平和な日常
「………はあ」
レイラは学生寮の自分の部屋に帰って来てから、これで何度目かになるため息をついた。
理由は、レオンにある。
時は暫し遡り、あの魔獣騒ぎの時の事。
報せを受けたロイ先生がサライの町に転移して来て、本来なら馬で学園まで帰るところを、ロイ先生が転移魔法でレイラを送り届けた時の事だった。
「お前達は各自寮に戻ってくれ! いいな!?」
「先生、レオンは大丈夫なんですか!?」
ディアスがそう聞くと、ロイ先生は安心させるように笑いながら、
「ああ、この俺が来たからにはもう大丈夫だ。任せておけ」
そう言って保健室に転移しようとしているロイ先生の背中を見て、レイラはレオンの〝変貌〟の事を聞く決心をした。
「先生! 話があるんですけど……」
そうレイラが言って来たので、ロイは「話は後で聞く」と言いかけて、レイラの表情を見て止めた。
それほどまでに、今のレイラは真剣な表情で言っていたからだ。
暫しの沈黙の後、
「……分かった。後で職員室に来てくれ」
と言って転移して行った。
転移して行ったロイ先生を見送ったディアスが寮に歩きながら、
「それにしても、まさかあの美少女――じゃなくて、外見は美少女だったのがレオンだったとは」
と言って苦笑していると、
「私も最初は分からなかったですけど…なんにしろ、無事で良かったですね、レオン君」
そう言ってユイがため息をついた。
それを横目に見ながらレイラはディアス達にレオンの〝変貌〟の事を話すか悩んでいた。
ディアス達の事なら、それを聞いてもレオンの事を避けたりはしないだろうが、これはそんな簡単に話していい事なのか。
一先ずこの事はディアス達に言わずに、ロイ先生に話してからにしよう。
レイラがそう決めた頃には、既に寮が見えてきていた。
「じゃ、また後でな!」
「また後で会いましょう!」
そう言ってディアスとユイが寮に入っていくのを見てから、レイラは職員室に向けて歩き出した。
それから数分後、レイラは職員室に着いてドアを開いた。
「失礼します」
そう言ってレイラが職員室に入ると、ロイ先生はすぐに見つかった。
今は朝の九時頃なので、それなりに教師がいるはずなのだが、何故そんなに速く見つけられたのか?
答えは簡単。この忙しい時間にデスクに顔を伏して爆睡しているような教師は、我らが担任、ロイ先生位のモノだから。
それを見て呆れ返ったレイラは、ロイ先生の横に立ってロイ先生の体を軽く揺すった。
「先生」
そう言ってレイラが揺するが、ロイ先生は寝ぼけて
「いやいや、それほどでも……」
などと言いながらニヤニヤしている。
「…………」
どんな夢を見ているかは知らないが、簡単には起きそうにない。
そこでレイラは腰からサーベルを鞘ごと取り外すと、それでロイ先生の脇腹を軽く突いた。
「うおっ!」
するとロイ先生がそう言って飛び起きた。
「先生……」
そこでレイラが冷ややかな声を投げ掛けると、
「あ、ああ、そうだったな、……それで、話というのは?」
と、やっと聞く体勢になった。
「実は、今回の任務の時の話なんですが…」
そうレイラが切り出すと、
「ああ…。あの事態のせいで、大変だったようだな。本来なら上級生が受ける位の難易度のモノだったからな……よく生きて帰って来てくれたな」
と言って少し目を伏せた。
イレギュラーな事態だったとはいえ、どうやら負い目を感じているようだ。
しかし、レイラが聞きたいのはそこではない。
「先生、それは別にいいんです。私が聞きたいのは高位の魔獣と戦っている時、レオンがブレスの直撃を受けた時です」
レイラがそう言うと、ロイ先生は意外そうに
「……どういうことだ?」
と聞いてきた。
しかしここでは人が多すぎるので、レイラは
「少し話しにくいことなんです。場所を変えて話しませんか?」
