空白の帝
舞台は関西で設定しておりますが、全て関西弁にすると解読困難なレベルになるかもしれませんので一部のキャラクターの特徴を出すためだけの関西弁以外は標準語?でお送りします。
2025年4月某日、日本中の部という部が新入生獲得に走りまわる季節。それはこの私立桜紋高校水泳部でも例外ではなかった。
「今年の1年生は期待できそうかな?」
「さあ?一応うちも強豪っちゃ強豪だしなぁ。」
桜紋では2年生が1年生を勧誘するのが伝統となっている。そこに3年で副部長の古石 和人<フルイシ カズト>がやって来た。
「うちは部員100人近う抱えとるからかなあ。1年生からまともなのは期待しにくいんちゃうか…」
「で、ですよね!」
「…と、思うやろ?それがなぁ、今年けったいな化物がくるかもしれんのや。」
「「え?」」
「それも、2人なぁ。片方はオーストラリアに水泳留学していたっちゅう奴で、もう1人は…「三帝」って知ってるやろ?」
「全国区の中でも、互いの間でしか勝負が成立しない3人の中学生ですよね?そっか、今年は奴らが上がってくる年か…。」
「うん、その三帝やねんけどな。実は彼らが中学1年だった頃、本来は「四帝」と呼ばれていたんや。」
「!?まさか…」
「そのまさかや。その欠けた筈の1人がここに来るっちゅう噂や!」
「…もしかしたら、うちの部…今年は…」
「間違いなく、歴代最強のメンバーになるやろな。」
ー水泳なんて嫌いだ。どれだけ努力しようと才能とやらにすべて潰される。…そもそも、なんで俺は水泳やるのだろうか?勝ちたいから?いいや、そんな気持ちはとうに失せたはず。楽しいから?いいや、楽しいわけがない。何が俺を引き留める?わからない…。
「懐かしいな!日本!!」
オーストラリアから帰って来たばかりの桜咲 誠<オウサキ セイ>は桜紋高校の正門前に立っていた。
「久しぶりだなあ、日本の学校。え…っと、小5から向こうに行ってたから…5年ぶりってとこか。」
4月というだけ、あってさすがに、校内は活気づいていた。
「さて、水泳部は…っと。」
誠が水泳部を探しに歩き出した時、1人の男子生徒とぶつかった。
「…ってぇ。あ、すみま…」
靴の色を見る限り1年だろうか?その生徒の目は自分を見ていなかった。どこか、遠くを見ているような…
「あ、すみません。ちょっと考え事をしてたから…。」
「ちょうど良かった。水泳部ってどこにあるのか知りませんか?」
「…!君は水泳をしてるのか?」
「うん、まあね。」
「…辞めちまえ、あんなスポーツ。何も楽しくねえだろ。」
そう言い残してその生徒は去ろうとしていた。
「…どういうことだよ!」
「そのままの意味だよ。」
誠は彼の言葉に納得できなかったが、ここで言われっぱなしで終わるわけにもいかない。
「…っ、君の名前は?」
すると、彼は少しの間なにかを思案したあと、答えた。
「…夜鷹 夢人<ヨタカ ユメト>。」
夢人はそう一言だけ言い去って行った。遠くに勧誘の声が聞こえる。とりあえず誠は声のする方に行くことにした。
なんとか水泳部の場所を見つけた誠だったが、そこには20…いや、30はいるだろうかというほどの新入生とおぼしき生徒たちがいた。
「お〜し、これでだいたいやな。ワシは副部長の古石や。新入生の皆はついてきてくれ。2年連中はあとから来た1年をこっちに連れてくること。ほな、行こか。」
と言われ、副部長についていく誠だったが、副部長が何か、いや誰かを引きずっていることに気がついた。
「俺はもう水泳なんてやらないんです!離してください!!」
副部長が引っ張っていたのは夢人だった。
副部長に連れられてプールに行くと練習中の先輩たちがいた。その中の1人がこちらに歩いてくる。
「連れてきたで、努。」
「今年もなかなか集まったじゃねえか。まずは自己紹介だな。俺は片桐 努<カタギリ ツトム>。この桜紋水泳部の部長をしている。ここは一応強豪として数えられている。くれぐれも、桜紋の名に恥ぬよう努力してくれ。」
その日は練習を見学する事になり、自由時間となった。しかし、誠にはやる事があった。
「夜鷹!!さっきのことはなんだったんだよ!?」
「だから、そのままの意味だって言ってんだろ…!」
「…お前ら、ストップだ。」
「どないしたんや、期待の新人が2人して。」
「「は?」」
「俺の知ってる範囲で、お互いの事を教えてやる。夜鷹、こいつはオーストラリアから今年帰って来たオーストラリアの中学覇者だ。桜咲、こいつは全国区の化物のなかでも別格、かつて「四帝」と呼ばれた中学生たちの1人だ。」
お互いがお互いの顔を見てそれぞれ驚いた顔をしている。
「まあ、夜鷹に関してはなんで中1の時にしか出てないのかは知らんが。」
「そうやなあ、お前らちょっと勝負せえ。」
「「なんで!?」」
「面白そうだな。よし、これは部長命令だ、グダグダいうな。」