エピローグ
再び現れた山のお陰で戦争は終わりを告げた
「この度の勇敢なる者達に、黙祷」
ルシュタールを中心とした国々は戦死者の葬儀を行う
涙にくれる人々その中にロズ子爵家の者達もいた。
「泣くなお前達、父上は立派に戦ったのだ」
この戦いでロズ子爵の名はより広まった、今回の戦争を終わらせた一番の功労者であり、鉄壁と呼ばれるにふさわしい最後だったからだ。
「流石は鉄壁だな、まさか山を創り出すとは」
「そうですな、だが代償は大きいですな、まさかロズ子爵が亡くなるなんて」
「これでルシュタールの防衛体制を大きく変えなければいけないですな」
貴族達が今後の事を話していた、そんな中クレイはただジッと葬儀を見ていた。
「クレイ」
周りの仲間達が心配そうに見ていた、クレイの背中は泣いてる様で、怒ってる様で、そして寂しげだった。
「また守れなかったか隼人」
「礼二か」
クレイに話しかけるシラス、シラスはクレイが過去どれだけ失敗してきたのか見てきた、個人で出来ることに限界を感じながらも、なお足掻き前へ進んできたクレイを信じるシラス
「また勝てへんかったわ」
「そうだな」
「守るなんて大言吐いて、俺が守られたわ」
「ああ立派な人だったな」
「ロズは禿げたおっさんやったが、良いやつやった」
「ああ」
「バーギルは強かった、今の俺では勝てへん」
「ああ、見てたよあれは強すぎるな」
「ロズの魔法は凄かったわ」
「魔法であんな事も出来るんだな」
「後でよくよく星の記憶調べたらあったわ、山作る魔法」
「へぇー、過去にもあったんだな」
「俺はみんなを守る為にブライザーになった」
「ああ」
「でも守れなかった事の方が多かった」
「……」
「立ち止まるつもりは無い、ここで下を向いたらロズに合わせる顔無いからな」
「そうか」
「でもな」
クレイはここで涙を出す
「こんなに悔しいのは仕方ないんかな」
「そうだな俺も悔しいよ」
シラスも悔しかった、もっともっと対策を練っていれば戦死者を減らせたのでは、もっと危機感を持っていれば戦争が起こる前に対処できたのでは、後悔と反省は終わることなくシラスを追い込む
「泣くなクレイよ」
そこへ、カイエン公爵がやって来る
「父上」
「クレイよ、泣くな」
「ですが」
「今回の事で悔しい気持ち、悲しい気持ち、それは国民皆が持っている」
「それはそうでしょう」
「だが皆泣かん、何故だかわかるか」
「いえ」
「ルシュタールの信念だ、ルシュタールの騎士は人々の笑顔を守る為に戦う、お前も習っただろ騎士団20カ条を」
「はい」
「そして守られた者は笑顔でいる事、それが命がけで戦った者達への最大のたむけだからだ」
「無茶なルールですね」
「我らは立ち上がり前へ進まなければならない、それこそがルシュタール騎士の信念だ」
「はい」
「クレイお前は強い、私よりだ」
「そうですね」
「ふ、そこは少しは謙遜しないか」
「ふふ」
「だからこそ厳しく言おう、泣くなと」
「はい」
「悔しくても、悲しくても、ルシュタールの騎士は立ち上がり民を守るのだ」
「はい」
「受け取れクレイ」
「父上これは!」
それは豪華な儀礼の剣だった。
「お前も知っているだろう、ルシュタール騎士団、筆頭騎士、そして大将軍の証だ」
「これはいったい?」
「クレイ=バート=カイエンよ」
「父上」
「お前は、今日を持ってルシュタール騎士団の大将軍だ」
「どういうことですか?」
「クレイ、邪神と戦うための騎士団を作るには全ての権限をお前が持つべきだ」
「父上、それならば父上が大将軍でも」
「聞けクレイ、既に邪神の恐ろしさは皆が知る事になった、それは恐怖でしかなかった。
だがお前ならば、お前が希望なのだ、お前が先頭に立っていかねばならない、カイエン家の使命を果たさねばならない」
「先頭に立って戦うのは構いません、ですが父上が指揮をとって戦っても良いでは無いですか」
「すまない、クレイそれは無理なのだ」
「何故?」
「見てみろクレイ」
カイエン公爵が服をめくると、おびただしい傷と右手と右足が義手、義足になっていた。
「それは!」
「此度の戦争で貴族の当主達は皆、戦えぬ体になった者達ばかりだろう」
「そんな!」
「ほとんどの貴族家で当主交代が行われるだろう、お前が来るまでに我らは負ける直前だった」
「それ程だったのか」
「だが皆、後悔はしとらん、何故なら我が父からも同じ様に当主の座を貰い、天へ向かう父を見送ったからな、それがルシュタール騎士」
「父上」
「クレイよ、わしらの時代は終わった。
だが時代は続く、今回の戦争は多くの者を失った、だがそれを乗り越えて強くなるのがルシュタールという国だ」
「はい」
「クレイよ、この国を頼んだぞ」
クレイはロズの死にショックを受けてる暇などなかった、この戦争でルシュタールは様々なものを失った、敗戦に近いものだったがそれでもルシュタール国民は下を向かなかった。
ルシュタール法の一文にこんなものがある。
【空を見よ、そこにルシュタールがある】
初代ルシュタール王は飛空魔法を使い、騎士団を鼓舞する為に放った言葉であるが、それは国難に何時も言われてきた言葉である。
国民は常に空を見る、それがルシュタール国だから。