と、声を低くしてロイ先生に言った。
するとロイ先生は何かを察したように、
「……分かった。俺の腕に触れていろ」
と言ってレイラが腕に手を添えたのを確認すると、
『【トラベラー】』
と言って転移した。
一瞬の浮遊感の後、場所は変わり使われていない教室になった。
ロイ先生は無言で近くの椅子を持ってきて、その椅子に座った。
ロイ先生はレイラが同じように椅子に座るのを見て、
「それで、一体何があったんだ?」
と聞いてきた。
そこでレイラはあの時の事を思い出すように一度瞳を瞬くと、話し出した。
それをロイ先生は暫く気だるそうに聞いていた。
しかし、「レオンがブレスの直撃を受けて重傷を負った時、微弱だったレオンの魔力が急に上昇した」と聞いた途端、気だるそうだったロイ先生の目が急に強烈な光を宿し、ロイ先生が椅子から立ち上がった。
「なんだと!?」
そう言ってレイラに問い詰める。
「ちょっと待て、その時のレオンは他に何か言ってなかったか!?」
余りの気迫にレイラは若干恐怖心を抱きながらも、あの時のレオンの言葉を思い出す。
『……そろそろ表層意識に出て来ているのがキツくなってきたな…コイツの〝目〟の色素も、急に覚醒したせいでコイツ本来の色素になってきてやがるしな……おい、小娘!』
……いや、これではない。何か、これよりももっと重要な事を――。
「ああ……」
そこでレイラは思い出した。
『あァン? 何言ってんだ、小娘? 俺は確かにレオンだよ。……ふん、厳密に言えばコイツに宿っている『覇者』だが……?』
そうだ、確かそう言っていたはず。
そして恐らくその言葉の中で最も意味があるのは――
「『厳密に言えばコイツに宿っている〝覇者〟だが』……確か、そう言ってました」
レイラがそう言うと、ロイ先生は顔色を変えた。
―――――――――――
最初の内、ロイは普通にレイラの話を聞いていた。
恐らく今回の任務の話だろうと思って。
しかし、レイラの話を聞いていくウチに、それどころではない内容が入ってきた。
「レオンがブレスの直撃を受けて重傷を負った時、微弱だったレオンの魔力が急に上昇した」――。
それを聞いてロイに引っ掛かるモノがあった。
「なんだと!?」
思わずそう言って立ち上がってしまったが、今は取り繕う余裕がない。
「ちょっと待て、その時のレオンは他に何か言ってなかったか!?」
そのままの厳しい顔つきで問い詰めたせいか、若干レイラの表情が不安そうに揺らいだが、今は気にしてられない。
レイラは暫く考えるような仕草をしていたが、はっとした表情を見せた後、話し出した。
「『厳密に言えばコイツに宿っている〝覇者〟だが』………確か、そう言ってました」
それを聞いて、ロイの疑惑は確信へと変わった。
疑惑が確信へと変わった途端、ロイは顔色を変えて、普段の気だるそうな様子からは想像も出来ない速さで窓際まで行くと、念話である人物に連絡をとった。
《クレア! 聞こえるかクレア!!》
するとややあって応答があった。
《なんですか、ロイ。私は書類を捌くので忙しいんですが》
その気の抜けた返事に、ロイは自分自身の事を棚に上げて苛立った。
《書類なんてほっとけ! 今はそれどころじゃねえんだよ!》
《……貴方ほどの戦士がそんなに取り乱すだなんて……一体何があったんですか?》
《それについては部屋で話す。今から転移するから待ってろ!》
そしてロイは一端念話を切る。
「レイラ。最後に一つだけ聞きたい事がある」
なにやら真剣な顔をして窓際に向いていたロイ先生が、急にそう言って来たので、レイラは驚きながらも頷いてしまった。
「その戦いの時、レオン……いや、"覇者"は魔法を使わなかったか?」
