《第三話》 全裸で何言ってんのこいつ?
『治療が完了しました、ハッチオープンします。』
ヒナギクさんがそう言うと、僕の頭上にあったのだろう。
機械音と空気の抜ける音と同時に、ハッチが開いていく。
「う、うわぁ・・・うっ! うぇっぷ...体の穴という穴から何かが抜けていく感覚があるんだけど・・・」
手術後の、尿道に入れた管を抜かれる感覚が鼻や灰と言った、文字通り体中に感じ。
思わず、嘔吐してしまいそうになるが、何とか堪える事ができた。
『それは、身体を安定化させる為に肉体の中を満たしていた、メディス溶液を排出している感覚です。』
「次があれば抜く前に一言欲しいな」
『既に、メディス溶液は全て消費されてしまった為、次に補給するのは現状不可能であると考えます。』
「・・・う、うん、僕も死にかけるような怪我はするつもり無いけど。」
まさかのマジレスされてしまって、少し困惑したが。
彼女は今、さらっと重要な事を言っていた。
僕の体を治療してくれた、この水槽がもう使うことができないという事だ。
(・・・この世界の事が殆ど何もわからない状況で、治療が行えないというのは少し不安だな。)
もちろん、応急手当ならできるだろうけど、元の世界の様に病院で治療してもらえない、という事は僕に少なくない死への緊張感を与えた。
それはそうと、早速外に出てみよう!
あれ? でも僕......服が無い......
「どうしよう・・・出るに出れない」
『どうかされましたか?』
「あ、あの僕のジャージってどこにあるのかな?』
3年間、連れ添った相棒とも言うべきジャージだ。
色々と思い入れもあるんだが。
『じゃーじ? マスターが来ていた衣類ならば、破損状態が深刻だった為、無事なもの以外は回収していません。』
「oh...困ったな、流石に地上を確認した時、森だったのは知ってるけど。
流石に全裸でいる勇気はないよ。」
『コックピットに長期戦闘用の予備装備が空間貯蔵されております。
もしかしたら、衣服等もそちらに保存されている可能性があります。』
「え、本当! それなら、一度確認してみようかな。」
『コックピットは機体の胴体部の上に設置されているので、開く場合は機体正面に立ってください。』
「わかったよ」
...これで、衣類が無かったら裸族も覚悟しよう。
その時は人里までコックピットで生活する事になりそうだけど。
ていうか、コックピットって、もしかして僕が操縦するの!!
わ~、なんだが凄く楽しそうなんだけど...あ、でも僕じゃあ真面に動かせないかもしれないな。
期待はし無い方がいいかなぁ......とりあえず外に出て言われた通りにしよう。
僕は、後ろに付いていた梯子を登って外に出ると。
上空からでも見えていた、鬱蒼と生い茂る森が広がっていた。
そして自分達の周りだげ、Abrogareを使ってヒナギクさんが何かしたのか、綺麗に土で整地されていた。
僕の肌を凪ぐ風がこそばゆいが、外側に付いていた梯子を伝い下に降りた。
余談だが、その時に何かを潰した感触があったが、僕は気にしないように努めた。(考えたくない)
『機体を動かします、少し離れていてください。』
「ふふっ」
『どうかしましたか?』
「いや、何でもないよ」
『そうですか......』
僕は彼女の言う通りに、機体から離れて大回りに正面に立つ。
すると、Abrogareは片膝を付いた状態から、機体を前に傾けて土下座の様な格好を取った。
生えた尻尾が振られているのを見て、僕は犬が散歩に連れて行けと催促している様に見えて、少し笑ってしまった。
『コックピットを開放します。』
そう彼女が言うと、胴部の黒い装甲が下に降りて行き、その中から銀色の丸いハッチが現れた。
扉の大きさは160cm位で、成人男性が屈めば普通に潜れるだろ大きさで、ハッチの横には赤いレバーが付いている。
『ハッチの隣にある、レバーを下に引けばハッチが開きます。』
「ああ、これね。」
少し硬かったが、僕がレバーを引くと。
先程のメディス貯蔵庫と同様、真空によって保存されていたのか、勢い良く空気を吸い込む音と同時にハッチが開いた。
中の操縦席は、機体を倒しているからか、足元にディスプレイとコンピューターの様な物があり。
座席の周りにはグリップの様なレバーに繋がったレーンの様な物がある。
それは、僕が想像していたロボットの操縦席よりも複雑であり、動かし方が何となく思い浮かぶようなシンプルな作りをしていた。
きっと、製作者の人が考え抜いて設計されたのであろう、事は一目で分かる。
『マスター、予備装備の場所は座席の裏側です。』
「あ、ああ、わかりました!」
思わず見蕩れてしまっていた僕は、急いで座席の裏を確認した。
そこには、ボックス型の収納スペースがあり、その蓋を開けると中には大きなケースが入っていた。
『マスター、予備装備は見つかりましたか?』
「あ、うん、何かケースみたいのを見つけたよ。」
僕は、そのケースを持って一度外に出た。
「え~と、このケースってどうやって開けるの?」
『ケース上部のボタンを押してください。』
彼女に言われるがまま、ケースに付いていたボタンを押した。
すると、ケースの上にヒナギクさんを写していたのと、同じタイプのディスプレイが現れた。
それはどうやら目録の様な物らしく、僕には読めない字で大量に表示されていた。
その下には、一行程開けて何やら文字が書かれている。
「僕には字が読めないんだけど、これどうすればいいの?」
『一番下にある、文字を指で触れてください』
「うわっ、なにこれ!」
僕は言われた通りに文字に触れるとケースが開き、中からどろっとした何かが溢れ出し、ケース周辺に広がっていった。
溢れ出した何かは、広がりきると風に溶けるように消える。
その後には、ボトルや小型のケースに入った保存食、剣に似た何かや銃器に似た物が散乱していた。
『空間保存は文字通り、魔素によって作られた擬似空間に対象物を保存する魔術です。
擬似空間では、完全に粒子の動きが固定化される為、永久的な保存が可能となっております。
先程、起きた現象は、ボックス内に保管されていた空間を広げた為に起きた事です。』
「......このケースの中では時間が止まってるって事?」
『似ていますが違います。
空間保存は、元々時間操作を目的として研究されていた、時空間魔術の副産物としてできたものです。
時間操作は魔術を要いても実現には至らなかったと記憶しています。』
なるほど、つまり極限まで時間停止に似せた現象を起こして物を保存するケースなのか。
......この世界でも、魔素や二足歩行兵器を作れるだけの文明があっても、タイムスリップには至らなかったのか。
いや、もしかしたら、今のこの世界の文明なら、宇宙進出やタイムスリップができるかもしれない。
それならば、他の世界...自分がいた世界にも帰れる方法が有るのかもしれない。
でも、それを見つけた頃には、間違いなくタイトル戦は終わってしまっているだろう。
......アイツとだけは決着つけたかったな......
僕はゲームの戦場で競い続けた、ある人物の事を思い......少しだけ、この世界に来た事を後悔した。
次話繋げて書いてます。




