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風の覇者I ―王威覚醒―  作者: 神竜王
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親睦会

俺はディアス達と別れた後、レーゼを引き連れて自室の扉を開くと、リビングにあるソファーにどかっと身を預け、深く息を吐いた。


全く……何で俺だけこんな目に会わなければならねェんだ……っつうか、事あるごとに必ず俺が巻き込まれてるよなぁ……。


まさか誰かの陰謀かっ!? などと阿呆な方向に思考がそれようとした時、隣から寝息が聞こえてきた。


隣を見てみれば、俺と同じくソファーに身を預けていたレーゼがソファーの肘掛けに持たれて眠ってしまっていた。


「オイオイ、ンな体勢で眠っちまったら起きた時体の節々が痛くなっちまうぞ……」


そう言って起こそうとするものの、中々起きない。


終いには「嫌ぁ……」とか寝言を言い出してしまい、俺は唸りに唸った。


コレじゃあ俺が悪者みたいじゃないかッ


そう思った俺はレーゼを腕の中に抱き上げると、魔法薬やら武器やらを置かずに寝室として使っている方の隣室に続く扉を開けると、ベッドの前まで歩いていった。


今の俺は端から見りゃ割れ物でも扱うかのように慎重に動いている事だろう……そう自覚が出来てしまう程に俺は慎重に動いていた。


勿論起こさない様にしているためでもあるが、レーゼって……何と言うか、柔らかい感触がするし、考えない様にしていても知らず知らずの内に煩悩が……。


俺はレーゼをベッドに寝かせるなり、素早く、それでいて音も無く部屋から滑り出ると、壁に頭を叩き付けた。


滅せよッ! 煩悩!


「ぐおっ」


俺はフラフラとよろめいて尻餅を着いた。


自分でやっといて何だが……メチャクチャ痛ェ!


それでも、痛みの所為か先程まで脳裏にはびこっていた煩悩は消えて無くなったので良しとする。


俺はゆっくりと立ち上がりながら時計を見て、ちょっと考え込む。


ディアス達との約束の時間は七時。そして今時計は五時を指している。


流石に少し暇である。自然に、俺は部屋の中心辺りでウロウロし始めてしまった。


いつもならそんな事はしないのだが、今日は風の覇者やら使い魔やら、イロイロな事が有りすぎた。我ながら落ち着きの無いことである。


結局、俺は部屋の中心で実に三分程無駄な運動をした後、ため息を吐いて


――仕方無い。風呂にでも入るか。


そう思い、浴室に消えていった。



―――――――――――


「よっと……」


俺は長い黒髪を洗うために少し仰け反った。


そうでもしないと毛先まで洗えないのである。


しかし、今更髪を切るつもりはない。もうこの長さに慣れてしまったからな。


俺はシャカシャカと黒髪を梳きつつ、ため息を吐いた。


――俺は、これからどうなるんだろうな。


そう思うと憂鬱な気分になってくる。


――全く、どういう因果で俺に風の覇者だなんて御大層な人(神?)が宿ってんのか。挙げ句、数千年前の覇者の一人、闇の覇者との戦いが控えているときた。


そこで俺はふと思う。


闇の覇者の強さはファランから受け継いだ知識の中に確かにあったが、例えどれだけ強かろうと破創神――ノヴァなら、勝てるんじゃないかと。


破創神というだけあってか、ノヴァの魔力は無限。だからノヴァなら闇の覇者を倒せるんじゃないか?


まるっきり人任せな、それでもって邪道であるが、どうしてもその考えが脳裏に浮かぶ。


『それは違うなァ』


その時、俺の中に声が響いた。俺の中で話し掛けてくる奴だなんてのはもう決まっている。


俺は黒髪にシャンプーの泡を泡立てつつ、それに応える。


『それは何故だ、ファラン? ノヴァは無限の魔力を有しているんだぞ? ならば滅多なコトじゃ負けやしないんじゃねェのか?』


『確かにそうだろうなァ。だが、あの女が幾ら無限の魔力を有していようとも、闇の覇者には勝つことは不可能だ』


『なんだと?』


俺は真っ向から否定された事に若干の苛立ちが生まれた。


しかし、ファランは珍しく諭すように続けた。


『いいか? 例えばだ、今テメェが何者かと戦っていたとする。でもって、ソイツとテメェの魔力はほぼ互角、つまりは拮抗状態にあるとする。

そこで勝敗を決めるのが何か、テメェ程の戦士なら分かるだろ?』


『ああ……』


俺はさりげなくファランが俺の事を一人の戦士として認めてくれている事に、ちょっとだけ嬉しくなった。


しかし一転して思考を集中させると、勝敗を決するキーとなる事を口にする。


『互いに魔力量が拮抗した時、肝心になってくるのは魔力の質と出力だな。魔力の質が相手よりも良質ならば、相手の魔法を弾くことが出来るし、魔力の出力が高ければ相手の魔法を打ち破り、そのまま強引に魔法攻撃を決めることが可能だ。

もっとも、相手の方が魔力量と魔力の出力が上でも、俺クラスの魔力操作能力さえあれば話しは別だがな。言っとくが、これは決して自惚れなんかじゃないぞ……』


俺が最後に少しだけ付け加えて返すと、ファランは低く笑った。


『クックック……。確かにな。この場合、テメェのソレは自惚れなんかじゃないかもなァ。〝少ない魔力で如何に巨大な結果を得るか〟……今までそれをスタンスに魔法を使ってきた、魔力の少なかったテメェだからこその魔力操作能力だろう。

それだけはこの俺が認めてやる……』


返ってきた返答に、俺は人知れずとして眉をひそめた。


『なんだ? 褒めても何も出ては来ないぞ……今度の休日、何も用が無ければ一時的な表層意識の支配権をやろうか?』


『さりげなく今出してんじゃねェか。そんな事よりも話を戻すぞ。何故あの女は闇の覇者に勝てないか? そんなモンは決まってる。

あの女の魔力出力が闇の覇者に劣っているからだ。付け加えるのならば、残念ながら質でも劣っている』


『なっ!? 馬鹿な、そうも簡単に劣るものなのか!? 俺が魔力で探りを入れてみた限り、ノヴァの最大魔力出力は控え目に見積もっても三百億はあるんだぞ!?

