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Piece 12 「流星が降り注ぎ、オーロラがたなびく、天が堕ちる結末」

 あれは6月17日の夜だった、と思う。

 ぼんやり夜空を眺めていた僕は、悠々と頭上を滑るように音もなく通過するUFOを見たんだ。天の川が見事に横たわっているのを仰ぎ見るようにして、僕は蛙の大合唱の中、優しい夜風に吹かれて田んぼの土手に腰を下ろしていた。ホタルがちらほらと、そう、幼少期よりも数は減ったかと思うが、あのときまではまだ飛び交う姿が自然に見られたんだ。

 とはいえ、その微かな光に見間違えたわけでもなく、ちゃんと夜空をすうっと横切る黒い円盤状の物体。それは、音もたてないどころか、光も外部に漏らさず、漆黒の闇に溶け込む忍者のように、人知れず徘徊しているんだと確信した。

 これは僕の持論だが、発光物体として、きらめくほど目立つ存在感は必要ないわけで、隠密行動をとってこそUFOであろうと。そもそも、人目についてはいけないのだと思う。だから、その枠に当てはまるかたちで出現したことに納得するわけで、本当に、ホンモノなんだ、と強く信じて疑わない。

 しかし、あの頃と今は大きく変わって、星空が地上の明かりに負けて天地が逆転したような都会に移り、年月を経て童心を忘れてしまい、そもそも“天の川”なんてキーワードすら浮かばなくなるほど忙しい生活に埋もれると、僕は自らの荒んだ心を残念に思うよりも、過去に遡るべくインナースペースにダイブした瞬間、郷愁にも似た気持ちと懐かしさに包まれて、泥のように眠っているという現実。

 説明のつかないものは嘘だなんて、眉に唾つけて真っ先に否定するようなことはしなかったし、むしろ、未知なるものとの遭遇にロマンを感じて、きっとそれが“少年ハート”だったのだろう。あれほど夢中になれたもの、夢が、想像が広がる世界。それが確かにあった。

 それでも、まやかしではないにしても、ひとつずつそれらの世界は縮小していって、大人になる頃には、半径数キロといったフィールドがにわかに現実味を帯びて、日常に顔を付き合わせるものたちのほうが、はるかにミステリーと気づく。

 いわんや女体の神秘。思春期は、少年から大人へと変わるために潜る羅生門。人は生きていくために変わるもの。しかし、変わったことに気づくのは、その門を潜り抜けてしばらく経った後。丘の上より望んだ都とはこうも小さかったものかと、これまで育まれた環境に決別するように、己の腕、足、頭で生き抜いていくことを五感に命じたとき、後ろに連なっていた抜け殻を暫時捨て去っていくんだ。

 そんなこんなで、女性というエイリアンに幾多も遭遇して現を抜かしている間に、地球は恐ろしく回転して、見ていないところで、気づかないうちに宇宙が至極近づいていた。

 遠くを見ることがなくなっていた僕が、そのことに気がついた頃には、昔見た天の川が落っこちそうなくらいすぐ頭上に迫っていて、大河の激流に呑まれるようにして巻き起こる惑星衝突が幾多も確認できた。超銀河ビリヤード。

 なんちゃら流星群が、この世の終わりのように幾筋も降り注いでくる。不気味なオーロラ。カタストロフィーが大迫力で現実となる。もはやかつて思い描いていたロマンのかけらすらない、未曾有の現象の前に「大丈夫なのかな」と思わず不安をこぼしてしまう。

 忘れていたけど、あの時流れていったUFOには、暗い小窓の向こうに人影がいくつか見えた気がする。あれは、いわゆるエイリアンではなくて、あのときどこかに移住を決めた人たちが、窓から見える地上にサヨナラを送る姿だったのかな。

 気づくのが、いつも遅すぎる僕は、あのときにすでに乗り遅れていたんだ。

 昼も夜もなくなったこの地上に、流星の雨が降り注ぐなか、少年時代の感傷に浸っている余裕なんて、もうなかった。





<おしまい>

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