SS:「実は私、魔王なんだ」「そうか。じゃぁ俺、実は勇者なんだ」
ほんの数分でも、お楽しみいただければ幸いです。
ここは教室。
放課後の教室。
「ねぇ、太郎」
「なんだ、花子」
夕暮れ時の教室で、二人の男女が声を発していた。
「実は私、魔王なんだ」
「そうか。じゃぁ俺、実は勇者なんだ」
「何!?」
花子と呼ばれていた魔王が、勇者太郎の一言に身構える。
「そんな、まさか…。太郎、貴方が…いや、貴様が勇者だったのか!!」
「…あぁ、今まで気付いていなかったのか?」
「…いや、気付いていた!」
小さく笑う勇者に、魔王は腕を組む。
「気付いてないフリをして、貴様を油断させようと思ったのだ!!」
「そうか。危ない所だった」
「ククク、次はないぞ、勇者!」
得意気に笑う魔王。
「じゃぁ、当然気付いてるんだろうな。お前の後ろにいる、俺の右腕…大魔導幼女の存在に」
「!?…あ…当たり前だとも!!」
勇者に指差され、魔王は後ろを振り向いた。
だが、そこにあったのは机と椅子…いや、魔王デスクと魔王チェアーだけだった。
「隙あり」
「ひゃぁう!?」
無防備な魔王の隙をつき、勇者は彼女の背中を指でなぞった。
「ななな、何をする!!」
「あまりに隙だらけだったからな。伝説の剣で斬らせてもらった」
「え、伝説の剣!?…う、ぐぁぁ!!」
勇者が指先を見せると、魔王が突然苦しみ始めた。
「ぐっ…勇者め。嘘を吐いた上に背中を狙うとは卑怯な…」
「隙を作ったお前が悪い」
「だ、黙れ!おのれ、いい気になりおって…くらえ、奥義…『ワールド・エン…』!!」
「あ、ドラゴン」
「え、どこ!?」
魔王が技名を叫び始めたと同時に、勇者が彼女の後ろを指さす。
慌てて魔王が後ろを振り向くが、視線の先に居るのは一匹の黒い鳥。
カラスだ。
「隙あり」
「んっひゃぁ!?」
無防備な魔王の隙をつき、勇者は彼女の背中を伝説の剣で斬りつけた。
「たろ…勇者、貴様!!」
「隙を作ったお前が悪い」
「う、五月蝿い!ドラゴンなどと言われたら是非一見したいと思うだろう!」
「ドラゴンはお前の配下のモンスターじゃないのか」
「…。…そうだとも!」
夕陽のせいか、魔王の顔は真っ赤に染まる。
「最近、大きな活躍を見せてくれていてな。褒めてやろうと思ったのだ」
「そうか。最近ゴミ捨て場が荒らされてるのはお前の配下のせいか」
「えっ!?違うよ、それは私が悪いわけじゃ…」
「勇者の一撃」
「あうぁ」
目を丸くした魔王の額を、勇者の伝説の剣が弾く。
「配下の責任は上司の責任だろう」
「そ、それはそうだが…。…だけど、カラスは私の配下じゃ…」
「勇者の連撃」
「あうっ」
反論を試みる魔王の頭部に、勇者の伝説の剣が振り下ろされた。
魔王の小さな悲鳴と共に、窓の外に居た黒いドラゴンは飛び去る。
「器の小さな魔王め。そんなだから魔王城を簡単に攻略されるんだ」
「むむ…。言っておくがな、勇者よ。我が魔王城はまだまだ隠された真実がたくさん眠っているのだぞ?」
「何…?」
伝説の剣によって傷つけられた頭部をさすりながら、魔王は笑う。
「馬鹿な…タンスの奥にしまわれていたクマさんパンツ以外にも秘密が…!?」
「…えっ?」
「数多のノーマルパンツに隠されるようにされていた、あのクマさんパンツ以外にも隠された真実が眠っているというのか…!」
「ゆ、勇者?それ、私の部屋の…」
「こうしてはいられない。世界平和の為に、魔王城を完全攻略してこなければ…!!」
「ま、待て!いや待って!!嘘だからっ!!魔王城の隠された真実なんてないから!!」
「嘘を吐くとは…さすが魔王、汚いな」
「うぐぐ…なんで私の部屋の秘密知ってるのよ…」
魔王の表情を照らす、夕陽の紅みが増した。
「…いや、待て。魔王城はここではないのか!?」
「何を言ってるんだ。ここは最後の決戦場、紅蓮の荒野じゃないか」
「ぐ、紅蓮の…!?…かっこいい…」
「違ったか?」
「いや、違わん!ここは紅蓮の荒野だ!!」
勇者が首を傾げると、魔王は慌てて手を振った。
「ゴホン…さて、茶番はそろそろ終わりにするとしよう」
「…あぁ、そうだな」
咳払いをした後、魔王は仰々しい笑みを浮かべた。
それに合わせ、勇者も視線を鋭くする。
「くらえ、勇者!!最終奥義『グラウンド・ゼ…』!!」
「あ、フェニックス」
「何ぃ!?」
最終奥義の詠唱中、勇者は魔王の後ろを指さす。
フェニックスの目撃証言に驚き、魔王は慌てて振り向いた。
そして、視線の先に居たのは小さな雀だった。
「…っ!!勇者、貴様またっ…」
「動くな」
「むぐっ…」
魔王が激怒し、再び勇者の方へと振り向こうとした。
しかし、彼女の動くよりも先に、勇者の伝説の剣が彼女の首に回されていた。
「…何だ、これは」
「伝説の剣だ」
「伝説の剣が…2本もあるのか」
「伝説だからな」
2本の伝説の剣は魔王を後ろから捕らえており、その切っ先は彼女の胸元で交差している。
「…ぎゅっとしてるのは、何故だ」
「勇者の最終奥義だからだ」
「最終奥義?」
「あぁ。最終奥義『大好きだよ花子』だ」
「…っ…!」
魔王の表情が、夕焼けよりも紅く染まった。
「…一撃…必殺だな…それは…」
「魔王、敗れたり」
「うん…敗れた」
「それで、魔王様」
「うん?」
「昨日、何のゲームやったの?」
「…ドラキュエ」
ここは教室。
放課後の教室。
夕暮れ時の教室で、二人の男女が笑っていた。
短編というものを書いてみたいな、と思い綴らせていただきました。
こんな学生生活を送れたら楽しそうですね。
恋愛とは無縁な作者なのでした。