5話.さあさ、歓迎会だよ
桜子が帰ってきたことにより、ささやかながら飛鳥の歓迎会が始まった。なお、桜子の部屋に移動した際、桜子の部屋には窓硝子がなかったことを追記しておく。部屋自体は窓から入った際の着地点っぽい所が擦れまくっていることと、あちこちに謎機械がある以外は割りと普通の女の子な部屋だった。
「落ち着かないかもだけど、気にせずにね~☆」
「ね? この部屋には無理でしょ」
「ん? 何何ー☆」
「この部屋たまには片付けなさいって話 。その辺に転がってるのとか」
瑠美が謎機械を適当に指差して指摘する。桜子はムスッとした顔で、その機械を大事そうに抱えた。
「これはファンからのプレゼントで40年前のアンティークだもん☆ あっちのは、読者プレゼント用の作り中だし」
「読者プレゼントってことは、どこかスポンサー付きなあれ?」
「扇桜子さんは月刊アイドルと昔の機械、週刊パーツの二冊にコラムを持っているんです」
「まぁ、桜子はダンスやってるしね」
「ぶいっ☆ それはそれとしてカンパイしよ、はいっカンパイ☆」
「ダンスすげぇ…」
飛鳥はただただ圧倒されるだけだった。正直ダンスを甘く見ていたところもある。どうみても機械オンチそうなのに得意だったとは。
「食べ物がほしいわね。適当に作ってくるから……そうね、その子の実力でも見せてもらったら?」
「あっ、さんせー☆ んじゃ、1分上げるから私に触れてみ? はい、スタート☆」
「えっ? 急す……!」
飛鳥が言い切る前に、桜子の周りに力の渦が巻起こる。気とかオーラとかそんな感じの、将来王者になりそうな予感のするタイプのものだ。
思わず飛鳥はたじろいたが、ここで負けるわけにはいかない。飛鳥は飛びかかりながら分身を3体作りだし3人で突撃し、桜子の手を掴んだ…と思ったがそれは残像であった。
「えっ? …しまった!」
「惜しかったね☆」
飛鳥が桜子の残像に気付いた時、既に桜子は後ろに回っていて、その最中に2体の分身をデコピンで消滅させていた。
「これがカットバックドロップリターン☆」
カットバックドロップリターン。軸腕を捻ることで発生する遠心力と跳躍力を利用して人一人分の隙間を空けてターンする回避テクだ。ここまでの速度でやれる人はそうそういない。
しかし、この技は着地直後の足への負担で隙も生じる。
飛鳥は残していた分身でこの隙を狙い、桜子の背中にタッチさせた。
「あちゃー☆策士だね☆」
「こんなもんでいいよね」
「うん☆まぁ、そこそこだね☆」
そこそこ判定に飛鳥が落胆していると、瑠美が手料理をもって戻ってきた。サラダに麻婆豆腐に唐揚げ、フライドポテトととりとめはないが美味しい匂いが漂っている。
「はうわぁ! おいしそー☆」
「とりあえず、適当に用意したわ。で、どうだったの?」
「まずまずだよー☆ しっかり鍛えればいい線だね☆」
答えながら桜子は手当り次第食べている。
「はやっ! いただきます」
「慌てなくてもいいのに」
桜子に食べきられる前にと、飛鳥も食べ始める。まず手近な唐揚げ、程よくジューシーな鶏肉と外のカリカリさがたまらなく食欲を刺激する。どれを食べてもかなり旨い。
「美味しい! え、すごい」
「これぐらい乙女の嗜みよ」
そういう瑠美の横顔はとても嬉しそうだった。