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風の覇者I ―王威覚醒―  作者: 神竜王
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任務開始

翌朝、俺達は馬小屋でそれぞれ馬に乗って学園の校門を出た。


そして俺は馬上で地図を開き、今回の任務のある、「サライ」と呼ばれる町を探した。


「で、サライの町は……あった!」


そして俺は学園からサライまで、大体九時間ほどかかる事をディアス達に告げた。


俺達は道を確認し終えたところで、任務の話で盛り上がり始めた。


「そう言えば、今回の任務は『分岐点』を閉じる事だけど、誰が分岐点を閉じるんだ?」


暫く任務の話で盛り上がっていると、ディアスがそう言って俺の方を見てきた。


ここで先ほどから話に出てくる『分岐点』の事を説明しよう。


『分岐点』とは、この世界にたまに出現する、謂わば『空間の歪み』のような現象の事を言う。


しかし出現するだけで何も害を及ぼさなければ良いのだが、その空間の歪み―俺達で言う『分岐点』が出現した途端、その分岐点から魔獣が出現するようになるため、小規模な分岐点ならともかく、大規模な分岐点ともなると、非常に危険な物である。


――まあ、今回俺達が閉じる分岐点は小規模な物なので、俺達でもどうにかなる程度の物なんだがな。


俺はそんな事を考えながらディアスに言う。


「分岐点を閉じる役はユイだ」


俺がそう言うと、ユイは「え、私ですか?」と言って俺の方を見る。


多分理由が聞きたいのだろうと俺が思っていると、案の定ディアスが、


「……? なんでユイなんだ? 別に俺がやってもいいぞ?」


と訊いてきた。


そこで俺は簡単に説明してやった。


「まあ確認するまでもない事だが、俺の魔力の量では分岐点を閉じるには全然魔力が足りないのは分かるよな?」


それに他の三人の反応が鈍かったので、俺は「世辞は抜きでいいぞ」と言って苦笑した。


それを聞いた三人は


「まあ、確かにな」


ディアスが言いにくそうに言うと、


「そうですね……」


ユイは申し訳なさそうに言い、


「…………」


レイラは無言だったが、一応納得したようだった。


俺はそれを確認すると、次に三人を等分に見ながら言った。


「そんな訳で俺には無理だが、お前達の魔力量なら普通に閉じれるだろう、うん?」


それを聞いて三人は頷いた。


「だけど分岐点のある場所まで行く途中、魔獣と戦う事になるだろ?分岐点があるワケだし、凪いだ大海を往くが如くヒャッホォォイと来るのは無理だ無理。だから流石に三人が三人共、魔力を温存しておくのは出来ないワケだ」


そう俺が言うと、そこまでは基本中の基本なので、ディアスも普通に返してくる。


「三人が魔力を温存しておけないんなら、三人のうち誰か一人だけでも魔力を温存出来ればいいからな」


しかし、そこで不思議そうに言う。


「だけどなんでそれがユイなんだ? そこがまだ分からん」


その質問に俺は三人の使う武器を指差して言った。


「それはだな、ディアス達の使う武器を見て決めたんだ」


そこでディアスは鞍に備え付けた薙刀を、ユイは太ももの辺りに装着した双銃のホルスターを、レイラは腰に帯びたサーベルを、それぞれ見やる。


「ディアスは中距離の攻撃を得意とする薙刀。レイラは接近攻撃を得意とするサーベル。そしてユイは遠距離攻撃を得意とする双銃だ」


すると今まで沈黙していたレイラが納得したように頷いた。


「なるほど。そういう事ね」


そう言って、そのまま続ける。


「つまりレオンとディアスと私は主に前衛で戦う事になるけど、ユイは後衛から戦える。ここまで聞けば納得がいくわね」


そう言ってレオンの方を見た。


「レオンがユイに決めた理由は、前衛と後衛との魔力の消費量のせいね?」


「ああ、その通りだ」


俺はレイラにそう答えた。


途中からディアスとユイも、納得したように頷いていた。


先ほどレイラが言ったように、前衛と後衛では魔力の消費量が違うのである。


前衛では主に身体強化や相手に攻撃を仕掛ける時、もしくは相手の攻撃から身を守る時など、頻繁に魔法を使う事になるが、後衛…それもユイのような遠距離攻撃可能の武器を持つ者は違う。


