合同試合
「はあっ!」
「まだだ!」
そんな声が響く中、ステージではCクラスの生徒とDクラスの生徒が戦っている。
「いけーーー!」
「そこだーーー!」
それをそれぞれのクラスメート達が応援している。
勿論俺達もその中に入っていて、その試合を観戦していた。
今ステージ上では剣を持ったCクラスの男子と、レイピアを持ったDクラスの男子が打ち合っていた。二人共、魔武器の能力が同じくらいらしく、中々決着が着かない。
しかし、それもこれまでだった。
「くっ!」
今Dクラスの生徒がCクラスの生徒の攻撃を受け損ねて、体勢が大きく揺らいだからだ。
その隙にCクラスの生徒が相手の生徒の首にビタッと剣を突き付けた。
「くっ、降参だよ」
剣を突き付けられた生徒が悔しそうにそう言うと、
「勝者!〝バークレー=グルエル〟!」
と言う審判の教師の声が響いた。
「あ~あ、負けちゃったよ」
戦っていたクラスメートがそう言って戻って来ると、他のクラスメート達が励ましている。
そんな微笑ましい光景を横目に見ながら、俺はディアスの方を見た。
するともうディアスは座席から立ち上がっており、
「次!〝ストーン=ラルヴァ〟対〝ディアス=ヴァーナル〟!」
と言う声が響くと、
「次は、俺の番か!」
と言ってステージに歩いて行った。
俺がステージに向かうディアスの背中に「頑張れよ!」と声を掛けると、ディアスは笑いながら頷いた。
ディアスがステージに歩いて行くと、途端に回りがザワザワし出した。
「おい、次はあの〝ディアス=ヴァーナル〟だってよ!」
「やっぱり強いんだろうな~」
「ディアス君ってちょっとカッコよくない?」
「そうよね~、今度声を掛けてみようかな?」
そんなざわめきが満ちる中、ディアスはステージ上に上がった。
すると相手もステージに上がり、ディアスと向き合った。
「〝ストーン=ラルヴァ〟対〝ディアス=ヴァーナル〟……試合開始!!」
そして教師の声が響いた途端、両者は動き出した。
「行くぜ! 〝紅蓮〟!」
ディアスが魔武器を召喚して飛び退くと、相手はなにやら棒のような物を召喚して同じく飛び退いた。
「ふむ……」
ディアスとその相手が、試合開始と共に飛び退いて相手から距離を取ったのを見て、俺は顎に手を当てた。
何故なら、ディアスが飛び退く理由はわかるのだが、相手も飛び退いたからだ。
ディアスの武器は槍だから、間合いを取るために飛び退いたのがわかる。
だがディアスの相手の武器は棒だ。なら相手は飛び退いたディアスの懐に飛び込んで、その棒で殴打するのが基本ではないか?
だがストーンは飛び退いた。俺はその行動に不審を覚えたから考え込んだのである。
しかしそれも長くは続かなかった。
「はは~ん。成る程ね……」
俺はそう言うと、苦笑した。
試しにユイとレイラの方を見ると、俺と同じく苦笑している。ふむ、どうやら気付いたらしい。
まあ、当然と言えば当然だが。
俺がそう思いつつ試合に目を戻すと、遂にストーンに動きがあった。
ディアスが炎を帯びた突きを繰り出した時にそれは起こった。
ストーンはディアスの突きをサイドステップでかわすと、手に持った棒をディアスのみぞおちの辺りに向けて、一声叫んだ。
「伸びろ!」
そう叫んだ途端、その棒の先端が急激に伸びだし、ディアスの鳩尾に向かって勢いよく突きを繰り出した。
しかし、それを見た俺は「勝負あったな」と軽く笑った。
確かにあの棒の伸縮速度も大した物だとは思う。
魔力が少ない分、普段から全身を鍛えている俺はともかく、他の奴らではまともに見えやしない速度で伸びているからな。
だが――しかし。
「……惜しいな、あの棒の伸縮の能力にも慣れていないウチに使っても――」
他の奴らはともかく、ディアスには効果がない。
俺がそう言い切る前に、勝負が決まった。
ディアスはストーンが棒を自分のみぞおちの辺りに向けた時には、既に素早く突きを引いており、ストーンが棒の能力を発揮したその瞬間に、ストーンの棒と一直線になる形で紅蓮を構えていたのだ。
つまり、いくら伸縮速度が速くても棒を伸ばすその瞬間なら、ストーンの棒の先端に一直線上に合わせて紅蓮を構えていれば、いくら速かろうが構えているだけで防御、あわよくば反撃出来るのである。それに、伸縮系の魔武器は慣れないウチは――。
「そらよっと」
「うわっ!」
元に戻すのに時間が掛かる、と思ったら案の定、伸ばした棒をストーンが戻す前に、ディアスが棒を掴んでぐいっと引っ張ると、ストーンはディアスの方に引き寄せられ、首に槍を突き付けられていた。
「どうする?」
ディアスがそう聞くと、ストーンは悔しそうに
「……降参だよ」
と言って項垂れた。
「勝者! ディアス=ヴァーナル!!」
教師のその声が響くと同時に、訓練場内に歓声が上がった。
「凄かったぜ!」
「カッコよかった!」
そんな声が掛かる中、ディアスがこちらに歩いてきた。
「ははっ、勝ってきたぜ!」
「ああ、流石ディアスだな」
俺がディアスにそう言うと、ディアスは照れたように笑った。
「さて、次は私ですね!」
ディアスが座席に戻ると、次はユイの名前が呼ばれた。
「頑張れよ」
俺達はそれぞれユイに声を掛けると、ユイは控えめな微笑を浮かべた。
するとユイのその控えめな微笑に、男子達の視線が殺到した。まあ、美少女だから当然か?