それが出力で負け、質でも負けているとはっ』


『落ち着けェッ!』


俺が心声に同様を顕にすると、深層意識でファランが一喝した。


思わず萎縮した俺は、人知れず唇を噛んで動きを止める。


端から見れば、風呂場で髪を洗っている最中に動きを止めた様にしか見えてないが、精神下では真剣なやり取りが行われている。


『いいか、よく聞け。あの女が闇の覇者に勝てないのは魔力出力と質の所為でもあるが、決定的なのは闇の覇者が神器を所持している事だ』


『……神器だと? チッ、そういやそうだったな……全く、何故闇の覇者だけ持っていやがるっ』


『それはあの時にも話した通り、封印の術式のせいだろうなァ……あの封印の術式のにはあくまでも闇の覇者のみを封印する効果があったが、俺達が巻き込まれたのは完全にイレギュラーな事態だったからだ』


『なるほどな……闇の覇者は神器ごと封じられたものの、術式にとってイレギュラーな存在のファラン達は、ねじ曲がった封印に巻き込まれ、神器と引き離された――つまりそういう事だろう?』


『……まあな。神器の有無だけで簡単に力の拮抗は崩れる。だからあの女は勝てねェんだ』


『……この話しはもういい。いつか日を改めてしよう。闇の覇者についても、神器についても』


『……そうか』


俺が沈んだ声音で返すと、ファランはそう残して深層意識に沈んでいった。


俺はそれを感じると、深く息を吐いてじわじわと苦笑を広げた。


――何か、ちょっとした考えからとんでもなく真剣な会話に発展しちまったな。


俺はそう思いつつも気を取り直して黒髪を洗うと、シャワーで泡を流し、次いで体を洗い出す。


そして再びシャワーで泡を流すと、バスタブの中に半分程張っておいた湯の中に浸かり、深々と息を吐く。


そのままぼぉっと湯に浸かっていると何だか力が抜けて行くようで、俺は段々のぼせかけてきた。


――ん? これはちょっとヤバい!?


そう気付いた時にはもう遅く、立ち上がろうとした途端にフラついて、俺はそのままバスタブの中で居眠りをし始めてしまった。



―――――――――――


時刻はもうすぐ七時を刻もうとしている頃。


寮の廊下には、今三人の男女が歩いていた。


ディアスとユイ、レイラの三人である。


その三人は談笑しながら廊下を歩いており、表札に"302"と書かれた部屋の前まで来ると、その扉をノックした。


「来たぜレオン、入ってもいいか?」


〝あっ……今開けっからちょっと待ってろ!〟


その言葉の後中から慌ただしい音がし、閉ざされていた扉が開き――三人は固まって扉を開いた人物を凝視した。


「いや、悪い悪い……風呂入ってたらちぃっとばかしのぼせちまってな。こんな格好で出迎えて悪かったな」


俺はそう言いつつ、自分の格好を思い出し苦笑を浮かべる。


今の俺の格好は、急いで出てきた所為で細い黒の革パンを穿いているのみで、上半身は裸のままである。


あの後、気が付いた頃には時刻は既に七時に迫っており、急いで下着と皮パンを穿いた時にノックが聞こえたのである。


上着を着るまで待ってもらおうかとも思ったが、男なので上半身は裸でも構わないだろうと思い、上着を着るのは後回しにして先に部屋に上がってもらうことにしたのだ。


「さっ、遠慮なく上がってくれや。俺は上着を来てくるから――って、どうしたお前ら?」


俺は背を向けて部屋に戻ろうとして、固まってしまっているディアス達を見て首を傾げた。


すると、ディアスがスッと右手を持ち上げて、グッと親指を持ち上げた。


「流石レオン、いいモノを見せてもらった。最高」


「……はぁ?」


俺は訳が分からず眉をひそめると、ユイとレイラが頬に朱を散らして俺を凝視していた。


「凄く……綺麗です……」


「アンタ、本当は女なんじゃないの……?」


ユイとレイラは俺の体をまじまじと見つめ、そう洩らした。


俺がそれを聞いて呆然となると、トドメとばかりにディアスが言う。


「薄い胸板、細くくびれた腰、狭い肩幅、更には形の良い尻……筋肉の付き方もしなやかなせいか、まさに女だ」


「あ゛ァッ!?」


テメーらァ……俺は今精神に重大な傷をおったぞ……よし、腹いせにディアスだけはシバいとこう。


そして俺がいざディアスをシバこうとパキパキと指を鳴らした所で、フラフラ~っと動いたユイが俺の黒髪を一房手に取り、それを自分の鼻の辺りまで近付けてクンクンと匂いを嗅いだ。


当然の如く俺は驚き、ユイの顔をガン見した。


「え……ユイお前、まさかソッチ側に目覚めたのか……?」


「――わわっ! 違いますよ!」


俺がそう問うと、ユイはハッとした様な表情で慌てて首を振った。


「レオン君の黒髪から女の人が使うシャンプーの匂いがしたから――」


「なにっ!? ちょっと待ってくれ! 今のはどういう事だ、ユイ!」


俺が動揺を露にユイに問い詰めると、ユイはちょっと首を傾げてから口を開いた。


「なんというか……この香りは、薔薇のエッセンスでも含まれているんでしょうか? それで私はそう思ったのですけど……」


「……ちょっと待っていてくれ」


俺はすぐさま浴室に駆け込むと、先程自分が使っていたシャンプーのラベルに目を落とした。


―クリア・フローズ―


クリアローズエキス配合、クリアローズの独特の香りと浄化成分が貴女の髪の芯まで届く! さぁ、これで貴女も理想の髪を――


「もっとよく見てから買えばよかったァァァ! っつうか俺にコレを進めやがったあの店員、絶対俺の性別間違えてただろォ!」


このシャンプーは俺が学園にある市場で購入したモノだったのだが、正直シャンプーに拘りなどもっていなかった俺が店員(男)に何かいいモノがないか聞いたら、コレを進めてきたのだ。