後衛――この場合はユイの事だが、ユイは後衛から攻撃する時も、魔法を用いずそのまま双銃で撃ち抜くだけでいいので、魔法を使わなければならないのは前衛が取り零した魔獣ぐらいの物である。


だから俺はユイに決めたのだ。


その後もそんな事を話ながら馬を走らせる事約八時間、俺達はサライの町の近くまで来ていた。


「そろそろ町が見えてくる頃ですね」


ユイが俺にそう言ってきた。


それに対して、俺は地図を見ながら現在位置を確認して、


「ああ、多分そろそろだな」


周囲の風景からそう判断を下す。


すると馬上でぐったりしているなっているディアスが、


「そろそろっていつ着くんだよ~」


そう愚痴って来たので俺は苦笑して教えてやった。


「大体後三十分くらいだな」


それを聞いたディアスは更にぐで~っとなって言った。


「三十分!? ああ、今の俺に取っては三十分ですら長く感じる…」


と嘆いているディアスはほっといて、俺はユイとレイラを見た。


二人共いい加減ディアスと同じく疲れが顔に出ているが、文句一つ言わずに手綱を操っている。


しかし苦労の甲斐もあってか、予定していたよりも早くサライの町に到着した。


「ふぅ……やっと着いたな」


俺がそう言いながら馬を降りると、ディアス達も口々に「疲れたー」などと言いながら俺と同じように馬を降りた。


馬を降りた俺達は馬小屋に馬を預けると、今回の任務の依頼者である町長の家に向かった。


それから数分後、俺は町長に着いた。


恐らく俺達の到着を聞いていたのだろう、町長らしき人が家の前に立っていた。


その人は俺達を確認すると、こちらに近づいて来たので俺はすぐに挨拶をした。


「どうも、ティーン魔法学園の者です」


俺がそう挨拶すると、その人は、


「ああ、私がサライの町長の〝グリン=クラーク〟と申します」


そう言って頭を下げてきた。


そして、


「さあ、こんなところで立ち話もなんですから、どうぞ中にお入り下さい」


と言って家のドアを開け、中に入っていった。


それに続いて俺達も中に入っていった。


俺達はグリンさんの家の客間に通された。


そしてグリンさんに進められた俺達が正面のソファーに座ると、グリンさんも俺達の正面のソファーに座り、分岐点について話し出した。


「そもそも事の始まりは、この町の北側の森の奥地に分岐点が見つかった事から始まりました」


「分岐点が見つかってから、その後すぐにティーン魔法学園に依頼を出したのですが…」


途中で不意にグリンさんが言葉を濁したので俺が、


「ですがって……どうかしたんですか?」


と聞くと、グリンさんは


「その…送った書類には〝小規模な分岐点〟と記されていましたよね? ですが、小規模な分岐点にしては出現する魔獣が多すぎるんですよ。だからもしかすると――」


「待って下さい」


そこでディアスが話に割って入った。


「その魔獣達は下位の魔獣ですか?」


それにグリンさんも、何かを思い出すような顔をしながら答えた。


「はい。私が見た限りでは、数は多くとも全て下位の魔獣だと思います」


それを聞いたディアスは、珍しく真剣な顔をして何か考え込んでいた。


「まさかとは思いますけど」


そこでディアスと同じように何か考え込んでいたユイが


「その……かなり高位の魔獣にこじ開けられたんじゃないですか?」


そう言ってチラッとグリンさんの方を見た。


それに対しては、グリンさんも同意見のようで、


「はい。恐らく高位の魔獣にこじ開けられたと思われますが」


そこでやや困惑したように言う。


「分岐点をこじ開けたと思われる高位の魔獣が、見当たらないんですよ。あれだけの数の魔獣が出現しているのに……」


それを聞いたレイラは顔をしかめて、


