起き抜けに……
フガッ!
という音に、いきなり目が覚めた。
一瞬、何の音かとアヒルは小さな目をパチクリさせたが、すぐにそれは自分のイビキの音だったと気が付き、恥ずかしさにキョロキョロ辺りを見回した。
しかし既にラウンジの中にもデッキにも客の姿は無く、海の方でまた水の音と女の子の声が、微かに聞こえてくるだけだった。
アヒルはリクライニングさせていたイスの背もたれを起こし、口の周りを念のため手でぬぐって座り直すと、ラウンジの中にいたハナコがすぐにそれに気づき、アップにまとめていた髪を解いて、風にサラサラなびかせながらやって来た。
「良く眠れた?」
起きぬけに……
こんな美しい笑顔を見ることができたら、
男はいったいどんな気持ちになるのだろう?
アヒルは、目が覚めたら、この場所は消えて無くなっているのではないかと思ったが、ハナコはやはり存在し、髪からほのかに漂ってくる甘い香りは、全てが現実であることを物語っていた。
寝起きで、ボーっとハナコの顔に見惚れているアヒルに、ハナコは冷たいレモン水の入ったグラスを差し出した。
「いびきかくほど熟睡してたみたいです」
アヒルは自嘲気味にそう言うと、水滴の付いたグラスを両手で大事そうに受け取って、お礼を言った。
それを聞いてハナコは微笑み、長いまつ毛にふち取られた目を優しく細めて言った。
「服が乾いたの。レギンスのポケットの中までしっかり乾いたわ。ホナミンが今、洗い物してくれてるから、その間にシャワーを浴びて、着替えたらどうかと思って」
振り子時計の短針は3に近い辺りを指し、長針は8を指していた。
ラウンジで真剣に皿洗いをしていたホナミが、アヒルに向かって口でニッ!と笑いかけた。
「ここから品川までは普通列車で4時間くらいかかるわ。それに東京に入って、混んできた電車の中で、汗臭いのはいやでしょう?」
確かに、ハナコの言うとおりだった。
タケルの車の中で寝ていた時から、すごく汗をかいていたし、頭だって昨日から洗っていない。
「ありがとうございます。じゃあ、そうさせてもらって良いですか?」
現実の世界へ帰る支度をしなくては。
レモン水の残りを飲み干して、アヒルは乾いた衣類を手に持つと、ハナコが促す方へと付いて行った。




