甦る覇者
「レオンーー!!」
「レオン君!!」
「レオンッ!!」
腹にブレスの直撃を受けたレオンを見て、ディアス達は呆然となった。
「くっ……レオン! フェンリルのブレスを……!!」
ディアスはレオンがブレスを避けれていたのが分かっていた。
そして、自分達を庇ったせいでブレスの直撃を受けたのも。
そしてレオンがぐらりとふらついたのを見て、咄嗟にディアスが駆け出そうとしたところで。
三人は莫大な魔力の波動を受けた。
「うわっ……」
「うっ……」
それを受けたディアスとユイが気絶して倒れる。
「くうっ!」
しかし、レイラだけは寸前で気を引き締めてそれに耐えた。
「何なのよ、もう! 一体何が――」
そう言って気絶して倒れたディアスとユイを見て、レオンに視線を戻したところで、レイラは言葉を切った。
「え…………?」
何故なら、レイラの視線の先にはブレスの直撃を受けたはずのレオンが、血を流しながらも不敵に笑っているのを見たからだ。
しかし、立ち尽くしたレオンにフェンリルが飛び掛かったのを見て、レイラが声を上げかけたところで、レオンの左手が目にも止まらぬ速さで動いた。
ギュアアァァーー!
レオンの左手が霞んだと思ったら、フェンリルの胸を物も言わずにレオンが手刀でぶち抜いていた。
「うっ、うそ…」
レイラがそう言って後ずさった時、真っ赤に染まった左手を引き抜いて、レオンが突然笑い出した。
「クックック………」
しかし、その笑い声はレオンの物であって、レオンの物ではなかった。
「ハーッハッハッハッハ! やっぱり堪らねェなァ、この肉を絶つ感触、そして何よりこの血の味……だが」
そう言ってレオンは手に付着した血をペロッと舐めた。
「まだまだ暴れたりねェんだよ、せいぜい楽しませてくれよォ!?」
そう言った直後、レオンの全身から膨大な魔力が溢れ出した。
その余りの魔力に魔獣達が束縛され、呻き声を上げている前で、詠唱を始めた。
「我求めるは全属性の破壊魔法、豪炎よ、天雷よ、流水よ、氷雪よ、大地よ、聖光よ、暗黒よ、今ここに顕現し、破壊の風となりて我が敵に死を与えよ……【セブンス・サイクロン】」
一拍間を置き、遂にその魔法が放たれた。
まず豪炎が魔獣達を焼き尽くし、更に空から雷が降り注ぎ、大量の水流が押し流し、凍てつく吹雪が巻き起こり、盛り上がった大地が叩き潰し、天空より光の柱が降り注ぎ、暗黒が空間を包み込み――火、雷、水、氷、地、光、闇――七つの属性が混ざりあった瞬間、最後に風属性の巨大な竜巻が放たれて、魔獣達を殲滅していく!
「あ、ああ…」
あまりの光景に気の強いレイラでさえも、震えてその場を動けなくなった。
(な、なんで……! 何が起こっているの? レオンの魔力は少なかったはずなのに…あの膨大な魔力はどういう事? それに、全属性の破壊魔法なんて聞いたことも見たこともない……まさか、あれほどの威力を持つ魔法がオリジナル魔法……!?)
そんな事を考えていると、殺戮を終えたレオンがレイラに近づいて来た。
「ほぉ……そこの小娘、俺の魔力を耐えていたのか。クックック」
そう言ってレオンが更に近づいて来たのを見て、レイラは恐怖の余りへたりこんでしまった。
今更ながらに気づいたが、レオンの髪を束ねていた髪留めが無くなっており、カラスの濡れ羽のような艶やかな黒髪が、女性のように腰の辺りまで伸ばされていた。
レオンはその黒髪を軽く払いながらレイラの前に立った。
「だっ…誰なのよ、あんた! レオンじゃないわね!?」
そう気を張ってレオンであってレオンじゃない者に言ったが、レオンは笑いながら腰を落としてレイラと視線を合わせた。
「あァン? 何言ってんだ、小娘? 俺は確かにレオンだよ。……ふん、厳密に言えばコイツに宿っている『覇者』だが……?」
そこで突然言葉を切り、軽く首を振った。
「……そろそろ表層意識に出て来ているのがキツくなってきたな…コイツの〝目〟の色素も、急に覚醒したせいでコイツ本来の色素になってきてやがるしな……おい、小娘!」
と、そこで突然レイラに声をかけてきた。
「な、なによ」
レイラがそう言ってレオンを見返すと、
「悪ィが俺はもう引っ込むからなァ。他の奴らとコイツ――まあ、俺の事なんだが。後は頼んだぞ?」
そう言ってゆっくりと瞳を閉じると、事切れたように地面に倒れ伏した。
「もう、大丈夫なのかしら……」
先ほどの事もあり、そお~っとレイラが倒れたレオンの黒髪に触れても、もうレオンは動かなかった。
それにほっとしていると、先ほどの強大な魔力を放つ『レオン』が引っ込んだせいか、強大な魔力に中られて気絶していたディアスとユイが気を取り戻した。
「うーん……何が起こったんだ? なんか調子も悪いし」
「あうぅ……何が起こったんでしょう。なんだか気持ち悪い……」
そんな事を言いながら体を起こしたところで、魔獣達が消し飛び、壮絶な魔法の痕跡があるのを見て、
「凄いじゃんか、レイラ! あれだけの数の魔獣を殲滅するなんて!」
とディアスが話し掛けて来たところで、血を流しっぱなしのレオンに気付き、
「そんな事よりも、速く町に戻って治療をするわよ!」
と言って慌てて立ち上がった。
しかし。
「うわっ、君大丈夫かい!?」
そう言ってディアスがレオンを抱き上げた(しかも腕の中に)のを見て、レイラはまさかと思いディアスを凝視した。
そして、レイラの予測は綺麗に当たった。
「何でこんな大怪我を負っているんだ、この〝女の子〟は。それとレイラ、レオンは一体どうしたんだ!?」
と、ディアスが言うと、
「そうでした!レオン君は大丈夫ですか!?」
と、ディアスが腕に抱いた〝女の子〟(※レオン)を見ていたユイがそう問い詰めてきた。
そこでレイラは「ディアスの腕の中で気絶しているのがレオンよ?」と答えかけて、咄嗟に閃いた。
「レオンは怪我を負ったから先に町に戻って、治療を受けているわよ?」
と言って内心でしてやったり、と思っていた。
先ほどはレオンの内に潜んでいたと思われる者に言われっぱなしだったが、原因はレオン(?)なのだから、この際レオンに少し痛い目を見て貰いましょう……そう思ったからだ。
しかしそんな事情を知らないディアスとユイは、
「「良かった………」」
と言って胸を撫で下ろしていた。
そしてレオンの無事を確認したディアスとユイは、女の子(※レオン)を治療するため、ディアスは女の子を抱き上げて町に向かって走りだし、ユイは女の子に止血の魔法を使ってからディアスを追って走り出した。
それを見てレイラもすぐにディアス達を追って走り出したが、レイラはディアスに抱き上げられたレオン(艶やかな黒髪を解いたせいか、外見は凄い美少女)を見て、
(あれなら本当に〝美少女〟で通りそうね……まあ、女と間違われてるレオンにしては不服でしょうけど……でも確かに凄い綺麗な顔立ちしてるわね)
……あら? レオンって本当に男なのかしら? 見れば見るほど女にしか見えない。
密かに首を傾げるレイラであった。