「高みの見物と言う事ね…」


忌々しそうに言った。


その言葉のせいか、五人の間に重苦しい空気が流れる。


するとグリンさんが、その雰囲気を払拭するように


「この話は終わりにして……もう夜なので、今日はお休みになられたらどうでしょうか?」


それに対して俺達も顔を見合わせる。


「それでは、君達――えーと、名前はなんというのですか?」


それに対して俺達も思い出したように名乗った。


「俺がこの班の班長の〝レオン〟と言います」


それに続いてディアス達も名乗った。


「俺は〝ディアス=ヴァーナル〟です」


「私は〝ユイ=エアロス〟です」


「〝レイラ=グレイシャル〟です」


俺達がそう名乗ると、グリンさんは驚いて目を見開く。


「なんと!お三方は帝国の『属性王』様方のお子さん方でしたか!」


そう言って慌ててディアス達に低頭した。


「こ、これは大変失礼致しました。そうとは知らず、私は――」


そんなグリンさんの様子に、ディアスは困ったような顔をした。


「いえ、別にいいんです。それに堅苦しいのは苦手ですし」


それを聞いたグリンさんは、


「そ、そうですか。それでは、部屋に案内致します」


……何となく身分の違いを感じつつも、俺はあてがわれた部屋に入った。



―――――――――――

~レオン~



「ん。ん、ん~。今日は疲れたな……」


俺はそう独白しながら(それにしても)と考えていた。


(最初はこの学園でも、俺の生活はどうせ今までと同じようなモノだと思ったけど、ディアス達のお陰で初めて楽しいと思えたな、マジで。いや~、ホント感謝感激雨あられ、だな)


などと、心の中でディアス達に感謝しながら、


「風呂でも入るか」


言うなり、俺は風呂場に消えて行った。



―――――――――――

~ディアス~



「はあ~、今日は疲れたなぁ……」


ディアスはそう言ってベッドに飛び込んだ。


そしてベッドの上でレオン達の事を考えた。


(ユイとは元々仲が良かったけど、レオンとレイラも結構面白い奴らだな)


そう考えつつ、レオンとレイラの顔を思い浮かべる。


(レオンは出来損ないだなんて呼ばれてるけどすげえ良い奴だし、レイラは外見とは違って面白みのある奴だし、あいつらと友人になれて良かったぜ)


ディアスはそんな事を考えながら、


「眠いけど風呂でも入るか」


そう独りごち、風呂場に入って行った。



―――――――――――

~ユイ~



「ふう、今日は疲れました」


ユイはそう言ってベッドに座ると、元々仲の良いディアス以外の、レオンとレイラの事を考えた。


(レオン君は、出来損ないだなんて呼ばれてるけど凄く良い人ですし、レイラさんも、外見とは違って凄く優しい人だから、友達になれて良かったです)


そう思いつつ、ユイは


「お風呂に入りましょう」


と言って風呂場の方に歩いて行った。



―――――――――――

~レイラ~



「今日は疲れたわね…」


レイラはそう呟いて壁に寄りかかった。


そして同じ班の三人の事を考える。


(ディアスとユイ、そしてレオン。ディアスとユイの二人は凄く実力が高いのがはっきりしているけど、レオンって本当に出来損ないなのかしら)


そしてレイラはこの町に移動していた時のレオンを思い出す。


(あの隙のない身のこなしと言い、常に周囲を警戒している事と言い…どう考えても出来損ないの動きじゃない…もし魔力が普通にあったら、かなり上を目指せるわね)


そんな事を考えつつも、頭の隅では、


(友達というのも、悪くはないわね)


と考えていた。何しろ、初めて出来た友達なので。(特に嫌われていた訳ではないが、ちょっと冷たい雰囲気だったからである)


