魂の山
ブライザーの攻撃を躱すバーギル
「やるね、それ見たことあるな、確かスーダル武道術だったかな?」
「知っとるか? バーギル」
「ああ、あの頃はまだこっちにいたからね」
「そうか」
変身したバーギルの強さは圧倒的だった。
ブライザーは何とかしようと隙を伺うが、隙だらけ過ぎて警戒してしまう。
「あれやっぱり露骨過ぎたかな、流石に引っかからないね」
「ちっ、相変わらず舐めたやつやな」
ブライザーとバーギルは直接戦うのはこれで何度目だろうか? その中でブライザーが勝ったと言えるのはほとんど無い、前回も勝ったと言うより見逃された、と言う方が正確だろう。
パワーアップしたブライザーですらバーギルの底を見れない、バーギルはこちらに来てより強くなっていた、いや本来の強さを取り戻しているようでバーギルの不気味さは増すばかりだった。
「しかし君は相変わらず会う度に違う姿を見せてくれるね」
「そやったか」
「初めて会ったのはいつだったか? 君の家族を殺した時だったかな」
「ちっ」
バーギルとブライザーが初めて会ったのは、とある戦いの時だった。
ブライザーはまだこの時未熟で、経験も浅くそして周りが見えていなかった。
そんな中、敵である紅蓮党党首バーギルと初めて出会う、そして家族と幼馴染を失ったのだ。
そこから何とか立ち上がり最終的にはバーギルを倒せたのだが、その因縁を断ち切るまでにはいかなかった。
そしてこの時もブライザーに試練は降りかかる
「そろそろ終わりにするよ、戦争の熱が冷めないうちにね」
「そやなお前を倒すとするわ」
「ふふ」
バーギルが攻勢に出る、その攻撃は予備動作なくブライザーに飛び込んでくる、防御も間に合わずまともに喰らう
「ぐっ!」
「どんどんいくよブライザー」
正直に言うとバーギルの戦いは素人のそれに近い、格闘技を習ったわけでは無い、猛獣と同じである本能のままに戦うのがバーギルである。
ブライザーは様々な格闘技を習い、自分でも戦いの中編み出してきたが、それでも追いつけたと言えたことはなかった。
「相変わらず無茶苦茶な戦い方やの」
「うーんそうなのかな? 私だって空手くらいは使えるんだよ」
「身体能力だけで戦ってる癖に技術アピールやめとけや」
「そんなこと無いよ、えい正拳突き」
バーギルは正拳突きと言うがただ単に拳を突き出しただけである、しかしその威力はブライザーの装甲に簡単にヒビを入れる
「くっ、M2の装甲ですら軽く破壊できるか」
「ふふ、強くなったと言っても所詮魔力でだからね」
バーギルの言葉に引っかかる物があったが、そんな事気にしている場合では無い、バーギルからの攻撃を防ぎつつも反撃の糸口を探す
「ふふ、いつ見てもその目は不愉快だね、決して諦めず希望を見出そうとする、実に不愉快だ」
バーギルの攻撃が強くなっていく、その度に傷付いていくブライザー
「ふん、お前を不愉快にするのはいい事やな」
ブライザーも軽口を叩くがバーギルに隙らしい隙が見出せない
「言うねブライザー!」
バーギルの攻撃が大振りになる、その隙を見逃さずブライザーはバーギルに反撃の一撃を放つ
「ここや、ブラストパンチ!」
「くっ!」
バーギルにダメージが通る、そこへたたみ込めるようにブライザーは必殺技を連発する
「うおーー!」
滅多打ちにあうバーギル
「これでしまいやバーギル」
ブライザーは必殺のキックをバーギルに放つ、しかしバーギルの目が光る、その目を見た瞬間にブライザーは負けを確信してしまう
「捕まえた」
バーギルはブライザーの蹴りを片手で受け止め
「さぁー、こっちの番だ! ブライザーーーー!」
つかんだままブライザーを地面に叩き落とす、それを何度も何度も、そして