俺は店員に進められたこのシャンプーの値段だけを見ていたので、ラベルに書かれた文字まではよく見ていなかったのだ。


結果、比較的安価なこのシャンプーを俺は複数購入し、今までこのシャンプーを使い続けていたのである。


流石にコレはラベルをよく見ていなかった俺にも非があるが、男の客に女物のシャンプーを進める店員にも非があるのは確か。


「あの店員……次に会った時にはブチ抜いてやるぜェ……クックック」


「何言ってんのよ……早く正気に返ってくれない? 貴方待ちなんだけど」


「は? ……おおっと、悪い悪い」


レイラのその言葉に俺が視線をユイとディアスに向けると、既にユイとディアスはソファーに座っており、此方を眺めていた。


それを見て俺とレイラもテーブルを挟んで向かい合う様に座ると、ディアスがいつになく真剣な顔をして言った。


「なあ、今思ったんだが……」


「……なんだ?」


俺は真剣な表情をして綴るディアスに、同じく真剣な表情で対応する。


そして、ディアスは真剣な表情をそのままに述べた。


「俺達って、晩飯どうすりゃいいんだ?」


「「「……はい?」」」


真剣な表情とはかけ離れた言葉に、俺とユイ、レイラの三人は目を丸くし――


「紛らわしいんじゃ、コラァッ!」


俺はディアスの喉に華麗な手刀をかました。


「がふっ!? レオン、喉への手刀は一歩間違えば死ぬから! デスるから!」


「いや、テメーは手刀程度じゃ死なねえ。……多分な」


「いや多分なのかよ!? 確証は無いのかよ!?」


「そんなモン知らん!」


「いや投げやりだなオイ!」


俺はディアスとそんなやり取りをした後、軽く舌打ちをして黒髪を梳く。


「……チッ! ったく、仕方ねェなァ……」


俺は何だかんだでまだ服を着ていなかったのを思い出し、ディアス達を置いて隣室でシャツを着ると、次いで白いエプロンを着込んでリビングに戻る。


「おおっ……」


「これは……」


「新鮮ね……」


俺がリビングに戻るとディアスとユイ、レイラがそう呟いていたが、俺はスルーしてキッチンに消えていく。


そしてキッチンに着くと、冷蔵庫の中身を物色し、暫し作るモノを考え込んでから再び冷蔵庫の中身に視線を戻し、下段からジャガイモとブロッコリーと人参、中段から鶏肉を取り出し、その他の材料も備え付けの戸棚から取り出し、テキパキとシチューやらサラダやら何やらと料理を完成させていく。


その後ろ姿を呆然と見ていたディアスとユイ、レイラの三人は思った。


(((主夫……というか、主婦(ですか)……?)))


そう思いつつ三人がレオンを見ていると、暫く経った後当の本人が声を上げた。


「出来た……よし、ディアス! テメーは男なんだから運ぶの手伝え! 後ユイとレイラもそろそろ使い魔呼んどいた方がいいぞ? 勿論、ディアスもな。

このシチュー、皆の使い魔の分まで作っちまったから」


俺は背を向けたままディアスとユイ、レイラにそう言っておく。


すると、弾んだ声が返ってきた。


「おう、分かったぜ! 来てくれ、フレイ!」


「私もいきます。来てください、シルフィ!」


「私も呼ぶわ。――来て、レイド」


その声が耳朶を打つと同時に、俺の部屋の中に新たな気配が三つ現れる。


「呼んだ? お兄ちゃん!」


「やっほー! アタシを呼ぶなんて何事さ?」


「……呼びましたか、我が主」


俺が料理を両手に持って振り返ると、リビングには三人の人――じゃなかった、三人の神が増えていた。


「ん、皆呼んだみたいだな。それは兎も角ディアス、テメーは何自分の使い魔を見て親指を突き立ててんだ? 何なのお前、ロリコン? ロリコンなの? 死ねよマジで――ってかさっさと運ぶの手伝え」


「いややっぱし此処最近俺の扱い酷くなってねえか!? それとそれって人にモノを頼む態度じゃないよね!?」


「あ、そういう言い方するんだ。作ったのが俺なんだから運ぶのくらいは手伝ってくれるだろうと思って言ったのに。じゃあディアスの分は無しという方向で――」


「運ぶのは俺に任せろ!」


俺が無しと言うとすぐにシチューを運び出すディアス。


俺がそれを見てうっすらと笑みを浮かべると、急に何かに引っ張られてちょっとよろめいた。


俺が驚いて視線を下に下げると、赤髪の女の子が怒った様に此方を見上げてエプロンを握っていた。


「何だ? どうかしたのか?」


俺が戸惑ってそう訊くと、女の子は瞳を濡らしてキッと俺を睨んできた。


「お兄ちゃんを苛めないで!」


「えっ……いや、ちが――」


「無理矢理お兄ちゃんにやらせないでよ!"お姉ちゃん"何て大っ嫌い!」


「ううっ……」


俺は言葉による責めに耐えかねて四つん這いになった。


えっ……なに? なんなのこの状況? ディアスに手伝わせたので怒るのはまだしも、俺を見て"お兄ちゃん"ではなく"お姉ちゃん"ってのはオカシイだろ!