ロイ先生が最早レオンとは呼ばなくなったのに戸惑いを覚えつつも、レイラは鮮烈に残っている先の戦いの時の事を思い出し、レオンが詠唱していた魔法を思い出した。
確か、こう詠唱していた筈だ。
「『我求めるは全属性の破壊魔法、豪炎よ、天雷よ、流水よ、氷雪よ、大地よ、聖光よ、暗黒よ、今ここに顕現し、破壊の風となりて我が敵に死を与えよ……【セブンス・サイクロン】』……多分、こう詠唱していたと思います」
レイラが魔法の事を話すと、ロイ先生は
「……そうか。ありがとう。大体の事は分かった。お前も昨日から休みなしで疲れているだろう。寮に戻ってよく休むといい。それとこの事は他言しないようにしてくれ。無論、レオンにもだ」
そう言ってレイラに背を向けると、
『【トラベラー】』
と言ってどこかに転移して行った。
……レイラが知っているのはここまでである。
だからレオンが何者なのか、あるいはどういう存在なのか――。
はっきりとは、知らされていないのだ。
だからこそレイラの心の内には何か、モヤモヤしたモノが残っていた。
「はあ……」
と、またため息をついたところで、レイラは顔をしかめた。
「全く、なんで私があいつの事で悩まないといけないのよ!」
思わず声に出してしまったが、聞いている者は誰もいないので、別に大丈夫だろう。
「あいつは保健室にいるのよね……まあ、見舞いくらいはしてやるわ」
レイラはそう呟くと、冷蔵庫の中からリンゴを取り出し、無造作に鞄に突っ込んで部屋を出ると、部屋の鍵を閉めて保健室に向かって歩いて行った。
しかし、レイラはまだ気づいていなかった。
隣の部屋に潜むハイエナに。
「おい、聞いたか、ユイ?」
「はい、バッチリ聞こえました」
そう言って頷き合っているのはディアスとユイだった。
そこは307号室の室内で、今ディアスとユイはその部屋の住人(男子)を撃沈させて、壁にコップを押し付けて、それに耳を当てていた。
事の始まりは、ディアスとユイが任務から帰ってきてから様子のおかしかったレイラに事情を聞こうとして、レイラの部屋に行ったことだった。
事情を聞こうとしただけだったが故に、最初は普通にレイラに会おうとしていたディアスとユイだったが、いざレイラの部屋のドアを、ディアスがノックしようと右手を持ち上げたところで、レイラの悩ましげなため息が聞こえてきて、ディアスは持ち上げた右手を下ろした。
そして素早く隣のユイと視線を交わし、307号室の部屋に飛び込んだ。
「うわっ! なんなんだ、お前ら――」
すると、当然の事ながら307号室の住人が驚いてディアスとユイを押し出そうとしたが、
「少しの間、この部屋を使わせて下さいっ。お願いします!!」
という、ユイの「上目遣い+潤んだ瞳」による破壊力抜群の攻撃によって、盛大に鼻血を噴いて気絶した。
で、鼻血を噴いて気絶した男子をディアスが部屋の壁にもたれさせ、戸棚からコップを拝借して壁に押し付けていたのだ。
「それで、レイラはレオンの事をどう思っていると思う? 女のお前から見て」
そう言ってディアスがユイの方を見ると、ユイは微笑を浮かべながら、
「はい、私が今聞いた事から考えると――」
そしてその後はディアスがニヤニヤしながら引き取った。
「完全に〝意中の人〟ってことか」
「それもあのクールな性格のレイラさんが、ですからね!」
そんな事を話しながらディアスとユイは307号室から出て行った。
鼻血を噴いた男子生徒を残して。
因みに鼻血を噴いて気絶した不運(幸運?)な男子生徒は、ニコールと言う極一般的な生徒で、後に幸せそうに鼻血を噴いて気絶している姿を友人に発見された時、彼はうわごとのようにこう語ったという。
「仕方ないだろ、あの潤んだ瞳での上目遣いの破壊力ときたら……」
―――――――――――
……俺は夢を見ていた。
(ここは何処だ?)
