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Piece 3 「タイムスリップ、時は妙に転がりだした」

 ひょんなことから、僕は1999年に舞い戻った。

 大地震が起こるとか、核戦争が勃発するとか、疫病が蔓延するとか、そんな阿鼻叫喚、でも想像できないような世紀末のイメージが、まことしやかに流布されていた頃。21世紀の幕開けを目前にして気運が高まると、そんな風潮もどこかに鳴りを潜めて、結局いつもと変わらないクリスマスがやってきていた変な年の瀬。僕は、シンプルデザインの低価格設定商品が流行る中、街中のデパートの貴金属やら、高級ブランドバッグのフラッグショップやらをハシゴして歩き、カノジョへ献上する品を探していた。

 早くしないと、この世が終わる。イベントごとでも気の乗らない僕は、そんな強迫観念に駆られたフリでもして、貯水槽内の水位みたいなテンションを、殊更強引に、芝居がかったほどにアげてアゲて、ひたすら求めて歩く。なんだか月の砂漠のキャラバンみたい。

 このとき、日本では新たな種が覇権を握っていた。群れて歩く、ヤマンバ族。どこから流れてきた部族だったか。今となっては絶滅品種。このときを謳歌していた彼女たちはどこに消えたのか。走りながら、ふとそんなことを考えていた。

「2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があります。身の回りのコンピュータ内蔵のものは管理に気をつけてください。女子高生のみなさんも、LGOなどはコンピュータ制御されていますので、身に付けている方は、十分に注意してください」

 ちょうど、カノジョへのうってつけのクリスマスプレゼントをゲットした僕は、意気揚々と瀟洒な店舗を出て、通りでそんなアナウンスの声にぶつかった。

「超コワくない? ちょースゴくない? てゆーか、なに言ってっか全然わかんないんだけど」

「エルゴ、なんかやばいの? うそー。えー、また買い換えんのー? そんなカネ、ねーし!」

 傍のヤマンバ女子高生二人の、そんなやりとりが耳に入る。

 LGOってなんだっけ? 

 あ、エルゴの略称で呼ばれる、当時の女子高生の必須アイテムか。ま、カノジョへのプレゼントがそれくらいのもので済めば、安上がりなんだけど。電車やATMがおかしくなるより、ヤマンバ達にとっては自分のLGOがおかしくなる方が一大事か。

 そんなことより、僕はクリスマスにカノジョに逢えなくなって自滅した、そんな二の舞はするもんか、と慎重にプレゼントを抱え、心を落ち着けて臨んだ。

 誰かが予言してくれていれば、クリスマスにあんな仕事なんて引き受けなかった。たかだかあの日の選択の狂いで、その後の人生は真っ暗。だから、わざわざこうして時を巻き戻して、僕は世紀の狭間を飛び越えて、過去に舞い戻ったんだ。

 そして、時空を超えた甲斐があり、理想どおり、そこからの時間をカノジョと過ごしていった。甘いクリスマス・シーズンから、新たなミレニアムを迎える瞬間まで。万事、抜かりなし。明るい未来を思い描いて、再び世紀末越えに挑む。

 街では、カウントダウンが始まった。

 一斉に声を揃えて、世界中が、同じ事をしている。もちろん、ヤマンバ達もLGOを手に、渋谷のスクランブルに集結。

 なんだ、1999年っていっても、なんとなく節目って雰囲気、それ以外のなにも起こらなかったじゃないか。確か。2000年を迎えるってなると、新たな千年紀に突入、その期待値の高まり、喜びが大きかったじゃないか。

 安穏と構えていよう。僕はカノジョと共にトンガリ帽子を被って、クラッカーを携えて路上の人波に呑まれていた。

 しかし。

 スリーカウントに入った瞬間、地球上全ての文明の利器が動きを止め、人の声を残して沈黙した。

 それに人々が気づいて、騒ぎがひとしきり拡大したところで、夜空から、神秘の大王が降りてきた。

 超巨大なLGOに乗って。七色の光彩。光の触手が、スクランブル交差点の中央に集ったヤマンバ達を迎えて、大歓声の彼女らを誘い、そのマントを翻した。

 交差点に突き立った光の柱、時空エレベーターは、次々とアルキオネをめがけてヤマンバを運んでいく。

 巨大LGOから神々しい音楽が奏でられ、オーロラのような光彩がたなびく。

 大王は、にこやかにヤマンバ達を見送りながら、ただうなづいている。

 そうして、あっけにとられながら2000年を迎えた夜、ヤマンバ族は楽しそうに、賑やかに旅立って行った。

 偶然、カノジョとその場に居合わせた僕は、その光景を“2000年のラブパレード”と呼んでいる。

 騒然とする群衆の中を掻き分けて、ヤマンバの姿を追いかけているうちに、僕はカノジョとはぐれてしまい、2000年をそのまま呆けて迎えてしまった。そんなわけで、僕自身その瞬間はデスパレートだったけど。

 ミレニアムに沸いた星。以降、僕の人生のプログラムはメチャクチャに書き換えられ、事件は“Y2K”なんて、おしゃれにかっこつけた呼び名で括られて、混乱は終息した。

 さて、こんなこと、誰かが予言していたっけ。





<おしまい>

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