友情とは
私は、恋に落ちた気がした。
明確にはわからないが、友情のその先に行きたいと思った。
付き合うって何?恋愛感情って何?
別に肉体関係を求めてるわけじゃない。口付けをしたいわけでもない。なら、付き合ってどうするの?
友情と恋愛の間って何?
考えれば考えるほどに、わからなくなる。
落ち葉が舞い散り、地面が、世界が、彩られていく。吹けば飛ぶような軽い葉がくるくると、私とは真逆に落つる。
動けば熱く、風吹けば寒い。夏と冬の間に揺れる秋は、私の心情を表しているかのようだ。
しかし、美しく、すぐに次の季節に切り替わってしまう。秋は、私とは真逆のようでもある。
マフラー1つで座る公園はとても冷たい。私だけの公園に冷たい風が吹き付ける。落ち葉すらも私から離れてゆく。
ベンチを立ち、ブーツを鳴らしながら歩く。時に落ち葉を拾い、時に落とし。落ちていく様を見て、何を思うわけでもなくただ歩く。そうして、憂鬱な明日から目を背けるように。
「勉強なんて放り出して、あの子の手を引いて。平日の都会に繰り出してみたいなぁ…」
そうする度胸も、甘い現実もそこには無かった。
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秋の朝は少し肌寒い。昨日までは暑かったというのに。
いや、今でも少し動けば暑くなる。『秋コーデ』だとか、おしゃれなイメージはあるが、そんなの気が起きる余裕など無いぐらいに温度調節が難しい。
そういう私は今、半袖を着ている。なぜなら学校へ登校中だからである。
私は暑がりだが、上着だけは欲しい。しかし、学校により『寒いなら長袖を着てこい。』との事である。長袖のものにしか、上着を着る資格がないのだ。
好きな時に脱いだり着たりできるものが欲しい。だが、少しでも汗をかくぐらいなら寒いのを耐え忍んでやる。その方がマシだ。
そんなことを考えて、通学路を歩く。
「ミモザっ、おはよー!」
彼女の名前は友草百日。私とは幼馴染であり、もう1人の幼馴染と3人で遊ぶことが多い。
そんな彼女は私の名前———茅原ミモザを呼んだ。キラキラした名前である自覚もあるし、少し恥ずかしい時もある。しかし、ちゃんと素敵な理由があって、なにより親が付けてくれた名前。改名しようとは思わない。ただ少し、小恥ずかしかったりする。
「おはよ、百日。てか、昨日言ってたアニメ見たよ!戦闘描写と風景がめちゃやばだった!」
「でしょーっ!酔わないぐらいに、グルグル回ってカッコイイところをアップで写すカメラワーク!原作のストーリーは勿論、キャラの個性が際立つ声優さんの声!心情描写が儚くも美しく描かれてて!」
2人でワイワイと盛り上がっていると、コツコツとローファーの音がする。
横切る紺色のストレートヘア。物憂げなその横顔に少しドキッとする。
「なでしこ、おはよ!」
「えっ、ミモザちゃん⁈」
彼女の名は紫菊なでしこ。大抵のことはできるスーパーガールである。
「つれないじゃない。1人で学校行こうだなんて。
…あっ、いや別にそういう気分なら良いんだけどね⁈」
「いや、違うよ!…ただ、2人が盛り上がってたから邪魔しちゃ悪いかなって。」
私と百日は目を合わせる。
「「そんなわけないでしょ!!」」
「ええっ…⁈」
息ぴったりに言う私達に目を丸くする。
少し固まり、少し頬が赤らむ。
「じゃ、じゃあ改めて。おほんっ。
おはよう、2人とも。なんの話で盛り上がってたの?」
私と百日は少し微笑み、3人の中で話題のアニメの話をした。
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窓の隙間から吹き込む秋の香り。外では体育祭の練習をする生徒たち。
「百日、次の授業なんだっけ?」
最後列の窓際。小声でたずねる。
「次は…体育だね。多分、個人競技の練習かな?」
「え〜、百日だけじゃんけんで負けたやつじゃん」
全員では無く、個人で競い合う『個人競技』。参加する競技は選べるのだが、私達3人中百日だけジャンケンに負け、200m走になったのだ。
百日も、憂鬱そうにしている。
風が吹き込み、ノートがパラパラとめくれた。
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体操着に着替え、グラウンドに出る。少し待っていると、遅れてなでしこが来た。
「ごめんっ、靴紐解けちゃってて…」
「いいよ、まだ授業始まってないし。それより、転んでない?大丈夫?」
「うん、すぐに気づいて結んだから大丈夫。」
