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Piece 2 「酔い歩いて港街、やがて暁光」

「ダメだ。いっぱい」

 渋い面をひっさげて、ユースケが階段を上がってきた。

 夜中もだいぶふけこんだっていうのに。不慣れな土地のせいか辿り着くのに時間がかかりすぎた。まぁ、案内人のユースケがその店をうろ覚えだったのも悪いが。男二人、洒落た港街を夜中に、うろうろ。少し重たくなってきた引き出物を手に、うろうろ。

 昔馴染みの友人が、今日、挙式をゴージャスなホテルであげた。そして2次会、3次会を経て、おれとユースケはその勢いで飲み明かそうかとなったわけだが、頼みの店がたった今をもってしても満杯とかいう状態で、仕方なくまた彷徨い歩くのだった。

「残念だな。あそこの人に会わせたかったのに」

 ユースケはめずらしく悔しそうに、おれの半歩前を歩きながらそう言い放った。 

「いや、おれは占いは信じないよ」

 その店にいるらしい、オーラをみるとかいうオバサンのことだが、どうにもおれには胡散臭い。ユースケは元来そういったものには否定的だったはずだが、なにか核心をつかれたのだろうか。けっこうみる目があるんだ、なんていつもの冷めた口調で話していた。

「落ち着いたら、詳しく話すよ」

 ユースケは薄く笑うと、足をその先のゴチャゴチャしてそうなバーに向けた。こんなところくらいしか開いてはいない時間かもしれない。ただ、とても落ち着くとは思えないが。

 と、中はなんとダーツバーだった。しかも電子式でピコピコいってる。狭い窓際の席に場違いな二人が腰をおろし、その横をビュンビュン矢がすり抜けていく。危ない。

 そうして苦笑いしながらも、矢が弾け飛んでくる戦場さながらの状況にも耐えながら、おれとユースケは酒を飲み続けて、ぼんやりした話を繋いでいた。

「さっきの店の人の話なんだけど、おれが先輩に初めてあそこに連れて行ってもらったとき、その人に特別にみてもらって、『これからさき振り回されることには気をつけるのよ』とか言われて、はじめなんのことだかわからなかったんだけどもさ……」 

 しばらく、ユースケのそのオーラおばさんの話を聞きながら、彼らしくもなくこのところ弱気で頼りきりだったと思わせるようなエピソードが並べられる中、当のおれの方はというとそれを噛み切りにくい肴にして、渋々杯を重ねていた。

 思えば、たかだか数年前までの彼の印象しかおれは知らないわけで、本当はあの頃彼に抱いていたようなクールな印象ばかりのもんでもないわけで、だから、こういった機会というヤツが腹を割って話す瞬間を演出するわけでもあり、したがってやっぱり単純に時間の経過と酒の魔力、これらが各々のバケの皮を剥いでいくんだ。なんて、あらぬことを一方では思っている、もはや明け方目前の街の片隅。

 でも、おれは誰彼問わずこうして過ごしてる魔性の時間が好きなんだと思った。

 ピコピコダーツの矢が、すってんころりん、おれの引き出物のなかに弾かれて飛び込んできた。

 すんません、とか言いながら、兄ちゃんがそれをとりに来る。ユースケがそれを拾って、怒るでもなく渡してやる。

「もう出ようか」

「あん。けっこ、眠い」

 そうやって、よれよれになったおれとユースケは白々となり始めた街に再び降り立ち、最寄の駅をふらふらと目指した。

「重てぇ、この引き出物」

 ユースケが、おれのその言葉に微かに苦笑い。

「でも、おれも結婚しようかなとか思ったよ、あいつの最後のスピーチ聞いてさ」

 ユースケのその言葉に、おれは思わずコケそうになった。なんだ、そういうことか。オーラの力とは。きっと、ユースケとそのカノジョとのことも、なんだかんだいって安泰とかいうことでまとまったんだろう(酔っていて、話半ば憶えていない)。

 斜に構えてた彼が、なんだかひどくまっすぐになってるような感じに変わったのなら、そういう効果なら悪くないか、オーラパワー。

「あ、おれもそう思ったわ」

 これはもちろん負け惜しみなんだが。カノジョ、いねーし。

 それから駅まで辿り着き、始発を待つおれを尻目にユースケは一人「やっぱダルい」とタクシー拾って消えていった。相変らず、去り際が鮮やかだった。

 そのシルエット、いつも変わらず細くて華奢な、それでもって幸薄げに猫背な後姿。そんな今まで見慣れたユースケの背中に、いまや輝かしいオーラがこの時のおれにでもハッキリ見えた、気がした。

 いや、ひょっとしたら寝ぼけてたのかも知れないが。





<おしまい>

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