それにユイが気付いて、自分を見ている男子達にニッコリと笑いかけると、なにを勘違いしたか知らんが、微笑を返された男子達が勝手にヒートアップし出した。
「俺に向けて笑ってくれた!!」
「俺にだ!!」
「いや俺だ!!」
まあ、気持ちはわからなくもないが……俺は騒いでいる男子達を傍目に見ながらユイに視線を戻すと、既にユイはステージに上がっており、相手と向かい合っていた。
「それでは、ユイ=エアロス対サーヤ=アーチェス……試合開始!!」
その声が響くと同時に、ユイとサーヤがバックステップで互いに距離を取り合い、魔武器を召喚した。
「来て! 〝疾風〟!!」
「行くわよ! 〝春雷〟!!」
「ほお……」
俺はサーヤとやらの魔武器を見て、声を漏らした。
何故なら、サーヤの魔武器が電気を纏った弓だったからだ。
「お互いに遠距離系の魔武器か……」
「これは拙いぞ。ユイが不利だ」
俺はそう呟くと、ぐっと眉間にシワをよせた。
そうして見ている間にも、だんだんユイが圧され始めた。
「くっ…!」
ユイは風の魔法弾を撃ち続けているが、銃口の動きから魔法弾を読まれ、狙いを定めている間にはサーヤが弓を引き絞っており、雷を帯びたとんでもないスピードの矢が放たれる。
それをユイは全身に風を纏ってなんとか防いでいるが、いくらユイと言えども、このままではジリ貧だ。
それに遠距離同士の武器の戦いでは、接近戦に慣れていない限りは如何に相手より速く動き、相手に攻撃を届かせるか……これに尽きる。
その点を考えてユイとサーヤの魔武器の属性を見ると、ユイは風でサーヤは雷。武器の形状では双銃であるユイが有利だが、どう考えても雷の方が攻撃を届かせるのが速い。
それに銃などの系統の武器は、銃口の動きから先の攻撃を読まれ安く、相手に標準を合わせている間に、気が付いた時にはユイのように攻め込まれている場合が多いのだ。
尤も、早撃ち――クイックドロウなどを使いこなせる、例えばユイの母親である風王のような双銃使いならば臨機応変に対応できるのだが、残念ながらユイはまだそこまでの技量はない。
――どうするんだ、ユイ。このままでは負けてしまうぞ?
「……ん? 今目が合ったか?」
俺がそう思った時、ユイはなんと地面に向けて魔法弾を放った。
―――――――――――
~ユイ~
「くっ……!」
私は先ほどから相手に向けて風の魔法弾を放っているのだが、銃口から攻撃を読まれてかわされてしまう。
しかもかわした直後には矢をつがえて弓を引き絞っており、雷を帯びた矢が迫ってくる。
私はその矢を疾風の能力の一つである風の守りで防いでいるのだが、このままではいずれ負けてしまう。
私がそう思って焦っていると、他の皆とは違い、レオン君が私の双銃を見て眉間にシワをよせて考えこんでいるのが目に入った。
(レオン君……私の双銃を見ている……?)
