4話.ダンスは万能
プロデューサーと合流して1時間くらい歩いたところで、寂れたアパートにたどり着いた。飛鳥はプロデューサーの後ろをついていき、軋む階段登り、202号室のチャイムを鳴らした。が、しかし中からは反応がない。
「あれ? おかしいな。さっきはいたのに」
すると、201号室から人が出てきた。ケルベローズの長女だ。
「プロデューサー、桜子なら歓迎会用の買い出しするって出ていったわ。まだ、戻ってこないだろうし、私の部屋にどうぞ」
「なるほど、それじゃ……と先に紹介しておきます。こちら、犬飼瑠美さん」
「あら? さっきぶりね。それじゃ、入って」
瑠美の部屋はきちんと整理されていて、部屋の狭さの割りには広く感じる。瑠美が手慣れた手つきで紅茶を入れてくれるのを飛鳥はぼけーっと見守った。
「つまり、私と桜子のコンビにこの子を追加してユニット活動しろってこと?」
「はい、桜子さんには了承を得ています。ついでに、灯乃さんの住まいが見つかるまでここに置いてあげてください」
「その情報隠すために私に言わなかったんでしょ。ま、いいわ。桜子の部屋には無理だし」
「えっ? いいの? ありがとう。ところで犬飼さんってケルベローズだったんじゃ」
飛鳥はちょっと疑問に思ってたことをさっさと聞くことにした。
「ああ、あれは期間限定よ。妹たちは先にデビューしてるから。ここには私との撮影のために一時的に来てるの」
「ふーん、そうなんだ」
飛鳥は、瑠美が少しだけ寂しい顔をしたのを見逃さなかった。異世界で見たことがある。これは一度挫折して周囲に置いてかれた人の顔だ。だが、それで聞かないのが飛鳥だ。自分自身のことで手一杯とも言える。
「組むならまず私と同じDランクまで上がりなさい。それまで待ってるわ。プロデューサー、それまでこの子のバトル参加禁止ね?」
「わかりました」
「なんでそんな勝手な!」
瑠美が手慣れた手つきでタブレット端末を操作し、先ほどのバトル中継を再生した。
「ここでのバトルなんて全部公開されるのよ、ファンを増やす、視聴者を増やす……それだけ注目されてるの。で、素人まるだしの動きのままでこれから先やっていけると思う? 無理ね。でも将来性はある」
「だから、先に練習しろってこと?」
「ええ、幸いにも二ヶ月養う程度には貯めてあるわ」
飛鳥は考える。ここでダンスの練習を断るには無理がある。野宿も考えたが、長期戦になるとつらいし、ここのルールも把握してない。
「わかった。で、Dランクって」
「それは私から説明しましょう。ここではまずGランクから上を目指していきます。Fランクでスポンサーをつけられるように、Eランクで自分の曲、Dランクでここの外部に公開される仕事が出来るようになります。Cからは……まあ、また今度でいいでしょう。ランクは週末にランクアップ試験を受けることが出来ます。またランクに合わせて毎週の生活費もわずかに支給されます」
Dランクまでいってようやく多少は認められたといえるのだろう、と飛鳥は認識した。
その瞬間、窓が急に空き女性が飛び込んできた。見事な回転である。
「やっほやっほー☆桜子ただいま帰還しましたー☆」
「桜子、また鍵忘れたの?」
「うん☆瑠美ちゃん鍵かしてねー☆」
桜子は飛鳥に気付かず、瑠美から鍵を借りて窓から外に飛び出した。
「あれが……」
「はい、扇桜子さん。無能力者です」
「えっ!?!!!?」
無能力者、つまりこの能力者バトルじみたこの戦いに武器なしで挑んでいるようなものだ。そもそも二階の窓からひらりひらりクルクル移動している人が能力ないと言えるのか?
「驚くのも無理ないけど、まぁ桜子もダンスしてるから。知ってるでしょ、ダンス万能説」
「あそこまで万能なんて知らない!!」
ダンス万能説、ダンスをやっている人は大抵のことをダンスから流用することで、金メダリストや格闘技チャンプ、はたまた偉い学者などと同程度の活躍が出来るかもしれないという説だ。
「ところで、この子誰ー?」
「うわっ!?」
「灯乃飛鳥さんです」
「飛鳥ちんよろしくぅー☆さっくらこだよー☆」
「よ、よろしく」
こうして、飛鳥のアイドル生活は幕を開けた。
2015/10/23誤字修正しました