《第二話》Abrogare Spada(修正完了
大変お待たせしました!
鬼門突破ッ!やっとロボットもヒロインも出てきましたね。
感想や誤字等が在ればドシドシ送ってください。
活動報告も上げてるんで、こいつ失踪したな!と思ったら確認してやってください。
「・・・ふ、ふふ、フライッ!ハァァァアアアイィィィイッ!!!!!!」
目が覚めるとそこは無限に広がる雲の上でした(まる)
「ひぃやゃぁあッ!! 無理!無理無理無理!死ぬッ、死んじゃう!誰か助けてぇえええええ!!!!・・・・・・」
あの鉛色の光に吸い込まれたと思ったら、突然、目の前が真っ暗になって。
気がついたら、パラシュート無しの紐なしバンジーとか、あの声の人、脳みそが海王星にでもぶっ飛んでるんじゃないの!!
え? 夢じゃないのかって!? そんなの身体中の痛みで直ぐに気づくは!!
着ていたジャージは凍り付き、身体中の皮膚という皮膚が悲鳴を上げ、気圧の変化で肺は破裂寸前、顔に至っては既に感覚の大半が失われている。
こんな状況で、「別に夢だから問題ない」と考えられるほど、人間の精神というのは丈夫にできてない。
それに、夢なら空へ投げ出された時点で目が覚めるはずだろう。
いや、中には地上に落下してしまう話はあるが......最終的に死の予言には変わりない。
じゃあ、目前に雄大な大自然が広がるこの状況は、いったいどちらなのか......。
『A.結果的に死ぬから関係ない』
僕は迫る茶色い大地を見て、無意識に呟いた。
「・・・あ、終わった・・・」
その言葉が、僕が始めてこの世界に”降り立った”最初の言葉だった。
グシャッ!"
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周囲には植物以外に生命の姿は無く。
森では当たり前のように聞こえる、虫の音も鳥の囀りも存在しない。
そこは、まるで慰霊碑のように独特な静けさを持っていた。
そして、それは確かに存在していた。
一目見ただけでは、苔や蔦が絡みついた只の黒い金属の塊にしか見えない。
だがよく見ると、その塊には腕が有り、足が有り、頭部がある。
人型というには禍々しく、怪物と言うには人間臭い。
そんな印象を与える、黒い鋼の獣が片膝を折り、何かに傅くように朽ち果てている。
その姿はまるで......お伽噺に出てくる騎士の様に荘厳な雰囲気を漂わせていた。
『......ピ...ガッ....ギジィィィィイイ.....ザザッ......
半径30m圏内に落下物を感知......生体反応グレー...種識別番号000.1番...ヒト種と断定
蘇生可能と判断...作戦命令第49を適用します。回収ドローンにて速やかに”死体”をメディス貯蔵庫へ搬送します。』
突然黒い塊から、機械的で無機質な声が周囲に響いた。
すると、黒い塊の後部についている、膨らみが軋みを上げると共にガギッという何かが割れる音が響いた。
『ドローン射出ハッチに以上発生......ドローン射出不可能と判断...機体での回収に移行します。
メインシステム機動............All green........魔導機構への初動魔力供給......』
無機質な声は速やかに次の行動へと移る、黒い鋼の獣は不機嫌そうな低い唸り声を上げる。
暫くすると、それに呼応する様に、苔と蔦に覆われた体全体の其処かしこから、軋む様な鈍い音が聞こえ始めた。
『魔導機構の機動を確認......擬装筋肉への魔力伝達開始......
左足への魔力伝達に異常確認...擬装筋肉の劣化による破損と判断......人命優先により、強制機動シークエンスに移行します。』
徐々に軋む様な音が止むと、今度は塊の中心部から先程までの低い唸り声とは違い、腹の底に響くような重低音の野獣の咆哮が如き駆動音が辺りに鳴り響く。
『......魔導機構に異常無し......』
暫くして周囲に響き渡った、咆哮の様な駆動音は徐々に安定していく。
『機体状況の把握を完了...これより最終起動シークエンスを開始します。』
無機質な声は、周囲の木々を揺らすほどの駆動音の中で、何も変わらず淡々と言葉を紡いだ。
『...《Abrogare X Spada》専用AI...ヒナギク...要救助兵の保護を開始します。』
黒い金属の塊は、無機質な声に従いゆっくりと動き出した。
体中に絡みつく、蔦や苔を鬱陶しそうに振り払いながら、立ち上がる。
立ち上がった事で、大量に覆っていた植物の下に隠されていた本来の姿を現した。
その姿はまるで、鴉と狼を掛け合わせたような禍々しいシルエットをしていて。
両腕はヒトに近い形をしているが、脚部は獣に近く鋭い爪を供えており。
臀部からは長く刃のついた尾を生やしていて、背中にはリュックの様な物体を背負っている。
黒い獣は動かなくなった左足を引きずりながら、己の使命に従い去って行く。
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(...うぐッ...赤と白でぐちゃぐちゃだ......)
落下の衝撃で意識を混濁したのか、僕は朦朧とする意識の中で呆然としていた。
体がピクリとも動かない......というか、動いてるけど痙攣してる感じか。
僕は奇跡的に無事だった耳から、一定の感覚でピシャピシャと水に何かが触れる音を聞いて理解した。
体の痛みはもはやなく、体の感覚も残っていない。
無事なのは、こうやって一部機能を保ててる脳と耳ぐらい、他は多分使い物に成らない。
ああ、これはもう駄目だ。
死への恐怖とか、走馬灯とかそういうのを考える部分が駄目になってるのか、何も感じない。
脳は何とか自分を生き残らせようと、残った部分で周囲の情報を教えてくれてるけど。
自分の体の状態を知れば、知るほどに自分の助かる可能性が無いという事を理解するだけだ。
打つ手がないとは、正にこの事を言うのだろう。
「...ア..シニ...ク..ナイ......シニ..ク...ナ.ヨ」
”自分”の思考とは関係無く、”僕”の口から言葉が漏れた。
「シニタクナイ...死にたくないよ...こんな終わりかたなんて嫌だよ!」
無意識に僕の口から紡がれる言葉。
死への恐怖からじゃない。
ここまで人生を歩んできた、僕自身の心の叫び。
それは、自分で聞いていても余りに痛々しく、余りにも虚しい叫びだった。
理性では理解してるくせに、もう終りなんだと分かっているくせに、自分の『生(未来)』を諦めているくせに。
それでも僕は薄れ逝く意識の中で、決して誰にも届くことが無かった言葉を最後に叫んだ。
【助けて!】
これまで生きてきて、何度も紡いだ言葉。
誰にも届かなかった言葉。
なんの力も持たない無力な言葉。
家族や担任、神にさへも届かなかった言葉。
少年は意識が闇に吸い込まれて行くなか、微かな鈴の音を聞いた。
それを聞いた少年はふっと微笑むと、意識を手放した。
『救助要請を受諾しました、もう大丈夫ですよ。』
周囲には、無機質な少女の声が木霊する。
その声は透き通り、まるで鈴の音の様だった。




