表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

BL短編集

忘れられない欠片

作者: 藍上央理

<プロフィール>

商業では粟生慧で執筆しています。

おもに電子書籍ではBL中心です。

商業の内容はほぼエロです。

 年の瀬を迎えて、せわしない町中をやり過ごし、ようやく自宅のドアを開ける。今日は、仕事納めだった。土日も仕事に呼び出され、有給も消化できないまま、年が終わろうとしていた。仕事始めは最初の平日からで、もちろんとしか言いようがない。

 忙しさはありがたい。この部署に移してくれと願ったのは自分だった。だから、現状、多忙を極めていて当然で、むしろそれが精神的に楽なのだ。


 三ヶ月前に別れを切り出された。一年保ったのは奇跡だと言われた。彼は同じ会社の人間だった。密かな逢瀬に身も心も溶かされた。しかし、そう感じていたのは自分だけだった。もったいつけることもなく、ほかに好きな男ができたから、と告げられた。その男と、新しい事業を興すのだと。

 彼が今どうしてるかなんて知らない。


 疲れた体を雑然とした空間に横たえる。これでも三ヶ月前まではきれいにしていた方だった。招く相手もいないのに、きれいにしておく必要性を感じない。雑誌がベッドの脇に塔を作っている。乱雑に積み上げただけだから、ふとした拍子に崩れてしまった。


 崩れた雑誌の隙間から、一度だけ行った旅行の写真を見つけた。香港に行った。ふたりでビクトリア・ピークを訪れたり、飲茶を楽しんだ。思い出を切り取ったかけらが、数枚のスナップ写真に納められていた。

 旅行から帰ってすぐだった。バーに差し向かいに座った自分に向かって、彼は唐突に切り出した。

「なんか、合わないよね。いいよ、これ以上話してもさ、こう、お互い苦しいだけじゃん? それに、黙ってて悪いと思ったけど、ほかに好きなやつができたんだよね。で、今度、彼と一緒に会社を興そうって誘われてて。なんかさ、パートナーって、あこがれてたんだよね。あ、おまえじゃだめだったとかじゃなくて、たぶん、タイミングなんだと思うけどね」

 

 要するに、飽きられたんだろ?


 そんな思いがぐるぐると脳裏を巡る。思い出のかけらはまだずっしりと心に重たくて、自分がひとかけらも忘れていないことを思い知らされる。


 三ヶ月経っても、一ミリも色あせることがない。それがたとえようもなく苦しい。

ご感想お待ちしております。

なお商業収録作品は除外しております。

「キミイロ、オレイロ」

「悪徳は美徳」

「不確かな愛を抱いて」

「甘い蕾を貫いて」

「山神様といっしょ!」

関連作品のみ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