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「あー疲れた」
自室のデスク椅子に座りながら、カケルは大きくうなだれる。そして先ほどのテレビの内容を思い返しながら背もたれを倒す。
「タイミング良すぎるだろあのニュース。僕に何か恨みでもあるのか? あれか、今日いいことがあったその代償的なことか? まぁ母さんたちみたいじゃ無かったけど、じゃあ一体誰があんなこと……」
ふとカケルの視界に本棚が入り、見ると、これまたカケルにしかわからない程度にずれている、というかもとの位置に戻っている。
当然気になるのはその背後であり、覗き込むと何故か、『オンロリ』の大型水色パッケージが存在していた。
自分の勘違いだったのか、とカケルは頭を傾げるが、確かに先ほど見た時には消えていて今は戻っていた。
「……めちゃくちゃ怖いんだけど。絶対この部屋、なんかいる」
はぁ。とため息をついて疲れ切った様子で勉強机に向かい、椅子に座る。
椅子をくるくる回転させながら、所定の位置に戻っているということは……と一考してからすぐにあきらめた。考えることに疲れたのだろう。
何者かの存在が気にはなるが、来週にはテストが始まるのだ。悠長にしている暇はない。カケルは自分の顔を叩いて気合を入れなおした。
「前回はヤマ張って失敗したからな。全絶対部の範囲をやろう。特に記述問題」
そうして勉強に向かいだすと本人も気づかぬうちに時計の針はみるみる進む。
問題集を進め、得意な暗記系科目を一通り眺め終わる頃には時刻が一時を回っていた。
体の疲れにようやく気が付いて時計を見ると、カケルは目を丸くする。
「いけね。もうこんな時間か。寝ないと」
普段絶対起きていない時間だけに、集中が切れた後に眠気が一気の襲ってきたようだ。
何とか意識を保ちつつ歯磨きをして再び二階に上がり、朝から敷いたままの布団に倒れこむ。
コントローラーで消せるタイプの電灯でよかったと感謝しながらリモコンで明かりを消し、目をつむった。
しかし、カケルの顔には未だに光が照らされていた。普段使っている部屋の電灯でも街灯の明るさでもないなれない光にイライラしながら体を起こし、おもい瞼を開く。
しかし次の瞬間、光を眼で辿ったカケルは大きく身じろぎ、小さく悲鳴を上げる。
「……ウソだろ」
今日一日中感じた押入れの違和感。それが聴覚的にではなく今度は視覚的に表れたのだ。
「なんで押入れから明かりが……」
光源があるのだろう。光が押入れの隙間から広がるように伸びている。
もうB級ホラー映画なんかよりもよっぽどホラーな光景に体は硬直し、そのまま気を失えないかと目をつむってみるもそんな都合よく意識がなくなることはなく、未だに明かりはしつこくカケルの顔を煌々と照らしていた。
「さっきはなんも無かったんだぞ?」
カケルはタオルケットを体に巻いてベッドから立ち上がる。
今は夏なのでこんな薄い防具(カケルの意識的な問題)しか纏っていないが、冬ならもっと分厚い毛布を巻いていたのだろう。とにかく敵の存在を意識した格好をしたカケルは音を鳴らさないように静かにデスクの横に歩み寄る。
(家族に迷惑だけはかけられない)
半ば忘れ去られたように飾ってあった中学校の修学旅行でのお土産である木刀を右手に持ち、左手で一気に押入れを開け――――。
何かがカケルを襲ってきた。その行動のせいなのか、押入れからの光源も音を立てて消える。
ゴツン、と鈍い音を響かせた『何か』は「やばい」と焦った声を漏らしたが、すぐに「まぁいっか」とケロリとした口調に代わってカケルを布団の上にころがして移動させた。