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あたしはアヒル2  作者: るりまつ
34/42

嘘つき



 息を弾ませて店に入り、店長と早番のパートのオバサンに挨拶する。


「あらアヒルちゃん、早いわね、今日は!」

「あ、はい、すいません、いつもギリギリで……」


 カウンターに入ると、レナが接客していた。


 レナはアヒルの姿を見つけると、そのまま表情も変えずに、客の注文を復唱してトレーを出し、アイスコーヒーの用意をしている。

 まだ3時まで時間が20分くらいはあったので、勤務交代するタイミングで、少し話せたらいいなと思ったが、レナは並んでいたお客さんがいなくなった後も、ボーっとカウンターに突っ立っていて、アヒルの方は見向きもしない。

 その様子を見て、アヒルは嫌な予感に胸がドギマギしてきた。


「レナちゃん、おはよう」

「おはようございます」


 堅苦しい挨拶を返すレナ。

 店内にはガラス張りの特等席に2人と、奥の暗いテーブル席に3人の客がいるだけで、もうすでにいつものヒマな空気が漂っていた。



 今ならここでも話しできるかな……



 アヒルは恐る恐るレナに話し掛けた。


「レナちゃん、こないだはゴメンネ。あたし……」

「あれからどうしたの?」


 するとレナは待っていたかのように、鋭く小声で訊いてきた。

 その目は、カウンターに重ねて置かれた白いコーヒー皿の上を見つめている。


「あれから……」


 アヒルは迷った。明らかにレナの様子は不機嫌だ。


「……あたし結局、途中の事、何も覚えてなくて……気づいたら昨日家で寝てた、みたいな。レナちゃんこそ、タケルさんに何か聞いてる?あたし、何かやらかさなかったか心配で……」


 アヒルはズルいとは思ったが、まずは探りを入れることにした。

 するとレナは、しばらく黙っていたが、自分の親指の爪をいじくりながら、小声で話し始めた。


「タケルさんがあんたを連れて帰ったあと、私達みんなでカラオケ行ってたんだけど、途中でタケルさんから、あんたが寝ちゃって全然家が分からないから、住所とか知らないかって電話が来て……でも私もユリエも、あんたんち行ったこと無いし、住所なんていちいち知らないし……だから『分からない』って言ったら、『じゃあ何とかする』って言ってそれっきりで……」


「う、うん……それで?」


 アヒルは他人事のようにレナに相槌あいづちを打つ。


「それから次の日もどうなったか心配だったから、あんたとタケルさんにまた連絡したんだけど、どっちからも全然返事来ないし……」


 アヒルは黙って、その続きを待った。


「そしたら、タケルさんからやっと3時過ぎくらいに電話があって、アヒルの連絡先、大至急教えてくれって……。何かと思ったんだけど、急いでたみたいだから、その時は理由まで訊けなくて……。それだけ」


「それだけ?」


「それだけ」


 アヒルは心底ホッとした。

 タケルは余計なことはレナに話していない。

 一晩一緒にいて、海に行ったコトはバレてない。


「家で寝てたって事は、送ってもらえたんだね、ちゃんと」

「……う、うん、そうみたいだね。覚えてないけど、きっと無意識に住所言ったのかな」


 アヒルはヌードベージュの唇で、ニコッと笑う。

 レナはようやくアヒルの方を向くと、その笑顔をしばらくじっと見つめた。


 そして目を細めて言った。





       「 嘘つき 」












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