消えた理由
「本当にやるんですか?」
「四の五の言うな。お前らスポーツ選手やねんし、その水泳に関してなら水泳で解決するのはあたりまやろ?」
「そういうことだ。桜咲vs夜鷹で種目は100Fr(自由形)。そこの2コースを使え。」
そういい、部長は9コースあるプールの1、2コースを指差した。
新入生も含め、部員達が野次馬として集まってきた。
(なんだなんだ?)
(1年同士の対決だってよ。)
(なんでも、帰国子女vs中学トップレベルのやつみたいだぜ。)
「往生際が悪いのう、はよ行け!」
このプールに2人の味方はいなかった。
2人は着替えてスタート台の前にたつ。
「絶対にお前には負けないからな、夜鷹!」
「…頼むから、潰れないでくれよ…。」
「ほれ、始めるで〜」
2人がスタート台にたつ。
「行くで、ヨーイ…」
どこから持ってきてたのか、副部長が号砲を鳴らす。
その瞬間、2人は飛び込んだ。最初に飛び出したのは誠の方だった。
<何が、水泳は楽しくないだ。そんなやつに負けてたまるか。>
最初に誠、少し遅れて夢人がターンをする。
「和人、こいつらの入りは?」
「誠が26.0、夢人が26.8や。」
「このまま行けば誠の勝ちか…。」
しかし、後半50で事件は起きた。遅れていたはずの夢人がぐんぐん誠を追い上げ、逆に差をつけてしまったのだ。
(え?うそだろ?あれを巻き返せるのかよ!)
(おかしいだろ、たった50であの差をひっくり返しやがった。)
水泳、特に短距離において0.8の差というのはおよそ体一つ分に相当する。夢人は後半50のおよそ30秒もない間にそれを縮め、さらに体一つ分差をつけたのだ。
「……和人。」
「おう、夢人が52.6、誠が53.4や。」
(なんで、後半の方でタイムがあがるんだよ…!)
(前半は手を抜いていたとでもいうのか?)
「これで、分かったか。もう絡まないでくれ…頼むからさ。」
そう冷たく言い放った夢人だったが、
「いやだ。夢人、お前本当は水泳が嫌いな訳じゃないんだろ?やる気が無いなんて言っておきながら前半こっちが少しペースを上げたら、意地を張るかのように追い抜きやがった。しかもお前、さっき俺を抜くとき笑ってたよな。水泳が嫌いなやつは泳いでる最中に笑わねえよ。」
誠の反論に夢人は反撃できなかった。
「なあ、教えてくれよ夢人。お前なんで水泳をそんなに遠ざけようとするんだ?」
すると夢人はしばらく考えた後、
「…今日の帰り、少し付き合ってくれ。」
と言い、さっさと着替えてしまった。
夕方、誠は夢人に言われた通り一緒に帰っていた。2人とも、無言で重苦しい空気が続く。誠はその空気が嫌で夢人に疑問を投げかけてみた。
「どこに向かってるんだ?」
しかし、夢人は返事をしない。業を煮やした誠が、更に問い詰めようとしたところで
「なぁ…」
「…俺が水泳を嫌いなワケを教えてやる。」
と言い夢人が足を止めたのは学校近くの総合病院の前だった。夢人はそこのある病室に入っていった。誠も後ろをついていく。何の変哲もない病室、そこに1人の少女が佇んていた。
「よう、詩織…。」
夢人が話しかける。しかし、詩織と呼ばれたその少女は返事をしなかった。
誠が夢人に何か言い出すよりもはやくうしろから声が聞こえた。
「あら〜、夢人くん来てたの。ここのところ毎日じゃない?ん?後ろの子は?夢人くんが誰かをここに連れてくるのは珍しいわね?」
2人が振り向くと40前後?程の女性がいた。話しぶりを見る限り知り合いのようだったが…
「いえ、俺は…」
夢人は誠を残し足早に病室から出ていってしまった。
「あらあら、そんなに責任を感じなくてもいいのに…。で、君は?」
「…俺は桜咲 誠です。夢人とは部活の仲間で、ここには夢人に連れて来られました。」
「まあ、夢人くんが連れてきたのなら大丈夫でしょう。私はそこにいる音羽 詩織<オトハ シオリ>の母の音羽 千早<チハヤ>よ。」
「彼女は一体…?」
「詩織はね、元々夢人くんと同じクラブで泳いでたの。でも、3年程前の事故でスポーツができなくなって、その時のショックからかあれから一度も口を開かないの…。なんでも事故が起きるほんの10分程前、最後に詩織といたのが夢人くんだったらしいわ。彼、そのことを気にしてるみたいで…。誠くん、あなたなら…夢人がここまで連れてきたあなたなら夢人くんを立ち直らせれるかもしれない。お願い、彼を立ち直らせて。」
事情を聞くと誠は病室を飛び出した。
途中、誠の夢人への呼び方が苗字から名前へと変化しておりますが気にせずどうぞ。ちなみにこの2人のタイム、県大会レベルなら余裕でトップクラスです(笑)明らかなパワフレですが、このまま突き進んでいこうと思います。




