任務の選択
「んー、よく寝たぜ……」
そう言って俺はベッドから起き上がる。
因みに既に俺の修練騒ぎ(?)から数日が経っている。
俺は顔を洗って歯を磨いてから朝食を作り始めた。
うむ、相変わらず見ていて嫌になるほどの女顔だ。……ちくしょうめっ。
……約十五分後、テーブルの上に軽食が並べられた。
「いただきます……っと」
俺はそう言ってパンに手を伸ばす。
俺の朝食はパンにベーコンエッグ、そして自家製のバジルのドレッシングをかけたレタスのサラダという物だった。
……更に約十分後、俺は皿を片付けて寮から学園への準備を始めた。
そこで俺はふと思う。
(転移魔法が使えれば楽なんだがなァ……)
――アレさえ使えれば、もう少しゆっくり出来るんだけどな。
俺はそんな事を考えながら荷物を持って部屋を出る。
そして鍵を閉めたところで、俺と同じように荷物を持ったユイが部屋を出て来た。
ユイは俺を見るとすぐににっこりと天使のような微笑を見せて、挨拶をしてきた。
「おはようございます、レオン君」
それに対して俺も控えめに微笑して、
「ああ、おはよう、ユイ」
そう返す。
そのまま二人で今日の授業について話していると、レイラも部屋から出て来て、その話に加わった。
暫く話していたが、何故かディアスだけやけに遅い。
「なあ、ディアスってもしかして朝が弱いのか?」
俺は何気なくユイにそう訊いてみた。
するとユイも笑いながら、
「そうですよ。昔から朝が弱いんです」
おかしそうに言う。
そんな事を話していると、やっとディアスが出て来た。
「お、皆早いな!」
俺達の姿を見てそう言ったディアスに、俺は苦笑して言った。
「いや、この場合はディアス。お前が遅いだけだ」
するとディアスも「容赦ねえな」と言いながら苦笑した。
その後もそんな感じで話していると、いつの間にか教室についていた。
するとディアスが、
「なあ、そう言えば今日って任務の選択があるんだろ? 楽しみだよな!」
勢い込んだようにして述べ立てる。
そう、今日は俺達の班の任務を選択する日なのである。
「任務ですか。楽しみですね!」
「どんな任務なのか、気になるわね」
ユイとレイラはそんな事を言っているが、まあ大体は討伐の任務だろう。
俺がそう考えている時、教室にロイ先生が入って来た。
「よーし、全員いるなー? 今日はお前達に決めて貰う事がある」
ロイ先生のその言葉に、他のクラスメイト達も待っていましたと秤に騒ぎだす。
ロイ先生は喧騒が止むのを待ってから紙の束を取り出し、それを机の上に置いた。
「それじゃあ各班の班長は、この中から任務を選択しにこい」
すると俺達の班以外の班長達は、我先にとロイ先生の方に走って行った。
しかし俺達は動かない。いや、動けなかった。
四人の間に重い沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、ディアスだった。
重い空気の為か、気まずそうに言う。
「あのさ…俺達の班って、班長なんて…決まってたっけ?」
ディアスがそう言った時、動かない四人を見てロイ先生が不思議そうに聞いて来た。
「どうしたんだ?早く班長は出て来て任務を決めるように」
しかしそう言われても動かない四人を見て、ロイ先生は人の悪い笑みを見せて言った。
「まさか、まだ班長を決めてないだなんて事は、ないよなぁ?」
ロイ先生の嫌味たっぷりのその言葉に、四人はさっと視線を交わし合う。
そして先ほどのロイ先生の言葉をきっかけに、四人の間で班長役の押し付け合いが始まった。
「レオン、お前班長やらないか?」
などとディアスが宣うが、当然の如く俺は断る。
「そう言うディアスがやればいいんじゃないか?」
俺がそう切り返すと、ディアスは視線を泳がせて、
「いや、俺は絶対に嫌だ! そ、そうだユイ、お前はどうだ?」
と、ユイに話を振った。
するとユイも慌てて、
「えっ、あっ、わ、私は遠慮しておきます!」
きっぱりと断る。
すると自然にレイラに視線が行くが、
「私は嫌よ」
などと、光の速さで断られる。
そして最後にすぅ~と三人の視線が集まったのは俺だった。
その三人の視線にモノ凄まじい嫌な予感がして、俺は椅子に座ったまま身じろぎした。
「な、なんだよ。アレか、顔になんかついてんのか、俺」
俺がそう聞くと、急に三人は目配せした。
そして三人は何かを確認したように一つ頷くと、ディアスはニヤリと、ユイは若干の罪悪感があるのか、凄く申し訳なさそうな顔を、レイラは瞳をきらりと光らせた。
三人の様子に、俺の背中に冷や汗が伝う。
「……まさかまさかまっさっか―――」
その三人の様子を見て、俺の先ほど感じた嫌な予感がどんどん増大していく。ヤベーよオイ、三割増ししたよ嫌な予感が――
そして遂にディアスがニヤリと笑いながら口を開いた。
「なあ、多数決で班長を決めないか?」
はいドーン! キタこれ、間違いなくキタね!