それに小さい子に率直に「大っ嫌い!」とか言われるとかなり傷付くんだけど……


「まあなんだ、その……レオン? 残りの晩飯は俺が運んどくからさ……元気出せよ、なっ?」


「ディアスに励まされた、だと……? 俺はいよいよダメみたいだ……」


「いや何でだよ!? 何で俺に励まされるとダメになんだよ!?」


「フツーに冗談なんだけどな」


俺はため息を吐いてから立ち上がると、まだ運んでいなかった残りの料理を持ち、リビングまで運んだ。


そして俺もソファーに座ると、ゆっくりと今ソファーに座っている者達に視線を巡らせた。


「さて、と――誰から始める?」


今俺が言った「始める」というのは、勿論紹介の事である。


俺がそう切り出すと、ディアスの使い魔である赤髪の女の子、フレイが笑みを浮かべて話し出した。


「じゃあまずは私からいくよ。知ってるかもしれないけど、私はディアスお兄ちゃんの使い魔のフレイ! 火の属性神だよ、よろしくね!」


終始明るくそう言い切り、ニッコリと笑って隣に座っているディアスの袖をちょっと恥ずかしげに掴んだ。


因みに、今俺達はディアスとフレイ、ユイとシルフィのペアと、レイラとレイド、俺のペアにと二つに別れてソファーに座っている。


まあ、この辺りはソファーの大きさに助けられたな。


それは兎も角、そんな感じでフレイが自己紹介をして俺達が目元を和ませていると、それに次ぐようにユイの使い魔のシルフィが口を開いた。


「ん~、次はアタシの番だね。アタシはユイの使い魔のシルフィって言うんだ。風の属性神だよ。

まあ、ここは一つ仲良くしてくれると嬉しいさね!」


威勢よくそう言い、シルフィは少し照れたように後ろ髪を梳いた。


「では、最後は私が」


フレイとシルフィが自己紹介を終えると、最後にレイドが口を開いた。


「私の名はレイドと申します。氷の属性神です。

主の友人方、よろしくお願いします」


「「「あっ、いえいえ此方こそ……」」」


レイドが簡潔に述べて軽く頭を下げたのを見て、慌てて俺とディアスとユイが奇しくも同じコトを言いながら頭を下げた。

タイミングまで同じである。


俺とディアスとユイはお互いの顔を見てちょっと苦笑すると、顔を上げてレイドを眺める。


するとレイドは既に頭を上げており、静かにソファーに身を預けていた。


そして気付かれていないつもりなのか……テーブルの上に置かれたシチューにチラチラと視線を送っている。


あれ? もしかしてレイドって今メッチャ腹減ってんじゃね?


「よし、それぞれ自己紹介を終えたから晩飯食わないか? 冷めちまう前に食べた方がいいしな」


俺はそんなレイドらしからぬ様子に内心でちょっと苦笑すると、俺の方から皆にそう言ってやった。


それに皆が頷くと、ディアスが音頭をとって合掌。


「「「「いただきます!」」」」


全員で合わせて言うなり、早速ディアスがスプーンを手に取った。


「さてさて? レオンの料理の腕はどのくらいかな?」


そしてシチューを掬うと、口に運んだ。


俺はそれをちょっとハラハラしながら眺める。


俺は今まで孤児院以外で料理を人に食わせたコトはなかったので、口に合うか内心でドキドキしていたクチなのである。


そんな感じでシチューを食べたディアスが、ピタリと動きを止めた。それはもう、石像の如く。


「あー……どうだ? もしかして口に合わなかったか?」


俺は動きを止めたディアスを見てちょっと心配になってきて、思わずそう訊いていた。


「……だと」


「は?」


俺はディアスが何と言ったのか分からず、耳を澄ませた。


「美味い……だと!?」


ディアスはそう呟くと、無言になり素晴らしいスピードでスプーンを動かす。


「……美味かったのか?」


俺が首を傾げてそう言った時、ディアスと同じようにシチューを食べたユイとレイラ、そしてその使い魔組も動きを止めた。


「スゴく……美味しいです!」


「負けた……女として負けた……」


「うわぁー! これすっごく美味しいよぉ!」


「これはスゴいねぇ。アタシもここまでとは思ってなかったよ」


「……美味だ」


「あ、ああ。そう言って貰えると作った俺としても嬉しいよ」


女として負けたと言われるとちょっと複雑な心境になってくるが、口に合ったみたいで俺はホッと胸を撫で下ろした。


それでもって俺も食うか、とスプーンに手を伸ばし、シチューを掬って口に運ぶ。


別段何の変わりもないいつも食べている自分の料理の味が広がるが、普段から食べ慣れている所為で味については特に何も思わない。


だからこそ、俺はちょっと首を傾げたくなった。


俺の料理って、そんなに美味いのかよ? この程度なら別にフツーだと思うんだが。


俺はそう思いつつ、レタスのサラダに自家製のバジルドレッシングをかけて頬張った。


「んお? なあレオン、そのドレッシングって見たことないヤツだけど、市販のヤツか?」


「いや、違う。自家製のモノだ。自分で作った方が市販のヤツよりも安くて多くの量が得られるからなァ」


「うわぁ! 黒髪のお姉ちゃんって器用なんだね!」


「アハハ……そう言って貰えると嬉しいよ」


俺がディアスの質問にそう答えると、フレイが無邪気に笑ってそう言ってきた。


うん、褒めてくれるのは正直嬉しいけど、俺のコトを未だに男じゃなくて女と間違えているんだな?


俺が内心で涙を流していると、ふとディアスが顔を上げて首を傾げる。そして部屋の中をぐるっと見回すと、不思議そうな顔で訊いてきた。


「なあレオン、お前の使い魔のあの女の子は何処に行ったんだ?」


「ん? あァ、レーゼの事か。アイツなら今頃ベッドの中で夢の世界に旅立ってるだろうよ」


「ああ、そういえば眠そうにしていましたね」


俺とディアスの会話を聞いていたユイがそう述べつつ、シチューを食べ終えてサラダを箸で突っついている。


レイラもついっと隣室への扉に視線を移した後、無言でサラダを咀嚼するが、その隣ではレイドがシチューを食べつつ、目を細めて魔法薬などを置いてある方の隣室を眺めていた。


そして隣室から視線を外すと、今度は俺の方を見て口を開いた。


「失礼ですが……あの部屋を見せて貰っても構わないですか?」


「ん~……」


おっとー……やっぱり気付いたか。


俺は確信したような声音で訊いてくるレイドに、ちょっと唇の端を吊り上げた。


そんな俺とレイドを見てポカーンとしているディアス達をよそに、俺はちょっと考えてから答える。


「あァ、そのくらいならまあ別に構いやしないさ。変に隠すようなモノもないしな。まっ、取り敢えずまず先に飯を食い終わろうや。話しはそれからだ」


俺はレイドに素っ気なくそれだけ返すと、「今話すコトはもう無い」という意味を込めてレイドから視線を外した。


「……? なんだろうな、一体?」


「さあ……?」


「何かあるのかな?」


一方、傍らでは事情を理解し得なかったディアス達とレイドを除く使い魔達がいたが、見せた方が早いので俺は敢えて何も言わずにいた。


それから数分後、俺達は料理を食べ終えた。


「「「「ごちそうさまでした!」」」」


「ん、お粗末様っと……」


俺も軽く合掌してそう呟くと、何枚か皿を重ねて両手に持つ。


「あ、手伝いましょうか?」


「いや、このくらい別にいいよ。気にしないでくれ」


俺は手伝いをしようと皿に手を伸ばしたユイをソファーに押し留め、さっさと流し場に皿を出しておく。


でもって皿を片付けると、興味津々といった様子のディアス達と使い魔達を率いて隣室への扉の前に立った。


そして俺はノブに視線を落とすと、ノブの下側を指で三回叩いた。


そんな俺の行動を不思議そうに見てくる視線を背後から感じたが、特に何も言わずに肩を竦めると、俺は今度こそノブに手をかけた。


カチッ


「おおっ!?」


俺がノブに手をかけた途端、独りでに鍵が開いてディアスの驚く声が聞こえたが、当然の如く仕掛けた本人の俺はコレがどういうモノかは分かっていたので、さっさと扉を開けて中に入った。


