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Piece 1 「春、はじまり、こぼれおつるなにやら」

 めずらしく、昼を前にして起きていた。毎週末したたか飲んでは、ぐてぐてごろごろの休日ばかりなのに。

 今年も早めに桜が咲いた。でも、「あ、花見だ」なんて気付いた頃とっくに花は散っていたり。

 しかし、よりによって今日は天気が素晴らしい。春らしい青空。

 したがって、たまった洗濯モンをこうしてベランダに干してる。新しい靴下買わねぇとなぁ、なんて擦り切れてきたそのつま先を伸ばしたり縮めたり、実にのん気に春風に吹かれてる時間。

 そして、昨夜のことを思い出しながら、みんな新しくスタート切ってるんだなとか、自分の中に少しハッパかけてみる。

 ホー ホケキョ

 なんだろ、この間は。あいつらこの辺までやってくるんだなぁ。なんだか本格的に春が動き出してきたみたい。

 昨夜、いつもの店に締めで寄ってみた。たいていラストの時間帯なわけだけど、いつもどおりミサキを指名して小一時間ばかり過ごす。客で数回来ているだけで、彼女とはいやらしいことも無く、ドラマチックなことも無く、ほんとにただのお客1号だった。

 ところが、その極めて浅い付き合い加減のおかげで、ミサキとは昨夜で最後になった。彼女、店を辞めて学校に通うとか言ってた。しっかりしてるから、そしてミサキのまっすぐな目には未来がはっきり見据えられてるなぁと感じたせいか、そのときなんだか嬉しくなった。単純だね。バカだね、男って。

 と、まぁ感動しやすくなったのも歳のせいなのか。なんにせよ、誰かしらがそうやって行動を起こして、何かを始めようとしていて、それが溢れているこの時期の気配が、緩やかに胸を打ってくるのは確かなわけで。

 深呼吸してみた。首をコキコキ鳴らして。

 ホ~ ホケキョ! 

 なんだよ、「おまえもそうしろよ」って言うわけ? ホケキョさんも春が来てうれしいんでしょうが、そうだね、きみらも環境に合わせて、きっと変わってきたんだよね。よしと、ここはひとつ、自分も変わらなくちゃ。

 さっそくみんなにメールを送信しまくる。

 「とりあえず、みんなで飲もうぜ」

 やってること、変わらないか。いやいやこれから。春はこれから、その先は夏。

 ベランダでYシャツたちが揺れている。 

 ミサキのアドレスを消去した。何を期待してたのか、当時メロウなやりとりだと思ってたメールの残骸も、この際恥ずかしくなって消去した。それからそれから、同じフロアの社内一脚が長くてキレイなコにメールしといた。なんでも、もうじき結婚するとか。そうなると、毎日のように密かに拝ませていただいてたあの御み脚ともお別れかな。

 おいおい、まだとどめはささないでくれよ。でも、まぁ、こんなふうにして世の中は移ろっていくのでしょうね、なんて悟り開いたふうに構えながら午後の街に出かけようと、冷め残ったコーヒーをすすった。

 ホ~ ホケキョ! 

 ホケキョさんの姿は見えぬものの、きっと新しい季節の訪れを知らせてくれる、それは次への扉を開くためのチャイムなのかも。だから、もう一度期待しながら耳をすませて……

 ホ~ ホケキョ!         

 ほら!





<おしまい>

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