2話.ライバル登場?名前聞かない第一歩
この島は、主にイベントライブ用のエリア、日々の生活用のエリア、趣味・スポンサー周りのいるエリアに分かれている。
この趣味・スポンサーエリアと言うのは、アイドルにとって地味に重要なエリアである。スポンサーがつくことによりほぼ確実に島の外へのアピールが出来るからだ。
モチロン、ライブイベントやバトルはネットや専門チャンネルで放送されるが、出番のカットの可能性もある。その点、スポンサーがいれば専門誌にコーナー作ってもらえたり、CM起用の可能性もある。ファン数が一種のバロメーターである以上しっかり抑えておかねばならない。
ところで、今なぜこんな説明を?と思うかも知れないが、理由がある。飛鳥の目の前には、迎えでなくそのスポンサー経由でCMに出てたであろうアイドル達がいるのだ。
「……えっと。どいてもらっても?」
「あら、ごめんなさい。視界に入らなくて」
「ちょ、お姉」
「さっすがお姉ちゃん!」
彼女たちは、ケルベローズというユニットで活動している三つ子アイドルだ。犬をモチーフにした衣装と、息のあった三人の動き、会話の変化球による噛み合わなさが話題になっている。
自信満々の姉、唯一の良心な次女、長女を崇拝する三女。今日も見事に可愛く尻尾フリフリだ。
「お姉がすみません。こう…素直になれないタイプなんです!」
「ああ、いるいるそういう人。ということは友達にでもなりに来たの?」
「違うし!私は………そう! この時期に来るぐらいだから、どこかの秘蔵っ子かと思って見に来たわけよ。……ビジュアルは、私たちに負けてない感じするわね」
「さすがお姉ちゃん、聡明ー!」
ケルベローズ長女は、とってつけたように飛鳥のビジュアル評価をしてきた。ケルベローズの三人は、どこか忠犬を思わせるような可愛いわんこ感があるが、飛鳥とは別のジャンルの魅力に溢れている。
「違う違う。あー………なんというかその家庭の事情的な?」
「それなら仕方ないですね、お姉」
「ふふん、つまりまだまだ私達の相手ではないってことね! さぁ、妹たちよ。戦わずしてかった私達に勝利の美酒よ」
「出たー、お姉ちゃんのナイムネ張りからのドヤ顔勝利の美酒ー!!」
この間ずっと長女の尻尾フリフリされてたけど、あれどういう原理で動いてるのだろう。そんなどうでもいいことを飛鳥が考えていたら、ようやく待ち人がきた。
「灯乃飛鳥さんですか?」
「あっはい」
「今日からあなたのプロデューサー兼マネージャーになります。よろしくお願いします。これ名刺です」
どこにでもいそうなメガネをかけたサラリーマン風の男だ。とりあえず、飛鳥は名刺を碌に見ずにしまい、持ってきたキャリーバッグをプロデューサーに預けてみた。
「よろしくお願いします。これお願いします」
「それじゃ、灯乃さん行きましょうか。とりあえず、当面の住居を決めないと、あと灯乃さんと組んでもらう方がいるので、明日顔合わせしましょう」
「ちょっ! 早いよ。僕を置いて行ってるよ!待って」
こうして、飛鳥の第一歩は踏み出された。