学生寮へ
「学生寮ってどんな所なんだろうな……広いとは思うけど」
ディアスがそう言うとユイが
「さあ……私が知っているのは学生寮には〝リバース〟の魔法が永久化してある事だけです」
と言って周囲を見渡した。
ここで遅ればせながらティーン魔法学園の事を説明しよう。
ティーン魔法学園は広大な敷地の中にあり、学園の周囲は魔法薬の素材となる薬草を育てる畑や、数々の店などがあり、学園から歩いて約十分の所に学生寮がある。
その他にも学園の裏手には広大な森林があり森林浴が楽しめるが、そこには魔獣達も出現する。
因みにこの学園は五年制度の学園で、それぞれの学年に大体十クラスくらいあると考えてくれればいい。
だから寮の規模もかなりの大きさを予想していたが、俺達は寮を見てあんぐりと口を開けた。
規模が大きいだろうとは覚悟していた。
だけど――これは。
「でかすぎだろ……」
すぐに我にかえったディアスがそう呟いた。
その次にユイとレイラが我に返り、
「これはちょっと……大き過ぎですね」
とユイが言うと
「……驚いたわね」
とレイラが肯定した。
この三人は貴族だからその程度の反応ですんだが、普通の平民である俺は惚けていた。
そしてディアス達に一言。
「ティーン魔法学園の学生寮とはグランドクロスか何かで?」
それを聞いて他の三人は噴き出した。
そしてディアスが俺の頬をぺちぺち叩く。
「お~い、戻ってこ~い。大丈夫か~」
それを受けて、呆気に取られていた俺も漸く我に返った。
「ああ、いや、すまない。戻ってる戻ってる」
そう言って俺達は歩き出し、寮の中に入った。
「凄いな……」
寮の入り口付近で俺達は感嘆の声を漏らした。
寮に入るとそこは設備の整ったフロントだった。
そこで何処からか声がかかった。
「あら~いらっしゃい。新入生の子達ね?」
その声に首を巡らすと、フロントのおばさんがこっちを見ていた。
俺達はジーナと言うフロントのおばさんに名簿の確認を取って(確認の途中に名簿を床にぶちまけた。めちゃ不安だ)部屋の鍵を受け取ると、それぞれ自分達の部屋に向かった。
俺達は階段を上りながら話ていた。
「レオン、お前はどこの部屋なんだ?」
ディアスがそう聞いてきたので、俺は鍵の裏側をにさっと視線を通した。
「俺は……302号室だな」
部屋番号を答えつつ、指に通した鍵をくるくる回転させる。
すると、部屋番号を聞いていた他の三人がふっと笑う。
「俺は304号室だからレオンの二つ隣だな。ユイ、お前は?」
「えーと……305号室だから、ディアス君の隣みたい」
それを聞いてレイラに視線がいく。
「私は308号室。この中じゃ一番遠いわね」
俺達は三階に上がるなり、それぞれ自分の部屋を探し始めた。
――ガチャ。
「へえ、凄いじゃねーか。口笛の一つでも吹きたくなるね、ここまでくると」
俺はドアを開いてそう呟いた。
俺の部屋にはベッドと横長のテーブル、椅子が六脚にキッチンがついていた。
その他にもシャワールームに続く扉と、俺の部屋にある二つの部屋に通じるドアがあった。
因みに俺の荷物は先に部屋に送って貰っていたので、まずはその荷物の整理をしなければならない。
「ふー、大変になりそうだな、こりゃ」
俺はそう嘯きながら隣室のドアを開いた。
隣室には俺の荷物が山積みにされていて、俺は荷物を一つ一つ開けて中にしまってある魔法書や魔法薬、マジックアイテムを取り出し、次々に棚に並べていった。
「えーと……これは〝スリープハーブ〟? で、こっちが〝ベノムバイト〟……」
俺はクリスタル製のビンに入った魔法薬の素材や、クリスタルカットの細長い容器に入った液体などをそれぞれの種類に分けて並べていく。マジックアイテムはそれとは別にして、隣の棚に並べた。
それに三時間程費やし、やっと魔法書と魔法薬を棚に並べ終えた。
「ふー、やっと終わったな……って」
しかしまだ武器が残っていた。
それを見て俺はげんなりとする。
俺はだいたい全ての武器を扱えるが故に、寮に持ち込んだ武器の数も半端ではない。俗に言うオールラウンダーと言う奴だ……多分。
「ふう…」
俺はため息をつきながらも武器の山に手を伸ばし、剣や槍などは周囲に立て掛けて、双銃などは棚の中に仕舞う。
どの道全ての武器を扱えても、俺が愛用しているのは主に長剣、もしくは刀とかだしな。
俺は心の中でそうぼやきまくりながら、一時間かけて武器を片付けた。
「ふー、今度こそ終わったな」
俺がそう言って時計を見ると、もう四時になっていた。
「もう四時か……」
俺は独白すると、自分の部屋を出てディアスの部屋に向かった。
俺はディアスなら既に片付け終わっているかと思って、ディアスの部屋のドアをノックした。
「おーい、いるかー?」
すると、部屋からえらく慌てた声が聞こえた。
「うわっやべっ!悪い、今ちょっと無理!」
……もしかして、まだ片付け終わってないとか?
「分かった、後で時間が空いた時にまた来る」
そんなことを考えつつ、俺は部屋の中に居るであろうディアスに一声掛けた後自分の部屋に戻った。
部屋に戻った俺はベットに寝転ぶと、暇潰しにこのティーン魔法学園の資料を読んでいた。
「よし……」
俺はこの学園の裏手にある森に出現する魔獣の種類を読んで、思わずニヤッと笑った。
「よし…やれるか! 修練を」
そう。
この学園の森には、オークやゴブリンなどの比較的力の弱い魔獣しかいないから、思う存分修練が出来る言う事だ。
しかも夜に修練するため誰も森には来ることはない。詰まり、俺の修行を邪魔する奴はいないし、それと同時に誰にも知られずに修練出来るという事だ。(前に行っていた学園では夜の修練を知った途端、邪魔しに来る奴がいた。わざわざご苦労なことである)
俺に取ってはまさに一石二鳥。
「よし、六時くらいに森に行くとするか。差し当たっては寝とくか……」
言葉通り、ベッドに身を預けていた俺はすぐに夢の世界に落ちていった。