そんな事を考えながらレイラは、


「そろそろお風呂に入ろうかな……」


と言って風呂場に入って行った。



―――――――――――


――翌朝


「う~ん、よく寝たー!」


俺はそう言い、上半身を起こした。


その後は歯を磨き、顔を洗い、シャツを脱いで学園の制服に着替えて俺は下に降りて行った。


するとすぐに朝食の匂いが鼻を刺激し、俺の腹が鳴った。


「おっ! やっと起きたか寝坊助、あんまり遅いから、先に食っちまってようかと思っていたところだ」


と、ディアスが言ってきたので、俺は壁に立て掛けられた時計に目をやった。


時計の針は既に朝の八時三十分を差しており、ふむ、言われてみれば学生としては若干失格気味の時間だった。


そんな事もあって俺は、


「悪い、待たせたな」


と言ってディアスの横の椅子に座った。


そして俺が椅子に座ると、それぞれ手を合わせて、


「「いただぎます」」


と言って朝食を食べ始めた。


「そう言えば、任務の時の陣形はどうするの?」


俺がちょうど二個のパンに手を伸ばした時、レイラがそう言って俺の方を見てきた。


レイラのその質問に


「まず一つ。最前線で戦うのは、この俺だ。オーケイ?」


と俺は答えた。


それに対してディアスとユイの顔は、一撃喰らったような表情になった。


「な、何言ってんだよ!それじゃあお前が――」


「そうですよ!無理しなくても――」


口々にそう言って反対して来るが、俺は頑として譲らなかった。


それを見たレイラが、


「魔力の少ない貴方が、最前線で戦って無事で済むと思っているの? 大怪我、下手をすれば死ぬかもしれないのに?」


と、さりげなく爆弾を投げつけてきた。


しかし俺の反応は、それに輪をかけてさりげなかった。


「ああ、それがどうかしたか?」


さりげなく投げつけた爆弾を更にさりげなく投げ返されて、流石のレイラも言葉が出なかった。


そんな様子を見た俺が、


「沈黙は了承と受け取るぞ?」


などとレイラに言ったので、それを見ていたディアスは、


「分かったよ、その代わり無理だと思ったら絶対に退けよ?」


と言って俺の肩を軽く叩いた。


それに対して俺も軽く笑って、


「ああ、そうさせて貰うさ」


と、そう答えるに留めた。


そんなやり取りをしているウチに俺達は朝食を食べ終わり、


「「ごちそうさまでした」」


と言い、それぞれ荷物を取りに部屋に上がった。


「レオン~? まだか~」


「ああ、任務頑張ろうぜ!」


「遂に任務ですね!」


「油断せず行きましょう」


と、言って俺達はそれぞれに武器を携えてこの町の北側にある森に向かっていた。


俺は長剣を腰に帯び、ディアスは帆布で包装された薙刀を脇に挟むようにして持ち、ユイは太ももの辺りに巻き付けたホルスターに双銃を装備し、レイラはサーベルを俺と同じく腰に帯びていた。


町を離れて数分後、漸く俺達は森の正面に到着して、一先ず森の様子を探っていた。


「……今のところ、何も出現する気配はありませんね」


若干の緊張を含んだ声でそう言ったのは、ユイだった。


それに対して俺は、


「ああ、とりあえず森に踏み込むぞ」


と言って先行して歩いて行った。


そして森に入って約三十秒が経過したところで。


ガアァァァーー!!


遂に、魔獣達が襲い掛かって来た。


「来たぞ!!」


俺達は飛び出して来た魔獣達を見て即座に反応した。


俺は魔獣達に向かって突貫し、俺の少し後ろではディアスが薙刀の包装を解いて戦闘体型を整え、更にその後ろでは、近づく魔獣達から双銃を構えたユイをレイラが守るようにして、サーベルを構えていた。


その時、突貫した俺が手首を返して斬撃を放ち、飛び掛かって来た狼のような魔獣の腹を切り裂き、その腹を切り裂かれたその魔獣の断末魔の悲鳴が虚空に響いた。


それを合図に、他の魔獣達も最前線で戦う俺に飛び掛かってくる。


戦いの、幕開けだった。


「はあああああっ!!」


俺は魔獣の腹を切り裂いた後、即座に剣の軌道を変えて裂帛の気合いの声と共に、縦横無尽に剣を振り回した。


すると魔獣達の内数匹が俺の刃に斬り刻まれて口を悲鳴を上げるような形に開け、血飛沫をあげて地に倒れ伏した。


そんな様子を見て思わず呆然となっていたディアス達も、俺を援護するためにディアスとレイラは魔法で、そしてユイは双銃で魔獣達を殲滅していく。


「我求めるは全てを焼き尽くす荒々しい業火、我が敵を焼き尽くせ……【グランドファイア】」


「我求めるは全てを凍てつかせる残酷な氷雪、槍となりて我が敵を貫け……【アイスランス】」


そう詠唱した途端、ディアスからは荒々しい業火が、レイラからは鋭利な刃物を思わせる氷柱が、それぞれ魔獣達に向けて放たれて、一瞬にして魔獣達を焼き尽くし、貫き氷漬けにしていく。


