ある日の1日、クレイ編、アルカラ
アルカラには有名なお話がある。【姫の野獣】と言い内容は獣に育てられた見た目醜い男がお姫様に恋をして、姫を攫った魔王を倒して救い出し最後はとある領地を治め姫と末長く幸せに暮らしたというよくあるお伽話であるが、これはアルカラの歴史上で実際にあった事実である。
お伽話の内容は大衆向けに、いや姫出身国が真実を隠すために改変した内容である。
真実は獣に育てられた男では無く、魔物であるオークに姫が恋をして押掛け女房のようになり、その最中姫の祖国であるルシュタールと魔国とで大きな戦争が起き姫が人質となってしまう。
オークは武器も持たずに単身魔国に向かい魔王を蹴散らし姫を救いそこで愛を確かめ合い駆け落ち覚悟で結婚する事にするが、時の王が娘の覚悟に小さな領地を与えオークの事を隠す事を条件に結婚を認め、オークは対外的には常に仮面を被り見るに堪えない醜い男として生活をする事になる。
それでも仲良く暮らし天寿を全うし息をひきとる、そしてこのオークが編み出した格闘技こそ魔闘術でありルシュタール全土に拳王として尊敬されている、そう魔闘術は人が編み出した物では無かったのだ。
ちなみにオークと姫の子孫はジース地方を治める子爵とし、そして拳王の里として観光に力を入れている。
「「ではいくぞ、真の魔闘術を見せてやろう」」
「へっ、それは楽しみやわ」
オークが使った魔闘術は四肢を完全なる武器として戦う武術であり、現代の魔闘術の様に身体能力を上げるだけなんて甘いものでは無い、拳は作らない何故なら切り裂く、貫くのが基本だからである、オークだ戦った相手は皆剣で切り裂かれた様だったと言うのが後世に伝わっている。
「「しゅっ」」
「ちっ、なんちゅう斬れ味」
クレイはアルカラの斬撃の嵐に受け止める事もできずに躱すことに徹する
「「拳王の秘技はこんなものでは無いぞ」」
アルカラはそう言うと四肢の攻撃に注意を寄せていたクレイに頭突きを喰らわす、不意の攻撃に対応が遅れるクレイ
「くそ、ぐっ」
何とか躱すがクレイの肩口から斜めに大きな傷が出来る、クレイは距離を取る
「マジかこの装甲にアッサリ傷を付けれるなんてほんまに頭突きか?」
「「拳王の技は自らを剣にする事に真髄を置いている、魔闘術の真髄は斬る事だ」」
「へぇ、そうなんか単に身体能力を上げるもんなと思ったわ」
「「真の魔闘術は殺人拳、もちろん接近戦だけでは無い」」
「なに?」
アルカラは腕を振るすると斬撃がクレイに飛んでくる
「おっと」
躱すクレイに詰め寄るアルカラ、既に目の前にアルカラがいるがクレイは冷静にアルカラの足にローキックを打つ、流石に躱せず足にダメージを負う、そしてクレイはローキックの連撃、流石にアルカラは後退するがクレイは攻撃の手を緩めない
「せいや」
クレイは全十郎に弟子入りする前は様々な格闘技を習得していたが中でも日本の武術が得意であった、隙を見せたアルカラに渾身の正拳突き
「「ぐふ」」
「まだや」
次は前蹴り、続けて回し蹴り、そこから上段蹴り、最後は肘鉄を決めたところで吹き飛ぶアルカラ
「どないや?」
「「流石に強い、技も洗練されてるこれが地球の格闘技、だが拳王とてこれだけでは無いぞ」」
アルカラがそう言うと目の前にいた筈のアルカラが見えなくなる
「なんや、どこや」
クレイはどんなスピードでも視認する自信があったがアルカラが消える瞬間なにも見えなかったため、辺りを見回す
「「これが魔闘術と言うものの本質だ」」
クレイはアルカラの蹴りを喰らいながら意味がわからなかった
「がはぁ」
「「これぞ秘技纏だ」」
何故見えなかったのか、反応すら出来なかった、そう蹴りを喰らうまでなにも感じなかったのである
「なんでや? なんでいきなり現れたんや」
「「魔闘術は魔力を己に纏わせるのご本質、ゆえに大気の魔力と完全に同調すれば」」
「まさか完全に認識できなくなるんか?」
「「そうだ拳王はこれを使い四肢で敵を切り裂いていった、単純だが最強の組み合わせだな」」
「ほんまやな、確かに全く認識出来んかったわ」
「「地球で育ったお前は魔力を未だに不思議な力としてしか捉えていない」」
「そうなんかな、そんなつもり無いけどな」
「「魔力は地球で言う酸素とかとなにも変わらない、呼吸するだけで取り込めるし吐き出せる、地球で言う呼吸法で強い魔法を使える様になるし、容易く強い階位を使える」」
「俺こう見えても魔法めちゃくちゃ使えるで」
「「そう、お前より魔法を使える者はいないだろう」」
「そやろ、呼吸法だってやっとるし」
「「お前は魔力を意識している、それでは魔力の本質に気付けない」」
「本質やと」
「「こればかりは口で伝えても分からないだろう、だからもっと自然と共になれ、星と共になれこれがお前に伝える最後の助言だ、いつか星の魔法を使える様になってくれ」
「星の魔法?」
「「その昔邪神を倒す為に正義の神が使った最強の魔法だ」」
「そんなのがあるのか」
「「もっと語らいたいが時間だ、そろそろ本気でこいブライザーよ」」
「そうか分かってたんか、なら最後といこうか」
二人の顔つきが変わる、次で決める覚悟である。
先に動いたのはアルカラである、アルカラはブライザーの必殺技である、ブライザーキックを放つ
「アルカラよ最後の最後で俺の技でくるか」
「「過去、現在、未来このアルカラで最強の技だ誇れブライザーよ」」
「ああ誇ろう、そして約束しよう必ずこの星を守ってみせると、俺の! ブライザーの! ブライザーM2の! この技にかけて」
ブライザーの周りに魔力が竜巻の様に唸る、ゴウゴウと鳴り響きそしてエグバーダに吸い込まれていく
「お前の言った魔力は特別では無いと言うことは本質と言うのは確かによく分からん、だが俺の中に暴れる力は感じるぞ」
ブライザーの外装が逆立つほどにブライザーからエネルギーが溢れ出す
「ブライ」
クレイは腰を落とし構えを取る
「ブラスト」
だッとクレイが飛び出しアルカラに向かう
「キーーーーー」
アルカラのブライザーキックと
「クーーーー!」
クレイのキックが激突する、それはおよそ人が生み出せるとは思えない程のエネルギーのぶつかり合いだった。
そして
「「見事だ星の子よ」」
「ああ、ありがとな色々教えてもらったわ」
「「受け取れ星の試練を超えた者にアルカラを」」
球の様なものを受け取るとそれはエグバーダに吸収される、その瞬間ブライザーM2に変化を及ぼす装甲がより黒くなり、外装の模様が何かの魔法陣になる、そして右手に手甲が新たに加わる
「なるほどなこれが真のブライザーM2か」
クレイは納得した様そして最後にアルカラに
「じゃあな楽しかったわ」
「「私も久々に楽しめたよ、最後に」」
「ん? なんや?」
「お前の勝ちだよ、おめでとう星の子よ」
そう言ってアルカラは光になって消える
「ふん、最後まで本気出さんかったくせにな」
クレイには分かっていた、アルカラが本気を出した場合勝てなかっただろうと
「しかし」
クレイには最後の疑問があった
「こっからどうやって帰るんやろ?」
帰り方は分からなかった。