多数決……俺はディアスのその言葉に自らに面倒事が振り掛かるのを確信した。
そこで俺は断固とした口調で抗議した。
「待て! 俺は嫌だぞ!」
しかしディアスも笑いながら言う。
「ん~? なんでだい?なんでなんだい?」
そのふざけたような言葉に俺は若干返答に詰まった。
まさか三人が共謀して俺を班長にしようとしているだなんて、言えたモノじゃない。
第一言ったとしても、「考えすぎだって」と言って一掃されてしまうだろう。
つまり、この三人はそこまで計算して言っているのである。
「あ、ああ、それはアレだよアレ、多数決で決めたりしても、選ばれた人がどんな奴か分かったモノじゃないだろう……?」
かなり苦しい言い訳なので、俺の言葉は最後の方は消えそうな声になってしまった。
そんな俺の様子を見て、ディアスはニヤリと笑って言った。
「やっぱ多数決で決めるか。それじゃあ―」
そこでぐるりと四人を見回した。
「まずは俺。俺が班長やればいいと思う人~?」
しかし手を上げたのは当然と言うべきか、俺一人だけだった。
「じゃあ次はユイがいいと思う人~?」
これには誰も手を上げない。
(くっそー、これじゃあ俺がじっくり料理されているみたいだ)
俺はそんな事を思った。
「じゃあ、レイラがいいと思う人~?」
当然の如く誰も手を上げない。
そして最後に俺に視線が集まった。
「ではでは、レオンがいいと思う人~?」
ディアスのその言葉に今まで手を上げなかった他の三人が、ビシッと無茶苦茶姿勢良く手を上げた。
それを見て遂に俺が折れた。
「分かったよ!俺がやればいいんだろ!?ちくしょうめっ」
俺はそう言ってロイ先生の方に歩いて行った。
歩きながら俺は、
(あの三人、どうしてくれようか)
などと考えながら任務の書かれた書類の束を手に取った。
俺は書類をめくっていると、なかなか良さそうな任務を見つけた。
(おっ、これなんていいんじゃないか?)
そう思って俺が抜き取った書類には、「サライの町にて『分岐点』を閉じる事」と書かれていた。
俺はその書類をロイ先生に見せた。
「先生、これでお願いします」
その書類を見て、ロイ先生は少し驚いたように聞いてきた。
「この任務の難易度は一番高いんだが、他の三人はともかく、お前は本当にこれでいいのか?」
それに対して俺も軽く微笑した。
「大丈夫ですよ。魔力は少し……いや、かなり少ないですが、魔法が使えない訳ではありませんから」
それを聞くと、ロイ先生も班のメンバーの構成もあってか、
「まあ、お前がそう言うなら……」
そう言って了承してくれた。
俺は書類にサインを貰い、その書類をディアス達にも見せた。
するとやはりと言うべきか、三人は驚いたように俺に聞いてきた。
「大丈夫なのか?この任務は『分岐点』を閉じると言う事は、多分…いや、間違いなくかなりの数の魔獣と戦いになるぞ?」
それを聞いた俺は静かに頷く。
「ああ、多分そうなるだろうな」
隠すことなくそう答える。
「じゃあ……」
そこでディアスが口を挟み掛けたが、俺はそれを押し留める。
「待て、最後まで話を聞いてくれ」
そこで俺は素早くディアス達にある事を言った。
それを聞くとディアス達は納得したように
「まあ、それなら確かに……」
そう言って頷くと、
「よし、任せておけ(ください)!」
ディアスとユイの言葉を皮切りに、この場はお開きとなった。




