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かーちゃんのへんなはなし

今回は母親から聞いた話ですぅ

 幼い頃、既に私の両親は鬼籍に入り、祖父母の元へ引き取られそこで暮らしていた。贅沢にも一人部屋を用意してもらい、文机も新調してもらったので文句は言えないのだが、一つだけ悩まされていたことがあった。

 夜、床に着くのが早い老人とは別に、私は夜更かしが大好きな子供であった。いつまでも古い雑誌や学友から借りた漫画などを眺めていて、夢に落ちるのは布団に入ってから数時間後であることが常であったのだ。当然、翌朝は重たい頭と瞼を何とか動かして学校へ向かうのだが、それでも午前中は使い物にならなかった。

 そんなことが続いていたある日、不思議なことがあった。



 その日も御多分に漏れず、私は明かりの消えた部屋で読書灯を灯し、活字に視線を落としていた。物語の世界に充分に浸り、主人公の奮闘ぶりに手に汗握ったり、可憐なヒロインにため息を漏らしてから目を閉じた。


 視界に完全な闇が降り、どれくらの時間が経過しただろう。徐々に睡魔が私を包み、漸く眠りに落ちるといったところで、それは起きた。


 何やら、くすくすと楽し気な話し声が聞こえるのである。

 

 初めは祖父母だとおもった。大人は夜更かしをしても良いという大義名分があるので、今日は気まぐれに話し込んでいるのだろうと思っていた。

 しかし、どうやら違う。

 

 話し声は祖父母のものよりも若く、当時小学生だった私よりも幼い子のものであるようだったのだ。


 どこから聞こえるのだろう、隣の家だろうか。それとも道を歩く人の声が聞こえているのだろうか。そう考えているうちに、私は眠ってしまった。


 その日から、夜には件の話し声が聞こえるようになった。祖父母に聞いてもその時間には寝ているのでわからぬと言われ、むしろ早く寝ろと小言を頂戴してしまった。

 しかし当時の私は、声の主が気になった。それに、いかにも楽し気な話の内容を知りたかったのである。

 

 いつものように床に着き、目を閉じて耳を澄ます。するといつの間にか話し声が聞こえている。

 声の主は無理でも、どうにか内容だけは知りたい。そう思った私は必死に耳に入る声を捉えようとしたが、なんとも胡乱で明瞭ではない。そう頑張っているうちに眠ってしまう。


 数日の間、私は必死になって闇夜の会話に耳を澄ませた。徐々に聞き取れるようになってきたものの、せいぜい語尾がわかる程度だった。


 ……るよ。くすくす

 ……ねぇ……。くすくす

 ……うよ。くすくす


 全く話の内容がわからない。いくら頑張っても途中で眠ってしまう。それで私は、土曜の学校が終わって帰宅した後、仮眠をとることにした。これでいつもより長く例の会話を聞くことができると考えたのだ。


 仮眠から覚めたのは夕方すぎで、食卓には夕食がのぼっていた。私はそれを食べ、病気ではないかと心配する祖父母に適当な言い訳をして夜を待った。

 夜更かしのための仮眠を、祖父母は具合が悪いのだと勘違いしたらしい。

 しかしそれは真逆である。その日の私は絶好調で、空が紺色に染まり星が輝いても眠気とは無縁であった。


 やがて声が聞こえた。例によって実に楽し気で、私も混ざりたいと思うような雰囲気であった。

 耳を澄まし、その声を聞く。どうやら話しているのは幼い女の子の二人組らしい。


 どこの子だろう? この辺は田舎で、大抵は顔見知りなはずだけど……。


 そこで気が付いた。そうだ、窓を開けて外を見てみよう。今までは目を閉じて耳にだけ神経を集めていたけれど、実際に見てみれば早いじゃないか。

 もしも知り合いなら夜遊びに混ぜてもらえるかもしれないし、知らない人ならもっと嬉しい。田舎の狭い交友関係に辟易していたところだ。


 そう思い、真っ暗の部屋の中で目を開けた。

 そこに飛び込んできたのは信じられない光景だった。


 私の部屋の中で、二人の女の子が座って話をしているのである。


 二人ともキレイな着物を着ていて、髪型はおかっぱだった。私に背中を向けてくすくすと楽し気に話していて、こちらに気付いている気配はない。


 いつの間に? まさか窓から?


 でもそんな物音なんてしなかった。それに、そんなことになっていたら流石に気付くだろう。


 混乱する頭を抱え、女の子たちの背中を見ていたら、会話の声が急に明瞭に聞こえだした。

 
















「あの子また聞いてるよ。……くすくす」

「そうだねぇ……。連れてっちゃおうか。……くすくす」

「そうだね。あっちに連れて行こうよ。……くすくす」






二人はこの会話を、私が眠るまでずっとしていた。


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