俺はそう思って回りを見回した。
今俺は全体的に真っ白な回廊を歩いていた。
(なんだろう、ここは……こんな場所、俺は知らないぞ……? だけど、どこか懐かしい感じがするな……)
そんな事を考えていると、前方にある角を折れてこれまた純白の服を着た美しい女性が歩いて来た。
思わず俺は体を堅くさせようとしたが、体が思うように動かなかった。
くそっ。なんなんだ、一体!
俺はそう悪態を吐いたが、今になって自分が言葉を発していないのに気づいた。
俺がそれに更に焦っていると、純白の服を着た女性が俺の目の前で立ち止まった。
「また来ていたのですか、『風の覇者』」
その女性は天使のような微笑を浮かべながらそう言ってきたが、俺はこの女性の事なんて何も知らない。
だから俺は何も言えずに立ち尽くしてしまったはずだが、俺の意志に反してまた勝手に体が動いていた。
「うるせェんだよ、『光の覇者』」
そう言って勝手に体が壁にもたれた。
そこで俺は確信する。
そうか、今俺は『風の覇者』とやらの感覚を共有した視点からこれを見ているのか。
つまり、俺の体であって俺の体ではないということか――。
と、俺がそこまで考えたところで、目の前に立っていた『光の覇者』と呼ばれていた女性がすっと、今俺が宿っている風の覇者の頬に手を伸ばしてきた。
そしてそのまま風の覇者の頬に手を当てたまま、吐息を吐くような声で言った。
「全く……神王城には顔を出さないのに、私の聖神城には来るんですね、貴方は」
それに対して風の覇者は頬に当てられていた手を掴んで、そのままぐいっと手を引き寄せて光の覇者の腰に手を回して言った。
「はっ……決まってんだろ? あんな爺のところにいるよりも、美人と一緒にいる方がいいだろうが」
そんな事を言って光の覇者の腰に回した手の力を強めた。
「本当に貴方は変わりませんね……」
風の覇者に抱かれながらも光の覇者も苦笑して、風の覇者の背中に手を回した。
その時、俺は俺で違うことを考えていた。
つうか、男と女ってこんなに普通に抱き合ったりするもんなのか?
そう思いはした。しかし恋愛沙汰に関して壮絶に疎かった俺は、
――まあ、実際に抱き合っているところを見ると、抱き合ったりするもんなんだな。
と、間違った方向に理解してしまった。
「それで、今日はどうしたんですか?」
暫く抱き合った後、光の覇者が不思議そうにそう聞いてきた。
「あァン?」
それに対して風の覇者は困ったように頬をかいた。
「実は神王城内で妙な動きがあってなァ……」
「ええ!? 貴方がまともに神王城に行ったんですか!?」
「いや、あの爺の部屋に忍び込んだ……っつうか、妙な動きの事よりそっちの方が重要なのかァ?」
「ああ、その、つい……それで、妙な動きとは?」
「ああ、それなんだがなァ。他の覇者――……」
と、そこで急に視界がぶれだした。
(――ちっ! なんなんだ一体!? まだ何か聞いていないというのに――)
「――くっ!」
俺はベッドから上半身を起こした。
「……なっ」
しかし俺はレイラの胸に顔を突っ込んでしまった。
……それも結構豪快に。
―――――――――――
――これはレオンが起きる数分前。
「寮から学園までって無駄に長かったわね」
そんな事を言いながらレイラは保健室のドアを開けた。
すると規則正しい寝息を立てているレオンがいた。
「まだ目覚めてなかったのね……今何時かしら」
レイラはそう言ってレオンの向こう側に置いてある時計を見た。
しかし時計を見るとその針は止まっていた。
「壊れているのかしら?」
そう言ってレイラが時計に手を伸ばして、レオンの寝ているベッドに前屈みになったところで。
「――くっ!」
突然レオンが目覚めて上半身を起こした。
しかし上半身を起こした先にはレイラの体があり――。
ボスッ!!
