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Piece 7 「アクセラレーション、発狂寸前、未来へのスーパーワープ」

 今日は、遠くまで走ろう。

 僕は相棒である、コンパクトカーの代名詞みたいな社用車を乱暴に駆ると、高速道に入り、さらにアクセラレーション。シールドに叩きつけられる大粒の雨もものともせずに、シャーシャーと飛沫を上げてかっとばす。

 このところ、成績が良くない。まったく売り上げが伸びない上に、不景気という言葉で逃げてしまえば、これも仕方のないことだが、顧客の反応も冴えない。苦しい時期は続く。抜け出せない、暗闇。

 ステアリングを握る傍ら、つい、タバコに手が伸びてしまう。荒れてるな、と思う。考える時間が欲しい。そんなときは、とりわけ遠方の顧客をターゲットに営業に出る。移動時間の車中、何やら試行錯誤、一応に考えてはみるんだ。

 家族のために、踏ん張っている先輩のタナベさんを思い出し、まだまだやり方はあると、見習いながらも、あそこまで出来るのか、とも思う。時折迷うあまり、実際の運転もおぼつかなくなるほど。強烈なストレスに、内臓が軋む思いで、のた打ち回っている。

 梅雨の本降りの中で、気分も滅入ることこの上ないが、前に見える1台、2台と次々に抜き去っていく。

 窓を開けて叫んだ。雨水を浴びながらも、懺悔するみたいに身を呈し、アクセルを踏み続けて、まっすぐに突き抜ける。

 意味がわからない。こんな様、警察に見咎められたら、則時に路側帯で停止だ。

 発狂しながらも、得意先の一軒に飛び込むと、モノは相変わらず買ってくれなかったものの、社長が「昼、まだなんだろ」とカツ丼を食わしてくれた。暗い世間話と、僕の社内での不甲斐なさからのグチに対して、優しく諭すような大先輩の格言が身にしみる。そして、締めくくるように「おれだって家族で心中しそうだぜ」と、カツ丼をかきこみながら、社長は零細企業の行く末を悲観しながらも、笑ってそう言った。

 あまり気づかなかったが、こうして多くの人間が、家族のために踏ん張る意地を見ている。

 まだまだ、これから。

 それから何軒かをたずねて、空振りが続いたあげくにボウズだったものの、戦う気負いを持ち直した気がする。

 帰り路は幾分大人しめに、背後からオレンジのビームを受けながら。ネオンが点り始めた、紫色の街へと向かって高速を駆ける。

 帰社すると、きついお叱りやら嫌味やらが待っている。端からそれを順番に飲み降していかなくては、明日が来ない! 

 僕と相棒の周りは黄金色に輝き始め、明日の晴天に向かってワープしていく。重く垂れ込めていた雲が拡散し始めている。

 ストレスなんぞ、全部飲み溜めててやる。とにかく、週末まで逃げきろう。時限式に爆発するのはまだまだ先の話。

 小川のような水たまりには、僕にはまだ見えない虹が映っていた。

 その虹に、知らない間に導かれるように、相棒はごきげんのエンジン音を轟かせて、僕は鼻歌まじりで。

 ぐんぐんと、一つ目の暗闇の切れ間に飛び出していく。いっそ、明後日まで飛び越えてしまおうか!





<おしまい>

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