私はそれを知った時、レオン君が何を考えているか理解した。
多分、お母さんの事を考えているのだろう。お母さんは双銃の扱いに慣れていて、クイックドロウもできるのだ。クイックドロウなら相手の反応速度よりも速く攻撃ができるし、クイックドロウを防がれたとしても、お母さんは様々な攻撃方法を持って――そこまで考えた時、ユイはある事を思い付いた。
(そうです! クイックドロウが無理でも、まだ他の戦い方があります! 私にできるのは――)
私がそう思ってサーヤさんの位置を確認すると、私の正面で弓をつがえているところだった。
いける!
そう思ったユイはサーヤよりもややずれた位置に魔法弾を放った。
「何処に撃っているの!」
その途端、私の魔法弾が外れたのを好機と見たのか、サーヤさんが私に向けて矢を放ってきた。その時、私は勝利を確信した。
「えっ!? うっ、うそ!?」
そんなサーヤさんの慌てた声が聞こえた途端、私は一気に接近して、銃口を突き付けた。
「どうしますか?」
「降参します……」
サーヤさんが降参すると、訓練場内に歓声が上がった。
私がそれに応じていると、サーヤさんが聞いてきた。
「最後の魔法弾って、跳弾の特性を付与していたんですね……」
私はそれに微笑みつつ頷いた。
「はい、そうですよ。私はまだクイックドロウに慣れていないので、跳弾の特性を魔法弾に付与して撃ったんです」
私がそう言うと、サーヤさんは苦笑いして言った。
「背後から魔法弾が跳んできた時には驚きましたよ。驚いたと言っても、その時にはもう体勢を崩しちゃってたけどね!」
そう、あの時ユイが撃った魔法弾は地面に当たると跳ね返り、壁に当たって跳ね返ると今度は天井に当たり、天井から跳ね返ってきた魔法弾がサーヤの膝の辺りに命中したのだ。
跳弾の特性故か、威力は下がってしまっているのだが、それでもサーヤの体勢を崩すには充分過ぎた。
「それでも楽しかったからまあいいか! また戦ってね?」
サーヤさんはそう言うと、ステージから降りていった。
それに対して私は頷いて返すと、私もステージを降りた。
―――――――――――
「まさか跳弾をあそこまで使いこなすとは――。流石だな、ユイ!」
「凄いな、おい。跳弾の練習をしている事は知っていたけど、いつの間に跳弾なんて使えるようになったんだ?」
「跳弾をあそこまで正確に当てるのは難しいのに、凄いじゃない。ユイ!」
俺達はステージから降りてきたユイに早速話し掛けた。
「そうですか! 練習試合とはいえ、実は実戦で使うのは始めてだったんですよ。上手く出来てよかったです!」
そう言うとユイは嬉しそうに笑いながら座席に座った。
「じゃあ、次は私ね」
レイラはそう言うと、ステージの方に歩いていった。
「頑張「当たり前よ。絶対勝つわ」……ああ、なんか知らんが凄いやる気だな」
俺が言い切らない内に、レイラは必勝宣言をしてステージに向かっていった。
まあ、最初は口数の少なかったレイラが、最近では徐々に喋る事が増えてきたのは喜ぶべき事だろう。
俺がそんな事を考ながらレイラを見ていると、レイラがステージに上がって対戦相手の男子と向き合っていた。
「それでは、デルロイ=サイス対レイラ=グレイシャル……試合開始!!」
その声と共に、レイラとデルロイと呼ばれた生徒は互いに踏み込んだ。
……しかしその三十秒後、勝負はついた。思わず皆呆気にとられている。
その中を悠然とレイラは歩いている。
何故こうなったのか。
その原因はレイラの戦い方にあった。
……これはつい三十秒前の事だ。
「くっ、なんて強さなんだ!」
そう言って剣を構えながらどんどん後退しているのは、デルロイだった。
それに対して圧倒的な強さを見せつけて、とんでもない勢いで攻め続けているのはレイラだった。
あまりの勢いで攻めてくるせいか、魔武器の能力すら発揮出来ていないのだ。
いや……正確にはレイラが能力を発揮させる隙を与えていないのである。
