの急ぎの用ってのは何だったんですか?」

「オレの?オマエに??」

「あ、はい……昨日の夕方、前田レナちゃんが、タケルさんから電話がきて、あたしの連絡先を訊いてきたって言ってたから……」

 あたし期待して待ってたんすケド??



 しばらくの沈黙。そして、



「……忘れた」



 う、、、これが例の、、、さすが幼馴染み。こっちも見抜いてる……



 アヒルは、さっきユウキが言っていた、タケルの習性を思い出した。

 しかし実際、その『忘れた』という言葉を本人の口から聞くと、取りつくしまもないような、想像以上のダメージを受けた。


「そ、、、そですか……い、一体なんだったんでしょうね、アハハ、、、ハァ……あっそうそう!あの、あたしの急用ってのは、靴なんですけど、車の中にありませんでしたかね、クツ。すっかり忘れてて、タケルさんのビーサン履いて帰ってきちゃったんですケド……」

「ああ、、、あの忌わしい紺色のだろ?ある。洗って干した」

「え!洗ったんですか、アレも?!いつ?なんで……??」


 あのどさくさに、ブラジャーだけじゃなく、クツまで洗っていたのか!?


 アヒルはちょっと驚いた。


「今朝。いけなかったか?けがれてそうだから清めようと思って……」

「えぇっ!?ケガレ??キヨメ!?!?、、、ていうか、、、そんなヨゴレてました??」

「いや、ヨゴレてはいなかったけど、ケガレが……や、気にするな、オレの気分の問題だ」



 気にするなって、アンタ、、、もう言っちゃってからそんな……

 ケガレてるって、ヨゴレてるよりショックなんですけど、、、どぉゆぅことよー!?!?



 アヒルは、タケルの言葉に動揺した。

 すると、横からホナミが口を挟む。


「こいつ、なんでも洗濯すんの好きみたいだからさ〜。海入ったあととか、なんかブツブツ言いながら一人でウェットとか海パンとか、楽しそうに水洗いしてんの。車とか洗車すんのも好きなんだよな?」


『オンナのオッパイとかもよくモミ洗いしてるんだよな?!』


 と、遠くで誰か男の言うのが聞こえてきた。



 タ、タケルさんて、潔癖性?!

 ま、まさか、あたしのオッパイも、実は気絶してる間にモミ洗いされてたのか……?!?!



 アヒルは狼狽うろたえた。

 そしてあの時、最初の海の無料駐車場で、タケルが腰に巻いた布一枚の姿で、機嫌良さそうにミントグリーンのバケツでトランクスなどを洗っていた事を思い出した。


「ふん。お清めしてやったんだ、疫病神め!てか、あっ!!……もぉぉぉーーー!!ごちゃごちゃしゃべるな、気が散る!!」


 どうやら、ホナミの携帯がスピーカーフォンになっているようで、タケルの声もホナミの声も、その周りの人の声やざわめきも、かなりハッキリとアヒルの耳に入って来る。

 タケルは何か作業中でイラついているようなので、邪魔をしないようにと、アヒルはコソッと電話の向こうのホナミに話しかけた。


「ホ、ホナミンは……今どこにいるんですか?」

「アタシ?吉祥寺のショップのガレージ。夕方、行方なめかた駅出て、電車でこっちに戻ってきたんだ」

「そうだったんですか!」


ホナミが東京にいると聞いて、アヒルは急に陽が差したような明るい気持ちになった。


「サーフショップって、こんなに遅くまでやってるんですか?」

「ううん、ホントは10時までなんだけど、なんとなくお客とかとダラダラ話してて、タケルはボードの修理とか始めちゃったし、店長もビールとか飲み始めて、テキトーに。ね!」



 おーす。


 飲んじゃってまーす。



 ホナミの『ね!』に合わせて、少し遠くから何人かの男の声が陽気に叫ぶのが聞こえてきた。


「こいつさぁ、昨日やろうと思って部屋に連れ込んだオンナに、サーフボード壊されたあげく、逃げられたんだって!んで、今それ直してんの。バカでしょ?」


 ホナミの軽蔑したような言葉に、近くにいるらしい若い男が、大げさに驚く声が聞こえた。



  ええ、マジすか!?それ、最低ですね!!


