エミリーの夏休み、その3
王都に現れた精獣は大きな、それは大きな蛇だった。恐らく蛇型の魔物が何らかの(赤色だから、多分火属性だろうけど)精霊を喰らっている、それはいつも見る魔物と桁違いの魔力を持ち、その存在感は圧倒的だった。
「貴方が精獣ね」
今や、風前の灯火となったルシュタールに現れる一輪の花、その名は
「月の光に照らされて、潮の満ち引きザブンザブン、いけない子は、ダメなの、月よりの使者」
【ムーンマリン】
「今日も、ランラン参上です」
人々は正直何が何だか分からなかった、目の前には絶望と、少女がいるだけだったから。
だがその少女が駆ける、そして精獣に蹴りをお見舞いする
「えーい」
ドゴンと、蛇が吹っ飛ぶ
ズガガガーン
砂埃とともに蛇が倒れる
「なんだあの少女は!」
「俺たちは助かったのか?」
「きゃー」
だが蛇はその程度ではやられない
きしゃーーーーーーーーーーーーーーーー!
空気が震えるほどの咆哮を上げる蛇、そしてムーンマリンに見た事もないような火の玉を放つ、そう躱せばルシュタールが火の海になるのは間違いないほどに
「くっ、マリーーンシーールド!」
ムーンマリンが巨大な水の壁を作り出す
「きゃー!」
火の玉と水の壁が激突する、その凄まじい衝撃に声を上げてしまうムーンマリン
「なんなの、あれちょっと強すぎない?」
『エミリーちゃん気をつけて、精獣は第2階位までの魔法なら平気でつかってくるよ』
「うそ、精獣ってそんな高階位の魔法使えるの、えーとどうしよう」
エミリーは少し困る、確かに魔法少女と言うのは凄い力をつかえるが、まだまだ戦い慣れておらず、エミリーは考える。
「どうしたらいいかな、ペンタ?」
『エミリーちゃん、エターナルステッキを使って、いつもの魔法もエターナルステッキを使えば威力が上がってるよ」
「そうなの!」
それならと、ムーンマリンは一番の得意魔法
「月よ、あの者に試練を!」
ムーンマリンが唱えると、蛇の周りの重力が上がる、そして蛇が自分の重さで動けなくなる
「うそ凄い、ここまでの威力が出るなんて!」
『エミリーちゃん今だよ、ムーンマリンの必殺技を使って』
「えっ、必殺技って何?」
『エターナルステッキに魔力を込めて』
「えっ、こうかしら?」
『そうだよ、そして唱えて、届け愛の力』
「と、届け愛の力」
『邪なる者に癒しを』
「邪なる者に癒しを」
『ムーンマリンヒーリング』
「ムーンマリンヒーリング!」
するとエターナルステッキから癒しの力が精獣に流れてくる、そして精獣の精霊と魔物が分かれてゆく
「あ、分離していくわ」
『そうだよエミリーちゃん、ムーンマリンヒーリングは良くない心を浄化する魔法なんだ、精獣は魔物も精霊も悪くない、少しの心の弱さが生んだ者なんだ、だから助けてあげてエミリーちゃん、君にしか出来ないことなんだよ』
「そ、そうなんだ、分かったわ、私頑張る」
「クマ〜」『あー、水の神様も滅茶苦茶な事言うのね、精獣ってそんなのじゃ全然ないのに』
「ぺんぺん」『ちょっと姉さん、今いいところなんすから、ちゃんとしないとおいらが水の神様から叱られてしまいます』
「くーま」『はぁ、なんで神様ってみんな変なのかしら』
「ぺん」『そっすね』
どうやら神獣も精霊も神様に振り回されているようです。
わー!わー!わー!わー!
そうこうしていると精獣から救われた王都市民がムーンマリンに歓声を送っている
『エミリーちゃん、歓声に答えてあげて』
「えっ、なんで?」
『みんな不安なんだ、歓声に答えるのはその不安を取り除くことなんだよ』
「そうなんだ」
そしてムーンマリンは、民衆に手を振り歓声に答える、そして
「私の名はムーンマリン、悪い子はおしおきなの、みんなの笑顔は私が守るわ、それではさよなら」
こうしてムーンマリンが民衆の前から消える、こうして王都にムーンマリンブームがやって来る、ムーンマリンはこれから様々な者から王都を守る為、戦っていく、その度に人気が上がりアイドルになっていく、そう謎の美少女魔法使いムーンマリン、それが王都のトレンドなのだ。
「は、恥ずかしかった」
エミリーは変身が解けた後、冷静に考えたら急に恥ずかしくなってしまった。まあ仕方ないのだ。
「うひょー、すげー、すげー」
髪の青い青年がカメラっぽい物を持ちながら叫んでいた、まさに変態であった
「よくやった、ペンタよ」
あっ、水の神でした。
そんなこんなで王都に新たなヒーローが生まれている時、クレイは
「さて社長さんよ、解任やで君は」
「いきなりなんなんだ、君は!」
「まあ叫んでも無駄やわ、もう真っ当な記者はお前の解任に賛成しとるし、この会社の株は全部買い取ったしな」
「ば、馬鹿な」
「まあ言い訳は牢屋で考えな、ただお前の知り合いみんな牢屋におるから寂しくないで」
「嘘だ」
そこで騎士団がなだれ込んでくる
「まあ自分のしたこと考えて反省しいや」
「あ、ああああ」
こうしてゼクセンの新聞社は変わる、真実を報道するという信念を持って
「ああしんど、やっぱりボコボコにする方が楽やな」
「まあ隼人はそうだね」
「次はなんや?」
「うーん、なんか銃士隊とか言う組織が、この国のキモみたいだね」
「そいつらボコボコにしたらええんか?」
「うーん、まあそれでいいんじゃない」
「よっしゃ、やったるでー」
こうして、ゼクセンは否応なしに変革をさせられるのである。