結果的にレオンはレイラの胸に顔を突っ込んでしまった。
―――――――――――
「……なっ」
咄嗟の事でレイラが反応できずにいると、俺は不思議に思い唸る。
「……ん?」
俺は顔に何やら柔らかい塊が当たっているのに気づいた。
……? なんだこれ?
俺はそう思って柔らかい塊を掴んで揉んでみた。
「んっ……くっ、あっ!」
するとなんとも官能的な声が聞こえてきて、俺は不思議に思いながら柔らかい塊を顔から退けたところで――。
俺は自分が掴んでいたのがレイラの胸だと知って、驚いてレイラの胸から手を放して壁に貼り付いた。
「うおっ。れ、レイラ……悪ィ!」
そう言って頭を下げたが、時すでに遅し。
赤面して顔を下向けてぶるぶる震えていたレイラが、今にも消え入りそうな声で何か言った。
「…………い……」
「な、なんだ? なんて言ったんだ?」
俺がそう聞くと、レイラは真っ赤に染まった顔を上げて、
「この、変態ぃぃーーー!!」
と叫んで俺の頬をひっぱたいた。
「ぐふっ! 待て、ちょっと待て! わざとじゃないんだ! 悪かったって!!」
頬に手形のついた俺が必死に弁解するも、レイラが腰からスラッとサーベルを引き抜いたのを見て、俺はは自分の背中に冷や汗が流れたのを感じた。
「うわっ! 待て、マジでちょっと待て! サーベルしまえ、サーベルを!!」
しかし俺はここが保健室である事を思い出し、
「つうか、なんで保健室にサーベル持ち込んでんだァーーー!!」
と、絶叫した。
「やってられるか! マジでシャレにならんっ!! ここは一先ず逃げ――うおわっ!? なんか地面にめり込んで――ギャアアアァァ――!!」
しかしその頃にはすでにレイラはサーベルを振り上げており、この日、保健室には俺の断末魔の悲鳴が響いたと言う。
「何があったんですか、今の悲鳴は! ……って、貴方は確か……レオン君? どうしたの?」
そんな事を言いながら入って来たのは、この学園の保険医であるリンス先生だった。……確か、受け持つクラスは三年だったか? 担任と保険医を同時に担ってるんだったな。
「別に? 何もありませんでしたよ?」
そう答えたのは俺ではなく、レイラだった。
「ぐっ……何でお前が答えてんだよ……」
呻きながらそう答えたのは、ボロボロになってレイラに実に優雅に座られている俺だった。
「ふうん……ならいいけど……いいわね、それ」
などと言いながら俺に座るレイラを見た。生徒が椅子にされているのを見てそれを言うとは、貴様は本当に教師か。
「ぐはっ! マジで座るなぁっ! 畜生めっ、この恨みは必ず……」
「あらあら、怖いわね~。……だけどそんな事を言っていいのかしらね~?」
「……なんだ? 何をするつもりだ? なんなんだその手に持っている男物や女物の服の数々は? ……おいレイラ、お前は俺の制服の上着を持って何処に行くつもりだ? おいっ」
「さてさて、楽しみだわ。いったいどう変身するか」
「なっ、あんた本当に教師か!? 本当に女なのか!?」
俺は制服のズボンを脱がそうとするリンス先生に抗議したが、
「いいじゃない、別に~。せっかく容姿に恵まれてるんだから、この際女物の服も着てみなさいな。もしかしたら新しい自分に会えるかもしれないわよ?」
「嫌だ! 俺はそんな間違った方向に転ぶつもりは――やめてくれぇーーー!!」
「何してるのかしら…」
余りにも悲壮な俺の悲鳴に、流石に気の毒になったのかレイラは思わずそう呟いたが、気にしない事にした。
俺の悲壮な声が響く中、レイラはため息を吐いて寮に戻って行った。
…更に三十分後、俺もよれよれになって保健室から出て来て、
「畜生……」
と呟きながら寮に帰って行った。




