Piece21 「寄り添う星たち、輝き増すミッドナイトパーティー」
いよいよ、今宵のパーティーが始まった。
別に、忘年会でもなく、新年会でもなく、誕生会でもないのだが。僕らがこうして、はしゃぎたいがためにただ集まるなんて、何年ぶりのことだろうか。5人が、みんな各々の時間と事情に左右されて、一堂に会することは、卒業以来皆無だった。
言い出しっぺは、AB型のユウコで、気紛れにもビルの屋上でプールがある店舗を貸し切った。何のつもりだろうか。
ミナミが、「ほんとにココ、ウチらが貸し切りでいいの?」と臆病に、神経質に会費を気にしつつも、それに対し意味深に含み笑いしながら、「いいの、いいの」といなすユウコ。得体が知れない。
さらに、とんちんかんにも、この気が知れた仲では一番の出世頭でリッチなトシが「なんなら、支払いはウチがもつぜ」とか、勤め先の会社を使ってでもメンツ保とうとするバカっぷりは健在。
ヨウジは、開始したその瞬間にあってもまだカノジョや浮気相手やらを招待しようと躍起だ。
「来いよ、来いよ、来いよ♪」流れる幸福の時間。
解放された、ひとときの楽園。そして饗宴。とまぁ、料理はさほどゴージャスではなく、ほどほどに酒がまわる。
ただ、5人が貸し切るには贅沢過ぎる空間。青いプールの水面が、それがあるだけで何とも疑似セレブで。
互いの仕事のハードさを謳うツラい自慢や、自尊心を鼓舞するための褒め合わせ、失敗ばかりの僕は笑い話に転じてみせて、とにかくみんな話したいことが貯まっていたんだ。
目の前にある幻想的なブルーを時折眺めては、そこにここ数年の微々たる過去が、さらさらと溶け出して揺れる水面。
向こうの空にあった半分コされた果実みたいな月が、今やどっぷりと僕らの頭上近くに停留している。どんぶらこ。
僕は、とにかく日頃の鬱憤を忘れることが出来るのが嬉しくて、ユウコや皆に感謝しながらも、ひとり先走って出来上がっていた。
小高いビルの屋上にあるそのスペースからは、さらに高い遠くのビル群の隙間にオレンジに輝くタワーがみとめられる。一度だけ、5人で登って見下ろしたことがあったっけ。それから階段を下ってみて、東京タワーの高さを実感した夏もあったな。
気持ちは、その夏の頃に戻り、温まってきてる。
「あそこ、東京タワーが見えます。あのてっぺんに、いつかおまえらとの、この友情の徴を灯す!」
「お、スカイツリーはいいのかな?」
「あ、わたしもスカイツリーのほうがいいな」
「いいじゃん、ヤス、ながらく東京タワーのライトアップにこだわってたんだから」
「たのむよ、いっぺん、昔からのこと、かなえさせて! スカイツリーはその次で」
もう、わけがわからん。気合とともにTシャツ脱ぎ始めちゃおう。
「うおおおおおぉぉ!!!」
「はじまった、ヤスの青春モード。ヨウジ、付き合ったげてー。ほら、脱ぎ始まった。今宵は、早いねー」
「やだ、ヨウジ、いっしょに脱がないでよ。二人とも風邪ひくよ」
「ヤス、いくぞ、ここのプール、飛び込むぞ」
僕は酔いながらもヨウジとともに上半身裸になって、プールサイドまで肩を並べながら千鳥足。
「ちょっと、危険、危険。やめて、溺れて死んじゃうから」とミナミが引っ張って僕らを止める。
「おまえら、三人して落ちちゃえば」
「ミナミもー、たまにはハメはずしちゃえばー。けっこう、楽しいかもよー」
僕はヨウジの鍛えられた胸板と、ミナミの柔らかな巨乳に挟まれながら、ぐてぐてとプールサイドに横たわり、三人してぐだぐだになりつつも笑っていた。
それから、ユウコが隠してた、この日のサプライズ。
「はーい、宴もたけなわではありますがー」
いまや、パティシエとなったユウコが、贅と技術の限りを尽くして、このために仕込んだ一品。いや、まさに逸品。カーゴで自らがカラカラと手押ししながらテーブルまで運んできた、まるでウエディングケーキ!
「ユウコ、え、まさか、この中の誰かが結婚したの!?」
ミナミが酔いを醒ましたかのように飛び起きて駆け寄るも、ユウコは煙に巻いたようにして、
「近々、そんな予定のある人は、自己申告なさいな。今日は、これ、あたしからみんなに贈る気持ちよ。ウェディングケーキのつもりじゃなかったけど、なんか豪華で派手なもの作ってみたくて。あと、単純にみんなを驚かせたかったから、ね」
「自己満足なのな。昔から、自由だよなー、おまえ。しかし、今日に限って、いつになく景気良すぎだろ、いくらなんでも」
「いいの、ココの店、うちの系列だし。ケーキも、材料とかココの支配人がもってくれたから。いやー、でも今日までに仕上げるの、しんどかったあ」
「すごいねー、ユウコ。わー、でも、もう、こんなに食べられないかも」
「ヤス、おまえ、そっちから食え。このタワー崩したら、全部いける」
「ユウコ、これ、全部食えるの? マジで?」
白い巨塔に、ヨウジが遠慮なくメスを入れ始める。もったいない、とか言う言葉を無視しながら、僕もヨウジに負けまいと、クリームやら時折顔を出すフルーツをがむしゃらに頬張りながら、制作者の気持ちも顧みずにフードバトル。オレの胃袋は宇宙だ、なんて名言がチラつく中、気力を振り絞るようにして「うめぇー!!」と叫ぶ野獣が二人。
このユウコの洗礼とも言える疑似タワーを食い尽くしたときこそ、まっこと東京タワーに挑めるのだろう。
五つ星で輝く僕らは、一等星として燦々と輝くユウコを軸に、等級の低い僕もいつかは目にとまる存在となりたい。大都会に散りばめられた幾多の星。抜きん出て、より高い位置で輝くこと。その象徴が、今のところ、あの東京タワーのてっぺん。
しかし、この瞬間も気が抜けない。
目の前でデッドヒート繰り広げて、そこに火花散らすのも、切磋琢磨。
さて、気絶するまで輝いてみせろよ。
<おしまい>