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Piece 6 「午睡の小悪魔、奔放な天使、愛すべき横顔」

 シェリルは実に奔放なタイプだ。

 さすが、そこいらの日本人にはない国際性といおうか、行動が目を見張るくらいに突拍子ない。

 まさに香港から来たバラエティ向けタレントが、テレビでしゃべっているみたいな歯切れの良さと、微妙な滑稽さがあいまったというか。そのへんが特に好き。

 同じ大学に通う、彼女は香港からの留学生にして才女。広東語と日本語と英語をペラペラと使い分ける。僕よりも年上で、基本は姉御肌だ。小気味いい。

「最近、バイト忙しそうだね」

 ひがなどこでも絵を描いている僕とは違って、彼女は国際運輸会社で、テレフォンオペレーターとして働いていたり、高級中華料理の店でウエイトレスしてたり、僕なんかとデートするヒマもないくらいに勉学以外でも忙しい。

 別に付き合ってはいないけど、彼女はオトコがいなくなると、すぐ僕を頼ってくる。

「カズー、少しはワタシのバイト手伝ってよ。家賃払えなくなるよー」

「おれといっしょに住む? ロフトの部分、貸すから」

「いやよー、散らかってて、座るとこもないじゃん。あの変な絵も邪魔くさいしー」

「そりゃーないでしょー、シェリルさんちも汚いじゃんかー」

 僕は彼女が日本語を話すときの、語尾をあげるかわいいクセをまねてからかう。

 めったに人が憩わないキャンパスの屋上で、僕らはベタ座りのまま並んで風に吹かれながら、じゃれあっている。この時間が結構好きだな。

 僕はそれから傍らのスケッチブックを開くと、うつらうつら午睡に落ちそうな彼女の横顔を描いていく。鉛筆を走らせながらも、彼女の横顔の向こうにある青空具合がフラッシュバックを誘発。

 ああ、入学して間もないこんな時期だったかな、と彼女との出会いを思い出したりしている。あのとき、ふいに彼女の方から勢いよく声をかけてきて、僕らの付き合いは始まった。

 もう、4年が経つ。彼女は卒業したら、今度はオーストラリアに留学すると言っていた。おいおい、30歳になっちゃうじゃん。一体どんなレディーになろうというのか。

「またワタシの絵を描こうとしてるー。だめよー、今日、あんまりお化粧してないよー」

「知ってるよー、ボクその方が好きよー。いいじゃない、写真じゃないしさ。そんなに鮮明に描きませんよ。スッピンでも、シェリー、キレイだよー」

 シェリルがうとうとしていた間に、彼女の顔の部分はあっという間に描きあげてしまった。ま、これまでも何枚か、こっそりと描いてみたりしたからな。リアルにスケッチしたことは、でもこれが最初で最後かもしれない。なかなか、どうして機会が無かったのか。変に照れて、言い出せないし。やっぱり、好きなんだな。

「シェリルさん、午後の講義は出ないんですか?」

「いいの。ちょとねむたいよー。少し、こうして寝ててもいいかな」

 すすっと寄ってきて、ころんと僕の肩に寄りかかって、すぐにスースー寝息をたてる彼女。艶やかな黒髪がさらさらと時折そよぐ。僕は、時期を先取りしすぎだろう薄着の彼女の肩に、黙って脱いであった自分のパーカーをかけてやる。

「そーゆー優しいトコ、好きよー」

 と、寝言みたく彼女は微笑を浮かべてつぶやいた。遠慮なく、全体重が預けられてくる。

 こうして翻弄されて4年間が過ぎるんだろうな。姉貴みたいで、妹みたいで、従兄弟みたいな、友達みたいな、そして、カノジョみたいなシェリル。

 この国を、僕のことを忘れないでよ、そんな思いを込めて、僕は油性の黒ペンで隣の彼女のほっぺにうずまきを描いた。

 最高傑作、完成。





<おしまい>

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