わりとよくあるタイプの微妙
麻衣はその日、怠惰で凡庸なありふれた昼下がりを過ごしていた。
洗濯物は乾ききらず、冷蔵庫には半端なセロリとヨーグルトがあり、スマホのニュースはどれも読む気にならない。人類史的にもわりとよくある午後である。
そのときだった。
額のあたりが、むず、とした。
虫刺されかな、と麻衣は思った。
ぽり、と指で触れる。
――触れた。
「……?」
皮膚ではない。
何か、細くて弾力がある、芯のあるもの。
麻衣はゆっくりと鏡に近づいた。
「え」
額の中央から、ちょこんと生えていた。
一対の触角である。
「……いや待て」
普通そこは猫耳やろがい!
最近は猫耳とか狐耳とか、そういう方向のファンタジー進化が主流ではないのか。
なぜよりによって触角なのか。
触角でもアホ毛っぽくはえるなどの配慮はどうなっている?
しかもそれは、蛾眉などにたとえられるような優美なものではなかった。
小指の先ほどのサイズ。
先端がちょっと膨らんでいる。
棍棒型。
というか。
「……マラカス?」
麻衣はそっと揺らしてみた。
ぴこ。
ぴこ。
「動くな、これ」
しかも色がひどい。
ビビッドなラスタカラーの横縞。赤・黄・緑。アクセントの黒が映える。
アイシャドウより自己主張が強い。
「レゲエ……?」
マラカスで、レゲエ?違うよね?麻衣はしばらく鏡の前で固まった。
「いや、待て。夢か?」
ほっぺたをつねる。
痛い。
触角も、ぴこっと揺れる。
「いやいやいやいや」
とりあえずスマホで検索してみる。
『人間 触角 生える』
検索結果
・昆虫の触角の役割
・コスプレ用品
・触角カチューシャ
「違う違う違う」
麻衣はもう一度鏡を見る。
触角は、なぜか少し誇らしげに揺れている。
ぴこん。
「……お前さ」
麻衣は額に向かって言った。
「何ができるの?」
その瞬間だった。
触角が、ぐいっと前に向いた。
そして――
冷蔵庫の方向を指した。
「……?」
麻衣は冷蔵庫を開けた。
すると触角が
ぶんぶんぶんぶん
激しく振れ始めた。
「え、なに」
中には
・水切りヨーグルト
・プチトマト
・昨日の焼き芋
触角は焼き芋にロックオンしている。
「……芋センサー?」
恐る恐る焼き芋を手に取る。細いけれどこれは『ベニはるか』なんである。とても甘くてしっとりした素敵な芋なのだ。
額で触角が歓喜のマラカスダンスを始めた。
しゃんしゃんしゃんしゃん(※音はしない)
麻衣は静かに言った。
「……」
「お前」
「ダイエットの敵だな?」
触角は、堂々とラスタカラーで揺れていた。
ぴこん。
まるでこう言っているかのようだった。
「炭水化物こそ、ジャスティス。」
その日から麻衣の人生には、
芋を見つける能力だけ異常に高い触角が加わったのだった。
人類の進化としては、
かなり方向性が怪しい。