その後からディアス達が入ってきたのを確認した俺は、壁にあるスイッチを押して電気をつけた。


その途端に後ろから感嘆の声が上がった。


「おお~! スゲーな、こんな数の魔法薬なんて学園の魔法薬室でしか見られないぞ!?」


「スゴいです! 魔法書まで揃っていますよ!」


「あら、いいサーベルじゃない」


「あー、あんまり散らかすんじゃないぞ? それなら別に魔法薬以外なら触ったりしててもいいから」

ディアス達が盛り上がって部屋の棚などを物色する一方、使い魔組は部屋の中を見回してから感心した様に頷いていた。


「へえ……この武器の数、アンタはオールラウンダーかい?」


「ん、まァな。俺は近距離から中距離、遠距離まで大体においては何でもアリだ。俺が扱えない武器はこの世界には余り無いと思うぞ?」


俺は軽く手をプラプラさせつつそう言うと、部屋の隅で魔法書を読み耽っているレイドを見やり、ある事を思い出して凍りつく。


そんな俺を見やりユイが心配そうに何事か訊いてくるが、俺は大丈夫だとだけ返すと、思考する。


――ちょっと待てよ。ロイ先生は〝レイラの記憶は弄った〟とは言っていたが、〝レイドの記憶も弄った〟とは言っていなかったよな?


確かに、ロイ先生とレイラが『風の覇者』の話を切り出した時にはレイドは神界に送喚されていたが、何かしらの手段でレイドがコトの全容を知っていたら?


――これは、少しカマを掛けてみる必要があるな。


俺はすっと目を細めてレイドを見やると、ディアス達が少し離れた場所にいるのを確認してから、そちらに歩を進めた。


「よっ、何読んでるんだ?」


「ふむ……そうですね、これは〝氷属性魔法陣〟についての魔法書です」


「へぇ……どれ、ちょっと俺も――」


そう言いつつ俺は棚の少し上の方に仕舞われていた〝風属性魔法・下級全般〟と書かれた魔法書を手に取る。


するとレイドが形の良い眉を少しひそめたのが視界に入った。


それは分かるか分からないかの極僅かな反応だったが、俺にはそれで十分過ぎた。


しかし、確証がないのでまだ本題は切り出さない。


俺はレイドの反応を密かに確認しつつも、何事も無かったかの様に自然な動きでその魔法書を読むフリをした。


すると程無くしてレイドが動きを見せた。


「貴方には、此方の方が向いているのではないでしょうか」


そう言ってレイドが視線で示す先には〝風属性魔法・中級〟と書かれた魔法書が棚に収められていた。


俺はそれを見て確信した。


ビンゴッ!


属性神たる者、出来損ないとしての俺の魔力の少なさくらい分かっているハズ。


それなのに、コイツは中級の魔法書を進めてきやがったな?


上級の魔法書じゃなければ疑われないとでも思ったのか? だとしたら残念だったな。今の俺はかつてより更に真偽を見抜く力が上がっているぞ!


何かしら知ってやがるなァ、こりゃ。


俺はさっとディアス達の位置を目だけで確認すると、気付かれないように魔力を空気中に分散させ、魔力だけではなく音をも通さぬ空気の壁を作ってから魔力を解放。


「なにっ!?」


レイドが驚きに目を見開き鋭く叫ぶが、一時的に空気を操っている俺の仕業でその声はディアス達には届かない。


その間に、俺は瞬時に術式を完成させた。


顕現しろ、不可視の結界!


「【不可視結界】ッ!」


俺の詠唱と同時に、ディアス達との境界線の空間が揺らぐ。


しかし俺が展開した【不可視結界】のせいで向こうからは〝俺とレイドが軽く談笑などしている〟程度にしか見えないだろう。


コレは本来この様にして使う魔法ではないが、ちょっとした応用によって幻術の効果も付与させたのだ。


つまり、今俺はこの【不可視結界】で〝真実の光景〟を不可視にしたのだ。


俺は結界が展開されるのを見ると、レイドに向けて唇の端を吊り上げて不敵に笑って見せた。


「俺が言えたコトではないが、いい加減隠すのはやめたらどうだァ? 出来損ないの俺に中級の魔法書を進めてきた事で俺は既に気付いている……レイド、お前何か知ってるな?」


俺がそう語り掛けると、レイドは諦めた様にため息を吐き、苦笑して見せた。


「貴方は予想以上に鋭い様だ……そうですよ。私は貴方が『風の覇者』と呼称される何かを受け継いだ事を知っています。

そして、あのロイという方が何らかの危険性から主の記憶を消したのも」


レイドはそこで一息吐くと、ちょっと固い表情になり口を開いた。


「ですが、事情をよく知らぬ間に主の記憶を消された事については、正直憤りを覚えます……話せるだけでもいいので、事情の説明を求めます。

ここで話された事は秘密厳守を約束しましょう」


「……そうか」


俺はレイドの顔を見て、退く気がない事を悟った。


俺はちょっと考えを纏めてから、今日という一日に何があったのか、そして来るべき未来に何が待ち受けているか、レイドに話した。


どの道このまま話さなければ返ってレイドに不信感を抱かせてしまうし、何より秘密厳守ならば他に情報が漏れる事はない。


多分レイドは誰にも話さないであろう……そんな望みに賭けて話したのだ。


もっとも、何者かに強引に喋らせられないよう、黙秘の術式を施す許可をレイドに取ったが。


「まさか、そんな事が……!」


俺が話し終えると、レイドは目を見開いて額に手を当てた。


「いや、だがしかし……"覇者"という言葉を除けば、神界でも確かに大戦争についての聞き覚えがありますが、あの話しはお伽噺だったハズでは?」


「なるほど、神界では七人の覇者と闇の覇者との大戦争は一部の例外を除けばお伽噺扱いなんだな。だか事実、闇の覇者……いや、神界の住人の言い伝えからしてみれば、大戦争闇主側の王はかつての封印を打ち破り再び魔界に君臨し、覇主側の七人の戦士達も封印を打ち破りルーレシアに再来した。

