戦争の行方
グレギルが背中の大剣を持ち構える、大剣に膨大な魔力を込めてブライザーに斬りかかる、そのスピードは凄かったがブライザーにとっては早いだけである
ガキン!
金属と金属がぶつかる音、そんな音が何度も何度も鳴り響く、音を聞く限りは互角の様だが
「くっ!」
グレギルが押されているのは見て明らかだった。
「確かに強いが、なんや知識はあるが経験ない感じやな、お前もしかして戦うの初めてか?」
「違う!」
グレギルは純粋培養の戦士である、戦いもまともに戦うのもこれが初めてに近い
「あー!」
大剣を振り回す、しかしブライザーには当たらない、何度も何度も剣を振るが当たる気配は全くなかった。
「ちっ、まさか、ここまで差があったとは」
ライネルは戦いを見ながらグレギルがブライザーに勝てるビジョンが浮かばなかった、普通のブライザーなら勝てるはずだった、しかしブライザーの急激な変化に予想が完全に外れた形となっていた。
「じゃあこっちから行くで」
ブライザーはそう言うと大剣を掴む、グレギルはビクともしないその状況でうんうん唸ることしかできない
「これが星の声か」
ブライザーが何かを呟いた瞬間、グレギルから魔力が無くなる感覚を味わう
「なに?」
グレギルはなにが起こったのか分からないが、それでもこいつを殺さなければと必死に大剣を動かそうとする、だがなにもできない、そうグレギルはここでどうすればいいか全く分からなかったのだ。
「なんで、どうして」
パニックになるグレギル、自分の意思で何かをした事のない彼女には、対処する事が出来ない
「くそ、この役立たずが!」
ライネルがブチ切れて叫ぶ、その声を聞きグレギルは怯えるだけの少女になる
「なんや?」
ブライザーもなにが起きたのかよく分からない、そんな戸惑いが隙となってライネルの介入を許してしまう
「グレギル撤退だ」
「えっ、あ、あ」
「このノロマが、さっさとしろ、また罰を受けたいか!」
「い、いやー」
グレギルはその場から急いで離脱する、ブライザーも止めようとしたがライネルが邪魔で何もできない
「なんや次はお前か?」
「ふん、少し予定外だが時間は十分だろ」
「時間?」
「ブライザー、私はねこの大陸を戦乱にまみれた素晴らしい世界にしようと思ったのさ」
「相変わらず、ゲスい考えやな」
「さて、この大陸は西と東だけかな?」
「何! まさか」
「そうさ、北もいるんだよ」
ライネルの計画は、この大陸に大戦を起こす事だった。
この大陸は西の国々に山を隔てて東の国々、そして北の魔国を中心とした魔族たちが覇権を争っていた。
その中で一番豊かなのが東で次に西、北は氷しかない様なもの、グランツが治める前から魔族は南下政策を取っていた。そして普段ならありえない西と東の大規模な軍事衝突にさいし、全面戦争を仕掛けるに至る。
そこで1番の邪魔なのがWSSである、そこでライネルはWSSを戦地の中心から引き離す事にした、今回のライネルの目的は時間稼ぎであり、ブライザーを倒す事では無かったのだ。
彼らの目的は戦争で勝つ事ではない、混乱した世界である。
だから圧勝する戦力なんて用意しない、拮抗した力で戦わせ、勝者を作らせない、最後まで悪辣に人を苦しめるそれがライネルの作戦だった。
「理想としては、あそこの戦艦を壊せたら満点だったんたけどね、まあいいやどうせ今から君が行っても十分な成果は出てるだろう」
ライネルがニタニタしながら話す、勿論この話も時間稼ぎであるが、ブライザーはそれどころではない、西との一騎打ちなら高い確率で勝てるだろうと思っていた、しかし魔国まで介入して来るとなると被害は想像出来ない、それはルシュタールだけで無い、西側の人々も想定外の被害が出るはずだ、そしたら奴らの望む混沌の世界が始まるかもしれない、この世界で初めてかも知れない、ブライザーが何もできない事が
「オリバー貴様!」
「くくく、その焦った顔素晴らしいよ、その顔を見れた事であのノロマの失態も気にならなくなる」
ライネルは勝ち誇り、高笑いを始める、しかしブライザーにはそんな事どうでも良かった、すぐさまルシュールへとイーグルを発進させるのだった。
「頑張れよブライザー、いやクレイ君、ははは」
ライネルの笑い声を背にしながら
だが二人ともこの世界の真実を知らなかった、この世界で魔族は共通の敵であり、いくら国同士の戦いがあったとしても、すぐさま停戦し共闘する事が暗黙のルールであった。
だからこれまで魔族達は人同士の大戦の時は終わるのを待つ、決して大戦の最中に戦いにはいかなかった、だが地球の常識か未だに離れないグランツもライネルも謝った選択をする、そしてクレイも勘違いをしていた。
「なんやこれ!」
クレイがそこで見たのは、魔族と人の二つに分かれた戦争であった、人は共闘出来ていた長年魔族と戦ってきた人族の知恵なんだろう、だが決して人族の有利では無かった何故なら
「さぁ、行け我が信徒共よ」
そこに
「バーギル!」
バーギルがいたのだった。