      だろ〜?ひでぇオンナだろ?


   ぶぁか!おめーが最低って言われてんだろ?!    


       ギャハハハハ!!! 


 や、おれはタケルちゃんの気持ちぁわかるなぁ〜  


       あ、わかってくれるの?


  やりきれなくてボクはその場に茫然とたちつくしました、


        もうアレはたってなかったけど。なんつってー!


   ブハハハハハ!! そりゃ確かにヤリきれねぇや! ガハハハ!!! 


    

 スピーカーフォンから容赦なく聞こえてくるタケルのスケベな本性に、アヒルはワナワナと震えた。



 ひえ〜〜〜!あたしが切ない思いでビーサンを眺めていた頃、タケルさんはオンナと……

 くうぅぅ、、、あたしのクツなんかよりよっぽどケガレてるじゃんかぁぁぁ〜〜〜!!!!



「ねぇ、もしもし?アヒル?聞こえてる?もしもしぃ?」



 はぁ…… 悲しいくらい聞こえてます、、、



 アヒルが黙っていると、ホナミの甲高い怒声が響いた。


 

「あんたら、ちょっとうっせぇよ!!アタシ、話してんだからっ!!」



 すると、辺りが水を打ったようにシーーーーーンと静まり返った。

 その中で、誰かの弾くギターの音と小さな鼻歌だけが、BGMのようにかすかに聞こえた。


「ははは、みんなちょっと酔っぱらってんだよ。それよかさ、アヒル、明日って仕事??」

「あ、明日ですか?……はい、一応」

「そっかぁ。何時に終わるの?」

「9時です」

「んじゃさ、せっかくだから仕事終わってから、ちょっとメシでも食いに行く?」

「え!ホントに!?」

「うん。アタシ適当にこっちで時間つぶすからさ、あんたが仕事終わる頃に合わせるよ。……それとも、こっち来てみる?ブルーガーデン。タケルもいるし」


 ホナミは深い意味があって『タケルもいるし』と、言ったわけではなかった。

 けれどアヒルは、自分の気持ちを見透かされたようで、一瞬、返事に詰まった。


「ね、タケル、あんたも一緒にメシ行こうよ、アヒルと」

「んぁ?」


 固唾をのんで、タケルの返事に耳を澄ますアヒル。




「オレも?」


    どうか……


        「ふーん、、、」


               もう一度……


                    「来るんなら……」


                           会わせてください……




「行こっか?」


「だって。じゃあ決まり〜!!てことで、新宿出る前にメールしてね。ほんじゃ明日!」


 そう言って、ホナミの電話は唐突に切れた。



  よっっっしゃああああああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!



 タケルにケガレと言われたことも、下ネタに呆れかえっていたことも忘れ、アヒルは途中下車した駅のホームで小躍こおどりして喜んだ。

 押し殺そうにも、どうにも込み上げてくる笑みを、上がってくる口角を、小さな手で必死に隠し、次にやって来た電車に乗り込んだ。



 また会えるんだ、タケルさんに!ホナミンに!! 

 もう一度会えるんだ〜〜〜!!! 超うれしいぃっ!!!



 車窓に映る自分の笑顔に微笑み返したいくらい、アヒルの心は舞い上がった。

 するとその時、今度はメール着信のバイブレーションがカバンの中で短く唸る。

 アヒルはまたカバンから携帯を取り出し、画面に表示された名前を見て目を丸くし、さらにこぼれそうな笑顔になった。

 そして、急いでメールを読んだ。


 そのメールは、件名も無い、短いものだった。


 それを読み終え、一瞬、これは誰かに宛てて書いたものを、アヒルに間違えて送ったのではないかと思った。

 本文には、相手の名前も、送信者の名前も入っていなかった。

 胸がドキドキとし、顔が赤くなってきた。

 アヒルは周りを見渡し、携帯を大きな胸に押し付けてメールを隠した。





    今度はいつ来てくれるの?

   

    早く会いたいわ


    待ってるから   フフフ…






 その送り主は、間違いなくハナコのはずなのだけれども……








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