「眠ってろ、いや死ねブライザー」
頭に血が上りブライザーを生かすつもりだった事をすっかり忘れ本気で殺しに来るバーギル
「縛れ愚かなものを!」
「ぐっ」
バーギルが唱えると完全に身動き取れなくなるブライザー、そして
「死ねブライザー」
「ご主人!」
そこにポン子が飛び出してくる、ブライザーの戦いをずっと見ていたが、いよいよブライザーのピンチにいてもたってもいられず飛び出してくる。
「あかんポン子、ここから離れろ」
ブライザーも忠告するがポン子はブライザーとバーギルの間に入り、バーギルを睨みつける
「ご主人は殺させない」
「ふん、何だ神獣か、たかが神獣ごときが私の前に現れて場をわきまえろ!」
バーギルはブライザーへの止めの技を放つ為のエネルギーを溜めながら邪魔なポン子を魔法で攻撃する。
その魔法はポン子を殺すのに十分な威力を持っていた
「やめろー!」
ブライザーの叫び虚しくポン子に直撃するかと思われたがそこに
「ポン子ちゃん、ここは私に任せてクレイ様をお連れください」
「おじちゃん」
ポン子に当たると思われた魔法をロズが防ぐ、何とか防げたようだがロズの用いた盾はぼろぼろで鎧は見るも無残な形になっていた。
「早くクレイ様をポン子ちゃん」
「えっ、うんおじちゃん」
ポン子はクレイの事しか考えていなかった為、言われた通りにブライザーを連れて行く
「やめろポン子、このままやとロズが!」
「安心して下さいクレイ様、私は鉄壁のロズ、あの程度の攻撃では死にませんよ」
そう言いながら笑顔でクレイを見送る、それを眺めてたバーギルは
「クックックッ、いいだろうお前が防げるならこの場は引いてやるよ」
バーギルはより面白くなりそうだと、あっさりブライザーを見逃す
「なめるな邪神よ、我が名はロズ、鉄壁のロズ、私の防壁魔法を貫けると思うな!」
「そうか、クックックッ貴様を殺した後のブライザーの顔を見るのが一番楽しそうだ」
バーギルは既にロズの話を聞いていない、ブライザーの関係者を自分の未熟さで死なせてしまう、それがブライザーにとってどれ程残酷な事かバーギルは理解している、何故なら何度もそうしてきたからだ。
「では耐えてみせよ人間!」
バーギルはそう言うと準備していた技を放つ
「ぐおーーーーー」
ロズは自らの魔力全てを防壁魔法に注ぐ、もちろんそんな力ではバーギルの攻撃なんて防げない、だが今耐えているロズ、魔力を沢山使う時、人から属性に合わせた色をした蒸気の様なものが出ることがある、しかし今ロズから出る色はどれにも当てはまらないものだった。
それは魂の色だった、この世界に生きる者全てが使える命をかけた魔法である。
ロズは邪神の強さを嫌というほど知っていた、そして対抗できるのがクレイだけだと、クレイがこの世界を守る為必死に努力しているのを知っていた、だからこそクレイによく仕えた、それが邪神に対抗する為の一番の方法だからだ。
そしていざという時の為にシラスからとあるアイテムを持っていた、そして家宝として受け継がれてきた、とある迷宮を制覇した時のアイテムも
その二つを合わせることが出来ると何故か確信していた、ロズは今この時か使う時と決断する
【絶断の山】これがロズの秘策である。それは太古の昔、大陸で起こった戦争を一夜で終わらせたという、命を対価に人の極限まで、いやその先の魔法を使わせる、一番近いのはゴットバオムだろうか、迷宮の魂を持ったアイテムに、大量の魔力を補充する方法、そして人の魂を捧げること
「我が名はロズ、全てを捧げよう、だから願うこの世に断絶を!」
【絶断の山】
「なに?」
その時、また西と東の大陸は分断されたのだった。