この場合闇主側の王と言うのが『闇の覇者』、覇主側の七人の戦士達と言うのが『光の覇者』を頂点とし、『風の覇者』を最強とした覇者達の事だ」


俺はそこで一息吐くと、話を続けた。


「だが、闇の覇者を除く覇者達は封印の術式からしてみれば完全にイレギュラーなんだよ。だから闇の覇者以外は封印のせいで肉体と神器を失った。

だから覇者達は現代の人間達の中から魔力の波長が合う者を探し出し、その人間に宿ったのさ」


この俺には風の覇者がな、と俺は自分の胸の辺りを叩いて見せる。


静かに俺の話を聞いていたレイドは、僅かな動揺を含んだ声音で言う。


「わざわざ覇者達がルーレシアに戻ってきたと言う事は、まさか……」


「ああ、レイドの考えは間違っちゃいないさ。神界でいうお伽噺が本当にあった出来事だと言うならば、もう分かるよな? ――近い将来、再び大戦争が勃発する。闇の覇者と七人の覇者達の戦いが、な」


俺はそう話すと、ため息を吐いてチラリとディアス達を見やり、レイドに向き直る。


「取り敢えず、実際に口で話した方がいい事は話し終わった。っつーワケで、こっからは結界解いて念話で話したいんだが……」


俺がそう言ってレイドを見つめると、レイドは力強く頷いた。


「大丈夫です。私も念話を使えますので。では――」


「……だな」


俺はレイドに同意の意を示すと、【不可視結界】を解除した。


それと同時に、ディアス達の会話に意識を戻す。


「――マジで!? この魔法ってそんな応用法があったんだな!」


「うん? それなら私は元から知っていたよ? だけど此方は知らなかったなぁ」


まずディアスに目を向けると、フレイと魔法書を読みながら魔法について話し合っていた。


でもって次にユイに目を向けると、


「ん~……ねえユイ、これってなにさ?」


「あっ、それはシアナの花弁です。治癒魔法が使えない人が磨り潰して傷口に塗って治すのに使うんですよ!」


「そうなのかい? アハハ、アタシってこういうのは弱いから……」


シルフィがそう言って苦笑するも、ユイは笑顔で「そんな事ありませんよ」と言っている。


で、最後にレイラに目をやると――


「興味深いわ……」


そう呟きつつ、魔法書やら魔法薬合成書を読んでいる。


当然と言うべきか、レイド以外には俺の言葉だなんて届いちゃいない。


勿論、会話している光景ですら弄られている所為で、会話の内容も偽装されてディアス達の耳には届くようにしてある。


因みに、偽装された会話の内容だけは空気の壁にも【不可視結界】にも影響せずにディアス達に届くようにしてある。


こんな言い方だとナルシストだと勘違いされそうでちょっと心配だが、もしかしたら何気に俺はスゴいのかもしれない。


そんな事を考えていると、レイラが話し掛けてきた。


「ねえ、ちょっといいかしら? この魔法書って何処で売っていたの?」


そう言って見せてきた魔法書には、〝氷属性特異魔法・上級〟と書かれていた。


特異魔法の魔法書はかなり珍しいモノなのだが――


「悪りィ、それ買ったものじゃないんだ。物心ついた時からいつの間にか所持していたモノなんだよ、それ。勿論、それだけじゃなくここにある魔法薬やら魔法書やらの大半も然りだ」


「そう……」


俺がそう言うと、レイラは落ち込んで沈んだ声音を返してきた。


あ~! 何だよコレ、落ち込んじゃったじゃねぇか。俺が悪いのかよ!?


はぁ~……ったく、仕方ねェなァ……


「あ~……その魔法書に書かれている事はもう全部覚えているから、必要なら譲ろうか?」


「いいの?」


俺がそう申し出ると、レイラは顔を上げてこちらを見返してきた。


俺がそれに頷いて返してやると、レイラはちょっと頬を緩めて本の表紙を撫で始めた。


俺はそれを見て、ちょっと苦笑する。


レイラにあげたこの魔法書、実はもう売ってない程のモノだからだ。


確かにあの魔法書の内容は全て記憶しているが、正直あの魔法書は珍しいだなんてモンじゃなく、俺が知る限りじゃ俺しか持っていないモノだ。


っつーかマジで非売品じゃないかな、あの魔法書。何年か前に一度魔法書専門店で探してみたが、結局見付からなかったしな。


くっ……こう考えるとスゴく惜しいモノをあげちまったぜ……。


まあ、レイラが喜んでるからいいか。それに、幾ら覚えようとも俺は学園じゃあの魔法書に書いてあった魔法は使えないしな。


……あくまでも〝学園では〟だが。


「うわっ! レイラだけズルい。レオン、俺にもなんかくれよ」


「仕方ねェなァ……そら、くれてやる。〝ベノムバイト〟だ」


「いやコレ毒じゃね!?」


そんなこんなで九時頃まで皆で騒いだ後、ディアス達は使い魔と一緒に帰り、俺は一人リビングに戻って一息吐いた。


因みに、騒いでいる間に俺はレイドと念話でどうやって今回の件を知ったのか教えてもらってある。


どうも、契約時の魔力のお陰で知り得ていた様だ。


「さて……と。そろそろいいな」


俺は部屋の外の通路に誰もいないことを感知した後、念話を繋げる。


《ノヴァ、聴こえるか? 聴こえたら返事をくれ》


俺がそう伝えると、ややあってノヴァの声が返ってきた。


《むっ……主か? 何だ、もう部屋にいってもいいのか!?》


《ああ、まあそう言うことだ。安心しろ、結界は俺が張っとくから。今から俺がこの部屋をイメージするから、それをトレースして転移してきてくれ》


もっとも、俺には転移のトレースだなんて器用な真似、今みたいにされるのは兎も角するのは無理だけどな!


《分かったぞ。それでは……》


ノヴァが承諾すると同時に、俺は今目の前に広がっている部屋の中を頭の中に思い描いた。


すると、程なくして部屋の床に魔法陣が展開され、誰かが転移してきた。


「おっ、きたなノヴ「主~!」うおっ!?」


その誰かは転移してくるなり、いきなり抱き着いてきた。


勿論、今俺に抱き着いているのはノヴァである。


うん、美人に抱き着かれるのは正直嬉しいさ。男の子だもの。


だけどね、抱き着いてくる速度がハンパないんだ!


だからもう、抱擁じゃなくてタックルになってんの、コレ!


