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究極リアリティ人間育成RPG  作者: サツキスケ
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1

一二時丁度。カケルは授業の最後に滑り込むように教室に入り、数学教師兼担任中島の「またこいつか」という視線を受けながら席に着く。

「運が良かったな左院。まだ小テストは始まっていないぞ」

「そ、そうですね。よかったです」

「本当になぁ! 担任の授業はサボるがこういう小テストだけは見事に出席するお前はすごいなぁ。はっは。テストが最後の十分でよかったなぁ!」

 教室の中からも笑いが飛んでくる。

 カケルも中島の嫌味に慣れたのだろう。愛想笑いで受け流して席に向かう。

 苦笑いをしているカケルが席に着くと、となりの男子生徒がひそひそと声を掛けてきた。

「また遅刻とか不良だな」

「わざとじゃないんだって。タカヒロもこういうことあるだろ?」

 髪の毛が金髪という、この学校の中でもかなり目立つ部類のタカヒロ――谷田部タカヒロ――は、カケルより少し背が高く、肌の色が少し黒いイケメンだ。

 髪の毛は染めているが普段の素行がよく勉強もできるため、校則違反を注意する教師も手をこまねいている。

 サッカー部に所属しているスポーツマンでありながら、勉強も学年上位を常にキープしている万能型。そのせいで女子からも男子からの人気もある。カケルも親友の一人として中学からの付き合いがある。

「後で食堂行こうぜ。新しいメニューできたってよ」

「へぇ。よし行こうか」

「そうこなくっちゃな」

 谷田部は白い歯を見せて嬉しそうに笑う。カケルも素直に谷田部のことをいい奴だと尊敬している。

(神様はどうしてこんな完成系をつくったのかね? ん?)

 心の中で神様に喧嘩を売っているとテスト用紙が配られ担任がテスト開始の音頭を取った。

「時間は一〇分いっぱい。ではテスト始め」

 担任の言葉で皆が一斉に用紙を裏返した。問題は選択式。しかし四つの空欄に二〇個の数字の選択肢から選ぶ問題。選択肢の数字がどれも簡単なので、カケルも表情に余裕が出てくる。

(ほほう……どらどら)

 テスト開始から五分ほどたったころ。

――カラン

 どこかでシャーペンが床に落ちる音がして中島が教室を見渡し、ある一点を見てニヤリとする。

 音源はカケルだった。中島がカケルの様子を見るあたり、まったく問題がわからず手をこまねいているのは一目瞭然だった。頭を抱えてシャーペンを落としたことにも気が付かないとは、カケルも相当焦っているようだ。

 そこで中島は小さく咳払いして、皆がわかっているであろう警告をもう一度告げる。

「あーみんなわかっていると思うが、このテストで二点以下のものは放課後追試の上追加課題だからな。基礎的な問題ばかりだからな。全問正解が基本だぞ。後五分ある。……谷田部も見直ししろよ」

「うーっす」

 カケルはちらりと谷田部を見る。すっかり終わって余裕そうにペン回ししているではないか。

 しかし谷田部のそれはカケルがあきらめモードでペン回しするときとはまるで表情が違った。すべて正解しているという余裕があってのペン回しだ。

 時間は後残りわずか。カケルがいくら考えようと考え方のはしくれも思い浮かばないし、計算問題もさっぱりわからない。小テストでこんな調子で、今日から発表される中間テストは大丈夫なのかと不安になることしきり。

「はいそこまで――」

「くっ、何も書かないよりは」

 そう思ってカケルは適当に番号を選んで問題用紙に記入し、中島の指示のもと隣の席、つまり谷田部と回答用紙を交換する。

「お!」

 交換した谷田部の回答用紙を見てカケルが声を上げる。一問答えが違うだけで、見事に他三問は正解しているではないか。問四の答えが⑧らしく、カケルが谷田部の解答に書かれた途中式を眺めていると、中島が答えを発表し始める。

「じゃあ答え言っていくぞ。一番③、二番⑮、三番⑪……最後は⑤」

「え?」

「うそん?」

 カケルと谷田部が声を上げたのは同時だった。自然教室中の注目が二人に集まる。

「ん? お前らどうした?」

 二人を見やった中島に、顔を見合わせていたカケルと谷田部のうち谷田部が口を開いた。

「えっと、俺が一問ミスしたってことにも驚きましたが……カケルが全問正解だったので」

 教室にどよめきが走る。

「カケルが全問正解?」

「カンニングじゃない?」

「ありえねぇだろ。道端でギャルのパンティ拾いうくらいの確率だぞ」

「お前らそれはひどいだろ! 確かにびっくりだけど」

 好き勝手言ってくれるクラスの諸君にカケルは訴えるが、内心自分でもびっくりだった。

「カケル……設問の類似問題だけど、二〇個の選択肢がある中から四つの正解を順番に選べる確率は? 同じ選択肢は使わないとして」

 途中式も何もないカケルの解答用紙を片手に谷田部がカケルに尋ねる。

「え、えっと……わからない」

「やっぱりな……一一六二八〇分の一。すげぇ確率だぞ」

 谷田部の驚きの後三限目終了のチャイムが鳴り、中島が回収の合図を出した。

 カケルも、二つの意味で信じられないといった表情で谷田部の解答にチェックを入れ、自分の解答と交換する。

 「本当に満点だな」

 小さな奇跡が起こった、テスト発表初日の昼の出来事だった。

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