歩くうちに自然と歩幅が同じになる。
何も言わなくても、お互いに心が通じ合う。
ああ、なんて幸せな事だろうか。
ふと、そう思う。自分の素を曝け出したとて、一緒にいてくれる。そんな存在が、たまらなく嬉しく、たまらな幸せである。
私のこの『気持ち』をさらけ出せたのなら、
それを受け入れてくれたのなら、これ以上無い幸せなのだろう。
幸せの形を知っているから、考えてしまうから。これ以上の幸せを求めてしまう。
人間の性と言うやつなのかもしれない。
リスクを伴うそれに。今ある幸せを壊すかもしれないそれに。どうしようもなく諦めたくて、どうしようもなく焦がれている。
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鐘が鳴り、2時間目と3時間目の狭間が訪れる。
「…寒い。」
流石に半袖は不味かった。
確かに、さっきまでは暑かった。しかし、動かないとなると話は別だ。
カイロだけでは、手先しか温められない。体の芯が冷える様な感覚。暖房はまだ暖かくない。
「百日〜、おんぶさせて〜。熱を奪わせて〜。」
「嫌よ…周りの目があるし。」
この世は非情だ。
突然、ふわっと花のいい香りがする。
「ミモザちゃん、私のでよければ使って?友達が風邪ひくの、嫌だもん。」
「なでしこ様…マヂ天使…!」
肩にかけられたカーディガン。心も、体も、暖かくなる。
「あっ…始まりのチャイムだ。
それ、温かくなるまで着てていいから!」
なでしこは少し急いで、自分の席へ戻って行った。
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放課後。秋の夕暮れが教室を明るく色づける。
百日の席がスポットライトでも当てられるかのように、陽に照らされている。
どの席よりも、明るく。気温が低い今日だが、その席だけは温かそうな気がする。
好奇心に勝てず、百日の席に座る。
「あったかい。」
陽光の温かさとはわかっているが、百日のぬくもりを感じているようで、どこか気持ちが昂る。
…私は、百日の事が好きなんだな。
目を逸らしていた気持ちに、嫌でも気づいてしまう。もう、自分を誤魔化せはしないだろう。
自覚してしまった瞬間、ぶわっと『好き』が溢れる。鼓動が早くなり、胸は締め付けられ、体が火照る。
こんな気持ち、口にしてどうなるのだろう。付き合いたい。ただ、付き合った後に何がしたいではなくて、それ以上でもそれ以下でも無い。おでかけなら、付き合わなくてもできるし。一緒に居たいなら、迷惑をかけない程度に、私勝手に隣に立てば良い。だったら付き合いと、思うのは何故だろうか。
貴方の『恋人』という関係が欲しい。ただ貴方の『恋人』と言う枠を私で埋めたい。どんな人柄かもわからない人間に、貴方を任せられない。だったら、誰よりも早く私が恋人になりたい。甘えたい、甘やかしたい。悩みの押し付けなんてしないから、ただ一緒にいるという確約が欲しい。いつか、私から離れてしまうのが怖い。貴方と友達以上でありたい。この関係に明確な名称が欲しい。親友なんて、曖昧なものじゃなくて。お互いが認める名前が欲しい。友達をやめたくない。この関係を手放したくない。悪化させたくない。自然消滅させたくない。貴方を離したくない。逃したくない。貴方以上に特別な存在は現れない。離れないって約束して。この歪んだ友情を愛に昇華させて。引かれたくない。嫌われたくない。重いだなんて思われたくない。だから、友じゃなくて愛として受け取って。
この好きを伝えたい。別にこの気持ちに答えてくれなくたって良い。ただ、同情して、そばにいて欲しい。
「…苦しいな。」
今まで、こんなことは無かった。こんな感情。こんな相手。
元々、見た目は気にしていない。ただ、辛い時に甘やかして、甘やかされて。そばにいてくれる存在。それが欲しかった。友達とはまた違う。そんな存在が。
だからだろうか。初めて、女の子に恋をした。
私が男なら。あの子を守ってあげられる力があって、かっこいいって言われる土俵に立てる性別なら、好いてもらえるきっかけがあったなら。そんな事ができたなら、なんて素晴らしいのだろうか。
あの子の恋路を邪魔したいわけじゃない。幸せを壊したいわけじゃない。善人かなんてわからない人には渡したくないというだけ。
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「ミモザちゃん、起きて。」
目を開けると、目の前にはなでしこがいた。