「流石だな」


俺は後方より放たれた二人の魔法によって、俺が戦っていた魔獣もろとも殲滅されたのを見て、思わずそう呟いた。


しかし、魔法を放ちながらも俺の戦いぶりを見ていたディアス達も、思わず呟いていた。


「そんな、魔力強化だけであの強さだなんて」


「あれで魔力さえ普通にあれば……」


「かなり上を目指せるわね」


と、ディアス達がそんな事を呟いていると、俺が魔獣達の間に突破口を開いた。


すかさず俺は一喝する。


「今だっ!レイラはユイを守りつつ先行しろ!ディアス、俺が殿を引き受けるから、その間に森の奥までレイラとユイを連れて走り抜けろ!!」


その声に反応したユイとレイラが、


「分かりました!」


「分かったわよ!」


まず初めに二人が魔獣の群れに出来た穴を走り抜けていく。


その後に続いたディアスも、


「分かったぜ!無理すんなよ!」


そう言い残してユイとレイラの後を追っていった。


「よし、取り敢えずディアス達を先に行かす事が出来たな」


そう言いながら俺は再び俺を取り囲んだ魔獣達から、素早く距離を取った。


既に足に魔力を纏わせていてちょっとキツイかもしれないが、ここはやっぱり魔法を使うべきか――!


俺はそう考えると、魔獣達に向けて水平に手を伸ばした。


――魔力の少なさをカバーするように、魔力の消費を最小限に抑える!


心の中でそう叫んで俺は魔法を発動した。


「我求めるは全てを切り裂く斬撃の風、今その風にて我が敵を切り刻まん……【ワールウィンド】」


俺は風の魔法によって魔獣達が血の海に沈んだのを確認して、俺自身もディアス達の後を追い始めた。


俺は先行したディアス達を追う途中、地に倒れ伏した魔獣達の数を見て、怪訝そうに眉をひそめた。


どういうことだ? この魔獣の数…下位の魔獣とはいえ、数が多すぎやしないか?


俺はそう思って走っていると、暫く続いていた魔獣の死骸の中に、炎や氷の属性ではない、何かに切り裂かれたような傷のある死骸を見て、心持ち足を早めた。


何故なら、その死骸から僅かに風の属性の魔力を感じたからだ。


あの三人の中で風属性の魔法を得意とするのはユイだ。


しかし、ユイは分岐点を閉じるために魔力を温存しておかなければならない。にも関わらず、ここで風属性の魔力を感じたということは、恐らく前衛であるディアスとレイラが魔獣を抑えきれなくて、前衛を突破した魔獣がユイに襲い掛かり、ユイも魔法を使わなければならない状態に陥ったと思われるからだ。


俺がそう考えながら疾走していると、遂にディアス達の姿が見えてきた。


俺が駆けつけた時には、ディアス達は防戦一方になっていた。


「うおっ!」


「うぅっ」


「くっ」


ディアスとユイは敵から間合いを取るのに必死になっており、レイラは魔獣達の攻撃に若干押され気味になっていた。


レイラはともかく、ディアスの薙刀とユイの双銃は、間合いに入られたら終わりだからな。


しかし三人がかなり善戦してくれていたらしく、魔獣の数は激減しているが、それらを一気に魔法で倒そうとしても、三人には詠唱している隙がないらしい。


それを見て、俺は詠唱しながら地を蹴り空中に飛び上がった。


「「レオン(君)!」」


空を舞う俺を見てディアス達が驚きの声を上げた。


そして俺はディアス達に「伏せろ!」と一声叫んだ。


そしてディアス達が反射的に伏せたのを見て、俺は先ほどから詠唱していた魔法を放った。


「【エアスラッシュ】!!」


その途端、俺の手から無数の風の刃が放たれ、魔獣達に襲い掛かった。


ガアァァァーー!!


