不器用貧乏薬師がイケメン騎士を落として玉の輿に乗った経緯の話
いらっしゃいませお客様!まあまあ冒険者さんですか。こんな辺鄙な田舎村までようこそお越しくださいました。
本日はどちらが御入り用でしょう。傷薬と湿布と傷薬しかありませんが。すみません何分田舎で。レパートリーがなくて。
でも効き目は保証しますよ!なんとですね、近くに精霊の沼がありまして、そこの蓮を材料にしてますので精霊のご加護バッチリです。ちょっと取りに行くのが大変なんですが。ええちょっとなんですけどね、二度ほど死を覚悟しましたが。
ごめんなさい怒らないでくださいラインハルトさん、いつもすっごく感謝しています。
あ、こちらはですね辺境警備に当たっている騎士団に所属されている、騎士のラインハルトさんです。
はじめて精霊の沼を見つけたときに喜び勇んで突撃して底無し沼にハマって死を覚悟した私を助けて頂いたご縁で、以来沼にハマっては助けられハマっては助けられです。最近は非番の日に材料採取に付き合ってくださってます。今日もこの後ご一緒してくれる予定でして。
実はそうなんですへへへ。ハマっては助けられハマっては助けられしているうちになぜかラインハルトさんが私にぞっこんフォーリンラブでして。
…言うなって、ぞっこんフォーリンラブは否定しないんですかラインハルトさん。今気づいたって顔しないでくださいラインハルトさん。
それでって?お客様お話好きでいらっしゃいますねえ。まあ吟遊詩人もしていらっしゃるんですか!ええー恥ずかしいなあ私の話なんて詩にはならないんじゃないかなあ。あ、創作のネタ集めですか、はい。なるほど。
えーと、ラインハルトさんが魔物退治に駆り出されてる時にいつものように沼にハマった私がちょっぴり死にかけまして。ええ、この辺には魔物なんて出ないのに、群れからはぐれでもしたんですかねえ。村の近くまで来て暴れて人を襲いまして、騎士団が退治に。
なんでハマるとわかってて沼に行くのかって?あはは仰るとおりで。
間一髪で助けて頂いたんですが、ラインハルトさんに泣かれました。泣かしました。
ねえ、本当に可哀想に…。ごめんなさい許して。
泣いて死ぬな二度と一人で沼に行くのはやめてくれとお願いされて私もさすがに反省しました。
それでこうしてお付き合いするに至りまして。
まあそういった経緯で、レパートリーが傷薬と湿布しかない貧乏薬師でありながら、辺境警備の任を終えたら首都で出世コースなラインハルトさんという将来有望騎士様をゲットしたわけです。沼にもハマってみるものです。
反省してますって。ほんとに!
だって私にできるのは良く効く薬を用意しておくくらいなんですから仕方ないじゃないですか。
そりゃこんな格好いい騎士様に死にかけたところを格好よく助けられたりしちゃった日には乙女が惚れないわけないじゃないですか。はじめっからですよ。
滅多に出ない魔物退治なんて聞いて、もし怪我したらと思ったら居ても立ってもいられませんよ。
あ傷薬と湿布ですね。え、話のネタ代?いいんですか?…ただののろけ話だったからやっぱなしって!期待させて落とさないでくださいよ!
毎度ありがとうございまーす!
ん?あれラインハルトさんどうしました。すごい顔赤いですよ。あいにくレパートリーが傷薬と湿布しか…え?はじめて聞いた?
はあ、はじめから好きですよ?
さ、日が暮れる前に出掛けましょう。夜ご飯も作らないといけないし。帰りに買い物しましょうね。何食べたいですか?
首都に行くまでには私ももうちょっと、料理も薬もレパートリー増やしますから、ラインハルトさんこそ、怪我しないでくださいね。
私、今のところは傷薬と湿布しか作れないんですから。お願いですよ。