そうだ。私は先生に呼び出されたなでしこが、戻ってくるのを待とうとして、教室に入って、それで…
ガタンと音を立てて立ち上がる。
「ごめんっ!この席陽が差してて、あったかそうで!」
なでしこが、必死に弁明する私を笑う。
「別に良いよ、別に悪い事したってわけでもないし!」
予想外の返しに、呆気を取られる私の手を、なでしこが握る。
「ミモザちゃん、帰ろ!」
———あぁ、好きだな。
なでしこが振り返る。どうしたのだろう。忘れ物だろうか。
「ミモザちゃん、今『好き』って…」
「…………え」
最悪だ。考えうる限り最悪の、気持ちの伝わり方。なんの覚悟も無いのに、つい溢れた言葉で
「ミモザちゃん、もしかして…私の事が好きなの?」
「…あ、あぁ殺して…そんな目で見ないで
嫌いになったよねごめんねただ好きになっちゃったの気色悪いよね普通じゃないよねこんな事ならさっさと死ねばよかった墓場までこの気持ちを持っていけばよかったのにごめんね」
視界がぐるぐるとする。見たく無い。彼女の顔を、どんな表情なのかを。きっと軽蔑している。きっと、道の端の影に吐き捨てられたタバコでも見るかの様な顔をしてるに違いない。
ぎゅっと、締め付けられる。自分の錯覚にも思えた。
伝わる生き物の温もり。花の様な香り。
「ミモザちゃん。ごめんね。きっと、ずっと悩んでたよね…気づいてあげられなかった。別に変じゃないよ。まだ日本には少ないかもだけど、それは非難されるような事じゃない。
でも私、『好き』が良くわからないから、ミモザちゃんの思ってる通りにはできないかもしれない。
それでも、こんな私で良いなら
…これからも、よろしくお願いします」
彼女の心理がわからない。けれど、ひとまず、
「こんななでしこだから良いんだよ…こちらこそ、よろしくお願いします…!」
報われるわけない。そう思っていたけれど、予想以上の返事をもらえた。
目から暖かい涙が伝う。
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教室の外から物音がした。そこには、百日がいた。
「見ちゃったんだけど…ミモザがなでしこに告白…?してるとこ。」
しん、と静まり返る放課後の教室。自分の鼓動だけが大きく鳴っている。
「いやっ…それは違くてっ…!」
「違わないでしょ?」
そう断定したのは百日ではなく、なでしこだった。
百日の前で、突き放されるのでは無いのか。気持ち悪いだとか、本音を言われてしまうのではないか。そんな考えがすぐに過ぎる。
「私とミモザの問題でしょ?なにが嫌なの?」
予想していた言葉はまだ、飛び出さなかった。
「だって…女の子が好きって…」
百日は自然と、左手で肘を抱えている。恐怖から『いつ何をされるかわからない』と考えるかもしれない。
そんな反応されるのは、当然と言えばそうなのかもしれない。
「…だから、なに?あなたは今までの9年間、ミモザの何を見てきたのっ⁈」
あまり声を張り上げないなでしこの声に、私と百日は体を震わす。
「ミモザが、距離感を履き違える子だと思う?そんな誰彼構わずに手を出すような人だって言いたいの?」
「…そんなんじゃなくて」
私の出る幕じゃない。何も言えない。俯く百日となでしこを見つめるしかできない。
「なにか、言わないといけないんじゃない?」
「ごめん…なさい、ミモザ。こんなにずっと一緒にいたのに、私…びっくりしてて、憶測で…」
百日が抱きついてくる。
「ごめんっ…ごめん…!1番そばで、応援するべきだったのに!」
「百日、無理に抱き付かなくても…」
「私がしたいのっ…!私…く、口下手だからっ!こういう時どうすれば良いかわからないからっ…」
百日の体温、思った事を精一杯伝えようとする声から、気持ちが伝わってくる。
「…ありがとう、百日、一緒にいてくれて、慰めてくれて。」
「ごめんね、ミモザ…」
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2人の横顔が、太陽で赤く照らされる。気持ちを曝け出して、赦されて、3人でここにいる。
それがどれほど幸せな事だろうか。
初めましての人も、他の作品から来てくれた方も
おはこんばんちゃ、みちをです。
はい。慣れないオール純愛です。
【僕は、ラブストーリーより
メインがバトルとか他の物だけど
恋愛要素が少し入ってる方が好きだ!!!】
と、いう人間が書いていますのをご了承ください。
ちょっと文章というか、展開が謎な点があります。
それについては、また別で書けたらな…と思っています。