お陰で俺は無様に背中から床に倒れ、ゴンッと鈍い音が響くほどの勢いで後頭部を打ち付けたさ。


すげえラッキーな状況なのに、興奮する暇も無ェよ!


つか、痛ェ! 痛い痛い痛い!


「~~~……!」


「あっ、主!?」


自分でも気付かない間に俺は打ち付けた後頭部を押さえながら、残像が出来るほどの速度で床を悶絶しながら転げ回っていた。


後頭部を打って悶絶しただけで残像が出来る速度って……ハハハ。


当の本人である俺からしても信じらんねぇ。


俺は元から高い方だったと思われる自分の身体能力が、力を得てから更にはね上がっている事に、自分の事ながらドン引きしながらも起き上がると、ノヴァに苦い笑みを見せた。


「ノヴァ、いきなり抱き着くのはやめてくれ。それプラス、抱き着くにしてももうちぃ~っとばかし速度を落としてくれ。頭を強打して死亡とか……話しにならんしシャレにならん!」


もっとも、それと同時に俺の理性も崩壊しそうになってるんだがなァ!


だってノヴァ、美人だし。


「あ、ああ、すまなかったな。ちょっと勢いが付きすぎてしまった様だ」


ノヴァはそう述べ部屋を見回した後、思い出した様に聞いてきた。


「ふむ、それでレーゼは何処にいるのだ? この部屋には姿が見られない様だが……」


その問いに対し、俺は隣室への扉を親指で示すと、苦笑しつつ言った。


「アイツならもう寝ているさ。だからこっからは大人の時間だ」


「おっ大人の時間!?」


俺がそう言うと、ノヴァが頬を赤くして寝室の方をチラ見し始めた。


終いには吐息に熱が籠り始める……


ちょっ、何考えてんだコイツは!


言い方が悪かったのは認めるけど、俺はただ酒を飲もうかと思っただけなんだよ!


「さて、と……」


俺は息を荒くし始めたノヴァをほっとくと、意識を集中させて再び念話を繋いだ。


《……フリード。フリード、聴こえるか? 聴こえたら返事をくれ》


俺が心中で問い掛けると、ノヴァの時よりも少し時間が経ってから返事が返ってきた。


《む……主か。どうかしたのか?》


《フリード、今何処にいる? まだ死滅の森にいるのか?》


《如何にもそのとおりだ。俺はまだ死滅の森の深部にいる。いや、用事はもう済んだのだが、何せ四百年ぶりの再会だったのでな。暫し旧友との話しに熱が入ってしまってな……》


《いや、別に気にしてはいないさ。基本的に自由にしていてくれて構わないしな。そんな事よりも、今宵一杯付き合わないか? ノヴァも来ているんだが》


《ほう、主は酒も嗜むのか。だが主の年齢では少し刺激が強すぎるのでは?》


《ふふん、確かにな。だけど俺は例外だ。こう見えて酒には異常に強くてな。幾ら飲もうが酔うことはない》


《ふむ……主がそう言うのならば良い。俺も混ぜて貰うとしよう》


《そうか! んじゃ、今から俺が現在地をイメージするから、それをトレースして転移してきてくれ。あ~、フリードならトレースって出来るよな?ノヴァは難なくやってみせたが……》


《問題ない。それでは頼む》


《ああ、任せとけ》


それを皮切りに、俺は念話を切って先程と同じ様にこの部屋をイメージする。


すると、先程と同じく床に魔法陣が展開され、フリードが転移してきた。


「ふむ、待たせたな主。それでは……」


「ああ、酒の準備も任せといてくれ。創造魔法の練習がてら、ウイスキーとかワインとか創造してみるからさ!」


フリードとノヴァにそう言って笑って見せると、ふと天井を見上げる。


ふむ……創造魔法を使うならばこの簡易結界では駄目だな……【リジェクター・サークル】でも別にいいんだが、念のため……感知当の安全性を考えるならば……本日二回目のこの魔法、いっとくか。


「【不可視結界】」


よし、これで何時でもオーケイだ。


創造――グラスは……そうだな、ショットグラスが三個。ウイスキー……システィール産のヤツでいいか? が七本。同じくシスティール産の赤ワインが七本……


うおっとっと!


俺がそう念じて魔力を解放すると、一瞬で念じたモノが創造された。


危ないな、おい。危うく落としちまうトコだったぜ。俺は内心で冷や汗をかきつつも、しっかり魔法でグラスやら何やらを浮かせていた。


しかし、創造魔法はやはり魔力消費がとんでもない。


早く慣れないとな。


そんな事を改めて実感しつつも、空中に浮かせたそれをそのままテーブルまで飛ばした。


俺とフリードとノヴァはそれぞれソファーに座ると、俺がフリードのグラスに、フリードがノヴァのグラスに、ノヴァが俺のグラスに、それぞれ酒を注いで、自らのグラスを軽く持ち上げた。