そう、レイラは相手の能力を封じるため、最初から一気に攻勢に出ていき、相手の能力を発動させないために素早い剣撃を送り込んでいったのである。
その結果、相手は能力を発動したくてもレイラの剣撃を防がなくてはいけないため、どうしても防戦一方に追い込まれてしまうのだ。
「くっ、こうなったら無理にでも……!」
するとデルロイは無理やり能力を発動しようとしたが、無理にコトを進めようとしたため、能力が不完全な状態で発動してしまい、その時にレイラの剣撃を受け損ねてしまったのだ。
すると当然のように体勢が崩れるワケで、その隙にレイラがサーベルを首筋に突き付けたのだ。
「降参だよ……」
「勝者! レイラ=グレイシャル!」
そしてデルロイが降参して審判の教師が試合終了を知らせて、今に至る。
訓練場内は余りにも早い決着に、暫くポカンとしていたが、次の瞬間には膨大な歓声に包まれた。
「レイラさんカッコいいーー!!」
「いいぞーー!!」
「俺と付き合ってくれーー!!」
……なんか変なモノが歓声の中に加わったような気がしたが、兎に角レイラはその歓声に答えながら俺達の方に戻ってきた。
「ははははっ。流石だな、レイラ」
俺がレイラにそう言うと、レイラは頷き返しながら座席に座った。
「ふう……それにしても、まさか魔法なしでもディアス達ってそうとう強いんだな」
俺が苦笑いしながらそう言うと、ディアス達は照れたように笑った。
「そう言われると嬉しいよ。……それよりも、レイラの次って……」
照れたような笑顔から一転、ディアスは真剣な表情になると俺の方を見てきた。
「ああ……俺の番か」
俺はそう呟くと、座席を立った。
するとディアスは期待の籠った声音で俺に言ってきた。
「お前って魔法なしならそうとう強いんじゃないか!?」
「確かに魔法なしならかなり自信があるが……」
俺がそれに対して僅かに首を傾げながらそう答えると、
「だよな! まあ俺を楽しませてくれよ!じゃあ、頑張れよ!」
と顔を輝かせながら言ってきた。
「ああ、じゃあ行ってくる」
俺に何を期待してるんだか知らんが、まあ試合には勝つだけだ。実際、魔法なしなら多分俺はクラスで最強だと思うしな。
俺がそう思いながらステージに向かって歩いていくと、後ろからディアス達の声援が聞こえてきたので、俺はそれに振り向かずに軽く片手を上げてかえすと、ステージに上がった。
しかし俺がステージに上がったのにも関わらず、俺の相手は一行に上がってこない。
それに俺が眉をひそめていると、やっと俺の相手が座席から立ち上がった。
そいつはなにやらゆっくりと大物ぶった足取りでステージの上に上がると、俺の方を見て俺に声を掛けてきた。
「いや、遅くなってすまないね。それより、君が件のレオン君だね?」
俺は、お前は態と遅く出てきやがった癖によくそんな事ほざけるな、と思いつつもそれに応じた。
「確かに俺はレオンだが、それがどうかしたか?」
俺がそう答えると、そいつは気取ったように笑いながら
「すまないが、降参してくれないか?」
と言ってきた。
それに対して俺が怪訝そうに眉をひそめて見返すと、
「だって当たり前だろう? 先が見え見えの戦いなんてしても時間の無駄じゃないか」
とか、気取ったように髪を払いながらほざいてきた。
それに対して俺も、
「ああ、そうだな。この戦いに俺が勝つことが見え見えなのに試合なんかしても、確かに時間の無駄だな」
と、俺が不敵な表情、それに加えて唇の端に有るか無きかのふてぶてしい笑みを刻んで、相手を真似て気取ったように腰に片手を当てて言ってやると、相手は憤慨したような様子で俺に食って掛かってきた。
「なんだと! 僕は貴族だぞ! 魔法もろくに使えない出来損ないが、生意気な口を叩くな!!」
俺はそれに対して、余裕の表情でニヤリと笑った。だいたい、こういうタイプの人間は他人をけなすのは平気な癖に、自分がけなされると必ずキレると相場が決まってるので。
それに今こいつは「魔法も録に使えない」とか要らぬことを吐かしやがったな?