俺の魔法を受けた魔獣達は苦悶の悲鳴を上げて一匹、また一匹と、次々に血の海に沈んでいった。


「くっ、まだ余裕があるが、やっぱりちょっとキツイか!」


俺はそうぼやきながら着地した。


そう、実は先ほど放ったエアスラッシュにかなりの魔力を籠めていたのだ。


まあはっきり言って、ただの自業自得な訳だが。


しかしかなりの魔力を籠めていた甲斐もあってか、どうやら俺の魔法で魔獣達は全滅したようだ。


そんな事を確認していると、ディアス達が笑いながら俺に話しかけてきた。


「凄い威力だったな、レオン!」


「凄かったですよ、レオン君!」


「確かに威力は凄かったけど、魔力をかなり消費したようね」


…一人だけ厳しい意見があったが、俺はスルーした。


「そんな事よりも、早く分岐点を閉じに行くぞ!」


俺がそう言うと、ディアス達も急ぐように


「そうだな! まずはさっさと任務を完了させるぜ!」


「ディアスの言う通りですね。さあ行きましょう!」


「……早く行きましょう」


口々に言って、俺達はこの先にある分岐点が出現した森の深部に向かって歩き始めた。


そして更に数分後、遂に俺達は森の深部にたどり着いた。


しかし、森の深部に着いた途端、俺達は皆息を飲んでその光景を見た。


「なんだ、これは…」


俺が呻くようにしてそう呟くと、同様にそれを見ていたディアス達も、


「嘘だろ……」


「そんなっ」


「なんてこと……」


と、呆然となって呟いた。


森の深部で俺達が見た物とは。





それは直径10メートルはあろうかという、巨大な穴だった。


「これ……ちょっとまずくないか?」


「…………」


ディアスがそう聞いてきたが、俺もこれには判断に困った。


俺達が閉じる分岐点は小規模な物だと聞いていたが――これはでかすぎる。


いや、この分岐点も出現した当初は小規模な物だったのだろう。


それが恐らく、その後に何処からか高位の魔獣の干渉を受け、肥大化してしまった――多分そんな感じだろう。


「取り敢えず、魔力を流してみます」


そう言ってユイは分岐点に魔力を流し始めた。


しかし、それから数分経ってユイが苦しそうに喘いだ。


「うっ」


そのまま苦しそうに続けた。


「魔力が……足りない……!」


「なにっ!?」


それを聞いて俺達は絶句した。


馬鹿な。仮にもユイは風王の娘でもあって、いくら魔力を少し消費しているとは言え、魔力量は平均値よりもかなり多いはずだぞ!?


そのユイの魔力でも足りないだと!?


どんな魔獣にこじ開けられたんだ、こんちくしょう!


「こんなモノ閉じようがないじゃないか! ……いや、待てよ……」


俺は思わずそう唸ったが、ある考えが脳裏に浮かんだ。


(あれしかないか……だがあれは――)


俺はそれを実行するのを半秒ほど躊躇ったが、苦しむユイの姿を見て決断した。


「ちいっ、この際そんな事考えてられるか!!」


俺はそう言ってベルトに取り付けられたホルスターから、クリスタルカットのビンを取り出した。


「レオン、何だその――なんと言うか、怪しい液体は」


俺の取り出した液体を見てディアスがそう聞いてきた。


「増魔剤だ、気にするな」


と答えてから一気にそれを飲み干した。


と言うかそんなに怪しく見えるのか、この増魔剤。無色透明なんだけどな。


ブウゥゥゥン


俺が増魔剤を飲み干した途端、俺から魔力が溢れ出した。


「ユイ!退いてくれ!」


俺のその言葉にユイはばっと飛び退いた。


ユイがかなり魔力を分岐点に流し込んでくれていたお陰で、あと一撃強大な魔力をぶつければ恐らく分岐点を閉じれるはずっ。


「いくぞっ」


俺はそう叫び地を蹴って、分岐点の上に飛び上がった。


「疾く去れっ!!」


そのまま溢れ出した魔力を、分岐点に向かって解放した。


その途端爆音と共に分岐点が閉じ、分岐点が消え去った。


「ふうっ」


俺はそうため息をつきながら着地した。


「はははっ!凄いじゃないか、レオン!!」


「凄いですね!」


「やるわね」


するとディアス達がそう言って肩を叩いてきたが、俺は慌ててディアスに寄り掛かった。


「うわっ! な、なんだなんだ!?」


ディアスがそう言って驚いていたが、


「悪い! そろそろ増魔剤の反動が――ぐっ!!」


反動がくる、と言おうとして途中で俺の意識が闇に沈んだ。


「取り敢えず町に戻るわよ。ディアスはレオンを背負って来て」


「そ、そうですね。まずは任務完了した事も伝えないといけないし、町に戻りましょう!」


そう言ってレイラとユイが歩き出すのを、慌ててディアスが追って行った。


最後に「レオンを背負うのはいいけど、せめて薙刀を持って行ってくれよ……」という、ディアスの呟きを残して。

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