ん~……よし、ここは俺が仕切るか。


そう思い、俺は口を開いた。


「んじゃ、今日の出会いを祝して……」


「「「乾杯!」」」


最後は声を揃えてそう言うと、俺とフリードとノヴァは今日の出来事を肴にグラスに口を付ける。


起きていたのならレーゼも酒以外を用意して誘おうかと思っていたが、生憎レーゼは熟睡中。


まあ、仕方ないか。


何だかんだ言って、今日はホントに色々なコトがありすぎたからな。


そう思う一方で、三人のみで行われたささやかな祝杯はちょっとした盛り上がりを見せる。


「――うむ。俺の旧友は俺と同じく竜種の中でも高位でな。それ故に付き合ってきた時間も長いのだ」


「ほお~? いいんじゃないか、そういうの。長い年月を経ても変わらぬ友情か……イイね」


「友か。私は今まで創始の空間で独りだったからな……」


「何寂しいコト言ってんだ。もうお前には俺がいるだろう?」


「フッ……主。俺がではない。俺達が、だ」


「おっ! 良いコト言うじゃんかフリード!」


「フフフッ……今ほど私は清々しい気分になった事はないぞ、主。主と出会えて私は本当に幸せだ……」


「そうかい。そりゃ嬉しいね」


そんな会話がこの後一時間程続き、ノヴァは学園長室へ、フリードは神界へと帰って行った。


俺はグラスなどを破壊魔法で消滅させると、歯磨きを済ませてから寝室の扉を開いた。


カーテンは閉めきられており、寝室は真っ暗だった。


しかし、静かな寝息が聞こえてくるので、レーゼが寝ているのが分かる。


レーゼにベッドを貸している俺はちょっと苦笑すると、体が痛くなるのを覚悟でソファーに寝っ転がった。


そして俺は双眸を閉じると、静かに眠りに就いた……



―――――――――――


異変が起きたのは、俺が眠りに就いてから二時間ほど経った時の事だった。


突然跳ね起きたその者は、双眸を真紅に染め上げて部屋の中を見回し、ソファーで眠っている俺を視界に捉えると、音も発てずにベッドから抜け出した。


ゆっくりと俺が眠るソファーに近付き、ソファーの前まで接近すると、上から俺を覗き込むように見下ろし、ニヤリと唇の端を吊り上げる。


吊り上げられた口元からは、小振りながらも鋭いスタイリッシュな八重歯が覗き、いつの間にか開かれていたカーテンが隠していた月光が寝室の中に朧気に降り注ぐ。


その月光により、その者の銀色の髪が艶やかに煌めく。


そして、その者は俺が起きる様子がないのを確認すると、俺の首筋に躊躇いなく牙を突き立て――。


「――こりゃ一体何の真似だ? レーゼ……」


様として、突然伸びてきた腕に肩を掴まれて引き寄せられる。


咄嗟に腕を振り払おうと肩を掴んでいる俺の右腕に力の籠った裏拳を放つが、瞬時に飛び起きて魔力強化した俺によって両腕を固定され、拮抗状態に陥る。


俺はギリギリと腕に力を籠めながらも、間近にあるレーゼの瞳を覗き込み、一言一句はっきりと言葉を紡ぎ出した。


「レーゼ……これはどういう事かと俺は訊いているんだ。質問に答えろ」


俺が低い声で告げると、レーゼは不愉快そうな目で此方を見返してきた。


「……私の名はレーゼなどではないわ。私は"闇の頂点"が一角、〝闇の女王〟リリス。貴方の命を貰うわよ……」


「オイオイ、只者ではないとは思っていたが、何か知らんがヤバそうだ……"闇の頂点"に〝闇の女王〟ねぇ……それも俺を殺すだって……?

ハン! そりゃ勘弁願いたいね。それに、お前に俺は殺せない。――必ずだ」


「……言ってくれるじゃない」


俺が確固たる口調でそう言ってやると、レーゼ……もとい、リリスは残像が残るほどの速度で腕を引き、鋭く尖った爪で俺の脇腹を貫いた。


途端に俺が着ていた寝間着が裂けて血に染まり、血泉が吹き出る。


「――ぬっ」


零距離だったせいで反応仕切れなかった俺は顔をしかめてリリスを睨むが、リリスはニヤリと唇の端を吊り上げる。


「これでどう? 私は何時でも貴方を殺せるのよ……それにしても」


リリスは手に付着した俺の血を舐めとり、恍惚とした表情を浮かべる。


「ホントに美味しい血をしているわね、貴方……今すぐこの手で殺して飲み干してしまいたいくらいに……」


そこで俺に目を戻したリリスは怪訝そうに眉をひそめた。


何故なら、俺が唇の端に不敵な笑みを刻んでいるからだ。


「……何? 恐怖で頭でもおかしくなったのかしら?」


「ククク、ハハハハハ! そっちこそ中々言ってくれるじゃねェか……だがしかし、これで証明されたな……お前はやはり俺を殺せん!」


俺がそう言うと、リリスが俺の喉に鋭い爪を突きつけて訊いてきた。


「何故そう言えるのよ? 傷を負った癖に……」


「決まってんだろ?」


俺はそこで傷ついた脇腹に手を添えて、


「なら逆に訊くが、何故一撃で心臓を狙わなかった? あの零距離ならば当たっていたかもしれないのに、お前は何故殺し掛かってこなかった?

これでまず一つ。二つ目は――」


そこで、俺はリリスの瞳を覗き込み、


「テメーは誰だ? お前はレーゼであってレーゼではない。かといって二重人格ってワケでもないし、誰かに操られているワケでもない……。

俺の推測だけでモノを言うならば、〝テメーはいつの時代のレーゼ〟だ?」


俺が核心を突いてやると、リリスが目を見開いて此方を見返してきた。


そして、呟くように訊いてくる。


「アンタ、一体何処まで知ってるのよ……」


「何処まで知っているかだって? ハン! そりゃ――」


俺がその問いに難解な答えを返そうとした時、リリスの体が大きく揺れ、胸の辺りを押さえた。


「おい――?」


流石に見過ごせなかった俺がリリスの肩を揺らすと、リリスが口を開いた。


「今日は、ここまでの様ね……表層意識の支配権が戻るわ」


「なに? おい、ちょっと待て――」


俺が慌てて体を揺するが、リリスはスッと瞳を閉じると、気を失った。


「何だってんだ、一体――」


俺が納得のいかない表情で舌打ちした時、腕の中にいたレーゼが目を開いた。


「……レオン?」


「あ、ああ?」


俺が此方を見返してきた瞳を見ると、先程までの荒々しいリリスの真紅の瞳ではなく、おっとりとしたレーゼの青い瞳に戻っていた。


いつの間にかリリスからレーゼに戻ってやがる。


俺はため息を吐きたくなるのを堪えると、脇腹に走る激痛に渋い顔をした。


「レ、レオン!? お腹から血がたくさん――!」


「ああ、ちょっと危ない思考回路をした赤目と森で戦ってきただけだ。安心しろ、見た目ほど酷くはない。このくらいなら【ゴッド・ブレス】ですぐに治す」


言葉通りに治癒すると同時に、レーゼの手に付着した俺の血を水の魔法で気付かれない様に洗い流す。


自分がやった事を知らせないためだ。


「そら、夜中なんだからレーゼはもう寝てろ。俺はもう一回シャワー浴びてから寝るからさ」


「うん」


俺はレーゼを寝かし付けた後、シャワーを浴びて寝間着を変えてから、再びソファーに身を預け、ベッドで寝ているレーゼを暫し見つめる。


多分、ちょっとの間はリリスが表層意識に出てくる事はもうなさそうなので、今度こそ俺は天井に向けていた目を閉じると、レーゼとリリスの事について思考した後、ゆっくりと眠りに就いた。

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