と、言うわけで――
「……お前バカ?」
俺はそう言って呆れた目付きで相手を見やった。
「なっ、なんだと!」
すると相手は俺の狙い通りに怒り始めた。ああ、なんて扱い安いやつなんだろう。やはりバカだ。
「だってそうだろ? なんで魔法なしの戦いで魔法の話が出てくるんだ?そこんとこちゃんと考えてからモノを言えや、バカが」
自分で墓穴を掘りやがったな、バカがっ。
そう言う意味を含んで、俺が傲然と顎を上げてはっきりとそう言ってやると、相手は怒りの余り逆ギレし出した。
「なっ! き、貴様ぁーーーー!!」
相手はそう叫んで俺を睨んできた。
―――――――――――
その時、そのやり取りを見ていたクラスメイト達は、レオンの意外な口の悪さに呆然としていた。
「レオン君って……意外と毒舌なんですね…」
ユイがなんとも言えない顔でそう言うと、
「ああ……しかも言っていることが正しいだけに、何も言い返せないようにするのがまた凄い……」
と笑いを堪えつつディアスも言った。
「レオンも大したものだけど。でも、いいのかしら……相手方、かなり怒っているわよ?」
レオンの毒舌に感心しつつもそう言ったのはレイラだった。
「まあ、大丈夫なんじゃないか? なんの考えもなしに挑発するようなヤツじゃないしな」
それに対してディアスもそう言って、レオンの方に目を戻した。
すると、ちょうど審判の教師がレオンと相手の名前を上げたところだった。
―――――――――――
「やめんか! レオンとラース=キストアーレ! 準備はいいか?」
俺がそれに頷こうとした時、俺と同じクラスの生徒達がラースとやらの名前を聞いた途端、驚きの声を上げてラース某の方を見ていた。
「ラース=キストアーレ!?」
「それってあのキストアーレ家……?」
「キストアーレが相手だなんて、あいつに勝ち目なんてないんじゃないか?」
「そうだな、あいつは噂に聞いていたよりもけっこう面白い奴だけど、やっぱりな……」
生徒達のその反応を見て、俺は眉をひそめた。
この反応……俺の前にいるこの『何かを勘違いしたバカ』はそんなに有名な奴なのか?
俺がそう思って額に手を当てて自分の記憶を掘り出していると、ラース某が頼んでもいないのに自慢たらしく教えてきた。
「ハッハッハ! 聞いただろう? 僕は武器による戦闘に特化したキストアーレ家の血筋だ! どうだい? もう減らず口も叩けないだろう?」
俺はそれを聞いてやっと思い出した。
ああ、思い出したぞ! キストアーレって言えば、たしかあらゆる武器に精通していて貴族の中でもそこそこ上位のヤツだったけな?
俺がそう思いながらラースとやらと同じクラスであるCクラスの方を見ると、Cクラスのヤツらは嘲笑うような視線で俺の方を見ていた。ふむ、この視線から考えるに、間違いないだろう。
ラースの素性を知ってもなお冷静に考えていると、なにやら心配するような……それでいてどこか応援してくれているような、視線と言うか気配を感じた。
俺がその気配を辿っていくと、ディアス達が目に写った。
すると向こうも俺が見ているのに気付いて、ディアスが口の動きだけで何かを伝えてきた。
それを見て、俺はジッとディアスの口の動きを観察した。こう見えても、俺は相手の唇の動きを読めるのである。
俺は一通りディアスの口の動きを見た後、一度ラースの様子を見た。
しかし、ラースはまだ気取ったように薄ら笑いを浮かべており、俺がディアス達に目をやっているのに気付いていない。
そこで俺は先ほどディアスから読み取った言葉を考えてみた。
ディアスは、俺に向けてこう言っていたのだ。
絶対に負けるなよ、と。
俺はその言葉を心の中で感じると、ディアス達の方を見ずに僅かに唇を動かした。
――当たり前だ。こんなヤツは徹底的に叩きのめしてやるよ、と。
するとディアス達は嬉しそうに笑いながら頷いた。どうやらディアスだけではなく、ユイとレイラも多少の読唇術の心得があるらしい。
俺はそう思いつつ、黒風の柄に手を当てた。
「……準備が出来ました」
俺は審判の教師にそう言ってラースに鋭い視線を注いだ。
「僕は最初から準備が出来てますよ」
するとラースも審判の教師にそう言って俺の方に向いた。
それを見た審判の教師はゆっくりと下がっていき、片手を上げた。
「それでは、レオン対ラース=キストアーレ……試合開始!!」
その途端、ラースが俺に踏み込んできた。
「ははははは! 生意気な口を叩いた事を後悔するといい!! こい、〝豪雷〟」
