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VS(バーサス)!――今日も何かと戦っています

【エッセイ】美容院 vs 全肯定な私

作者: 長月かよ
掲載日:2026/08/07

いつも美容院で困ることがある。


それは、会話だ。


だから私は、

店に入った瞬間、全肯定マシンと化す。



隣の席のマダムは、美容師さんと「昨日のドラマがさぁ!」と親友レベルで盛り上がっている。


一方、私と担当さんの間には、沈黙が流れている。



「ケープ、苦しくないですか?」


実際は、首元が食い込んでやや苦しい。


だが、私の口は勝手に動く。


「大丈夫です」


ヘアカラー中。


「染みたりしていませんか?」


頭皮が若干染みている気がする。


だが、美容師さんの笑顔を曇らせるわけにはいかない。


「大丈夫です」



シャンプー台は、もはやマシンのフル稼働だ。


「お湯加減、いかがですか?」


熱かろうが冷たかろうが、私の答えは決まっている。


「大丈夫です」


「痒いところはありますか?」


本当は後頭部を洗ってほしいのだが、私は答える。


「……大丈夫です」


「洗い足りないところは――」


「大丈夫です」



――そう、私は生きる「大丈夫です」bot。



シャンプーのとき、顔にタオルがかかるまでの数秒間が気まずい。

そのタオルが振動でズレて、顔半分が出てしまったたときだけは機能停止する。


『大丈夫……じゃないです』


心の中で、「そこは早く気付いて」と連呼する。



さらに難関なのが、起き上がる瞬間だ。

美容師さんが後頭部を支えてくれるが、この頭をどこまで預けていいのか。


私の頭は重いだろう。

彼女の細い腕を折ってしまうのではないか。


むしろこちらから「大丈夫です?」と逆質問したい。


結局、腹筋に全神経を集中させる。

頭を1ミリ浮かせてセルフ支えを敢行するのだ。



カット椅子に戻れば、マダムはまだヒーヒー笑っている。


私も負けじと、「最近、暑いですね……」と決死の覚悟で話題を放り込んでみる。


だが、私の声はドライヤーの爆音にかき消され、美容師さんには「えっ?」と聞き返される。


「……すみません、大丈夫です」



ハサミの音さえかき消す、隣の高笑い。


あちらが華やかなパーティー会場なら、こちらは静寂のメンテナンスモード。


結局、私はひたすらレシピ雑誌を見つめる。


おかげで、照り焼きの黄金比は完璧にマスターした――



私だって美容師さんと楽しく話したい。

でも正直、そっとしておいてほしい自分もいる。


この矛盾を抱えたまま、私は今日も美容院の扉を開ける。


精一杯の微笑みを浮かべて「大丈夫です」と言うために。



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