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あたしはアヒル2  作者: るりまつ
33/42

待ち伏せ



 ビルの地下3階にある、従業員用ロッカールームに入ると、アヒルは洗いたての白いポリエステルの半袖ブラウスと、こげ茶色のヒザ丈のタイトスカートという、地味なユニフォームに着替えた。


 ブラウスは、アヒルの身長に合わせると胸がきつく、留めたボタンが引きつれて不自然なので、ワンサイズ大きいものを着ている。

 が、そうすると今度は袖まわりが大きくて、腕を不用意に上げたりすると、下に身につけているブラからはみ出た横パイが見えてしまったりするのだが、だからと言ってどうしようもないので、とりあえず気にしないことにしていた。

 たまに、ちょっとネジのゆるみかけたご老人に、左胸の上に突き出た名札をしげしげと見られながら


「あんたアビルさんていうの?大きなオッパイだね〜」


 と、感心したように言われたりする事もあるが、そんな時はウフフと困り顔で笑って流す。

 そして店長は嫌な顔をして、決まってアヒルを裏の洗い場に引っこめるのだ。


 アヒルは飾り気のない黒いヘアゴムで、薄茶色の猫っ毛を後ろに小さく引っ詰めて、普段は頬を隠すようにシャギーになったサイドの髪を、前に垂れてこないようにヘアピンでしっかり留めた。

 そしてブラウスの襟を立て、ゴールドにコーヒー豆柄のドットのリボンタイを絞める。

 ロッカーの扉に付いた小さな鏡で、タイの形と髪のまとまり具合をチェックし、正面を向いてヌードベージュの唇の両脇をもう一度指で押し上げ、ニッ!と笑った。

 そして黒い合皮の安っぽい仕事靴に履き替えると、透明の私物袋を持って階段を昇り、少し早目にコーヒーショップへ向かった。

 すると、地下一階のフロアーに出たところで、突然、男に声を掛けられた。



「アヒルちゃん!」



 アヒルは驚き、小さい目を丸くして立ち止まった。


 そこにいたのは、固く身の締まったコデブ……

 オレンジ色のメッシュキャップの下のギョロリとした目……


 つまり、ラフテーだった。


「おれ卓也だけど……覚えてる、、、よね?」


 合コンの最後の記憶は、ラフテー卓也の「ラブホ、行こう」という言葉だ。

 このウザい男の顔を、アヒルが忘れるはずも無い。

 しかし、メールの返信を無視していたことを思い出し、アヒルはバツが悪そうにうつむいた。


 卓也はコデブな体に、インディゴブルーのピッタリとしたTシャツを着て、尻の下がったヒッコリーのぺインターパンツを履いていた。

 そしてボロボロのスケートボードがくくりつけられたバックパックを背負っていて、元々は白だったのでは?と思うような、汚いグレーのスリッポン・シューズを履いていた。



 なんでコイツ……まさか、あたしのこと待ち伏せしてたの??



 アヒルは上目づかいで卓也の顔をじっと見た。

 その視線の意味を察してか、言い訳がましく卓也は言った。


「レナちゃんに教えてもらったんだ。アヒルちゃんはいつも遅番で3時からだって。そしたら多分、ここ通るだろうな〜と思ってさ、、、」


 アヒルは黙ったままだった。

 卓也は、アヒルの視線から目を逸らすようにして、ぺインターパンツのポケットに手を突っ込み、自分の汚いシューズの先を見ながら続けた。


「……あれから大丈夫だったかなと思って、メールしてみたんだけど、、、届いたかな」


 一昨日の合コンの時とは別人のように大人しい卓也の態度に、アヒルは逆に警戒した。

 そして卓也がポケットに手を突っ込んでモジモジすると、下がったズボンがさらに下がって、アヒルはこのまま目の前でズボン脱げるのではないかとイライラした。



「ちょっと二日酔いで調子悪かったから、、、返信できなくて……」

「そんなに具合悪くなっちゃったの!?ゴメン、、、おれが調子ぶっこいて、アヒルちゃんにガンガン飲ませちゃったから……」

「別に卓也くんのせいじゃないし。あたしが勝手に飲み過ぎただけで……とにかく、もう大丈夫だから気にしないで」

「あ、あのさ、あれからタケルサンに、、、ちゃんと送ってもらったの?」

「うん?」

「ホントはおれ、付いててあげたかったんだけど、なんだかいつの間にかタケルサンが連れて帰ることになっちゃってたから……」


 

 オマエは、あたしをラブホに連れ込みたかっただけだろーが!!



 アヒルはさらにイライラして、わざとらしく時計を見た。


「あたしそろそろ行かないと……」

「あ、ごめん、そだね。俺、ユウキと5時からバイトなんだ。アヒルちゃんは今日、何時まで?」

「一応ラストまでかな。じゃ、行くね!」


 アヒルは時間は答えず適当に誤魔化すと、そのままスタスタと歩き出した。



「あ、あのさ、、、またメールするから!!」



 返事は無い。

 卓也は、ポケットに手を突っこんだまま、そんなアヒルの後ろ姿を見送った。







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