そう叫びながらラースが突貫して来るのを見ても、俺はその場から一歩たりとも動かない。
「終わりだーーー!!」
そう言ってラースが俺の間合いに突入した瞬間に、この場に居る者達は目にする。
ラースが俺の間合いに突入した正にその瞬間を捉え、彫像化していた俺がかっと目を見開き、俺の手元が光るのを。
その途端、ラースの持つ剣が宙を舞い、天井にグサッとばかりに突き刺さった。
「えっ?」
そう言って取り乱すラースの腹に、〝黒風〟を振り抜いた勢いをそのままに、左脚を支点に蹴り足が霞む勢いでぶんっと豪快に右脚を旋回させた、俺の回し蹴りが叩き込まれた。
「ぐはっ!?」
するとラースが信じられない勢いで宙を滑空し、ステージの壁に叩き付けられた。
壁に叩き付けられたラースは白目を剥いて気絶しており、起き上がることはなかった。
「勝者! レオン!!」
すると審判の教師が俺の勝機を上げた。
試合時間たったの五秒。
間違いなく、本日最速の試合時間だ。
「弱すぎるぞっ」
そう吐き捨てて俺がステージ上を降りると、地鳴りのような歓声が上がった。
俺が黒風を次元に仕舞い込んで座席に向かって歩いていくと、早速ディアス達が話し掛けてきた。
「やったな、レオン!」
ディアスがそう言うと、ユイとレイラも満足気に頷いていた。
「当たり前だろ? あんなザコに負けるわけないじゃないか。鍛え方が違うんだよ、鍛え方が」
俺が軽くそう返すと、何故かディアス達の頬が引き攣っていた。
「…………?」
それに俺が首を傾げていると、ディアスが口を開いた。
「そう言えばさ……お前最後の蹴りって本当に魔力付与していなくてあの威力なのか?」
「……? 魔法なしなんだから当然だろ?」
俺がそう返すと、ディアス達はなにやら押し黙った。
魔力付与してはいないとはわかっているんだけど、思わず疑ってしまうほどの威力だな、おい。
そうディアスが思っていると、隣ではユイが、
あんなとんでもない威力の蹴り、もし私が食らったらと思うと……。
と思って青ざめていた。
その更に隣では、
どこをどうしたらあんな蹴りが出来るのよ!いったいどんな鍛え方をしているのかしら。
とレイラが考えていた。
その時、訓練場内の生徒達の心は一つになっていた。
『レオンの蹴りだけは絶対に食らわないようにしよう』……と。
そう思うと、皆うそ寒い思いで顔を見合わせていたのだ。
「どうかしたのか?」
俺がそう声を掛けると、やっと元に戻り他の人と話したりし出した。
「取り敢えずこれで合同試合は終わりだな。これでいよいよ次が……」
俺がそうぽつっと呟くと、ディアスが横から異様に高いテンションで後を引き取った。
「使い魔の召喚だな。はははっ、楽しみだぜ!!」
そうディアスが言うと、こちらもテンションの高いユイとレイラも会話に入る。
「そうですね! どんな使い魔が召喚されるんでしょうか……」
「私は最上級を狙うわよ」
俺は珍しくテンションの高いレイラを見やり、首を傾げて聞いてみた。
「なんでそんなにテンションが高いんだ?」
俺がそう聞くと、レイラは軽く笑いながら答えた。
「そんなの決まってるじゃない。高位の使い魔が召喚出来れば、その使い魔から新たな魔法を教えて貰えるかもしれないからね」
それを聞いて俺も納得する。確かに高位の使い魔が契約相手ならば、その使い魔から得られる物は大きい。すると当然、その使い魔から魔法や魔力も貰えるワケで。
つまりは今まで以上に強い魔法や魔力を手に入れる事が出来るワケである。
「と、言ってもなあ……」
俺はじわじわと若干の苦笑を顔に広げた。
俺ごときの魔力では、ロクな使い魔も呼べないんだがな。
俺がそう苦笑を浮かべていると、レイラはそれに気付いて気まずそうにそっぽを向いた。
するとディアスもそれに気付いたのか、話を反らそうと俺とレイラの間に割って入った。
「まあ、使い魔の事は兎も角、速く行かないか?」
「……? 行くってどこにだ?」
するとディアスは苦笑いした。
「さっきロイ先生が言ってたんだがな……」
「悪ィ、聞いていなかったんだよ」
「――っはははははは!! レオンって真面目なんだか不真面目なんだか、よくわかんねえな!」
「わかんなくて悪かったな、おい」
「っはは、悪かったって。場所はいったん教室に帰って、一人づつ中庭で、だってさ。さあ、行くか!」
そう言って歩き出したディアスを俺は苦笑をして追い掛ける。
すると、女同士で話し込んでいたユイとレイラもそれに続いた。




