婚約破棄した馬鹿王子に求婚する悪役令嬢
「タグネリアとの婚約の破棄を宣言する!」
俺はダキア王国の王子、リードリッヒ、王太子だ。
いわゆる馬鹿王子である。
隣には戯曲のように男爵令嬢も平民の特待生女子もいない。
何故、婚約破棄をするのか?
馬鹿王子だから婚約破棄をするのか?と問われれば少し違う。
これから嵐が来る。タグネリアはとても優秀で真っ正面から対処しようとするだろう。
だからだ。
要領を得ないだろう。馬鹿王子だから仕方ない。
すると、タグネリアは扇で口元を隠し。俺の目をその青い瞳でジィと見つめている。
何を考えているのだ。
「承りましたわ」
と動揺する様子もない声だ。
そして、隣に正妃腹の弟のデービットがやってきてタグネリアの肩に手を回す。
そうか、分かっていたのか?
理由も聞かないのか?そうだよな。
馬鹿王子だからな。
俺は国政に関与せずに遊び歩いた。
その間、ダグネリアは政務にかかりっきりだった。
戦争を起そうとしている。
相手はエレクシア王国、最近、急激に力をつけてきた小国である。
ダグネリアは同盟諸国と共に叩き潰そうとしている。
兵力差は30万対3万くらいで我が陣営が有利か?
「分かったぜ。俺はどうなる?」
「そうですわね。デービット王太子殿下・・・如何されますか?」
「元王太子の兄上は廃嫡、兄上はご自身が作った離宮に行かれるが良かろう・・・余生は我が王国の繁栄をお祈り下さい」
と、俺は捕らわれ。離宮に護送された。
父上と義母上は分かっていたな。
俺が酔狂で作った湖の中の島に作ったお城だ。
従者とメイドをつけられて送られた。
皆、平民出身だ。謂わば、冷えたスープを飲む人達である。
貴族出身の使用人は俺についてこなかった。
☆数ヶ月後。
何だか。使用人たちの給金が滞り。食料も届かなくなった。
「リードリッヒ様、如何されますか?」
「観光地にしようぜ!城を開放する。遊園地にしようぜ」
「まあ、確かに見た目は良い城ですからね」
と商会を通して観光客を呼ぼうとしたがおかしい。
軒並み連絡が取れない。
もしや。
と思ったら。
デービットとダグネリアがやってきた・・・・父上、義母上と義弟たちや宰相もいる。
皆、山車のような輿を馬のように引いている。
趣味悪い。
山車に乗っているのは、エレクシア王国の女王ザーム様だ。赤毛のザーム。
戦争に負けたのか?
小国が急激に力をつけたのは理由がある。
歴史ではよくある。その時は逆らわない方が良い。
口上が魔法で城まで届いた。
【元王太子リードリッヒ卿に我が女王陛下が会いに参った。早急に女王陛下の元に参じられたし!】
大勢の騎士達もいる。
俺は湖を渡り。跪き謁見をした。
「お久しぶりでございます。ザーム女王陛下」
「息災だのう・・」
あれは確か、ザーム様は踊り子出身の義母と義妹に虐げられていた気弱な王女だったが今は見る影もない。婚約者まで義妹に取られたと聞く。
赤紫のドレスを着て・・・・赤毛はそのまま下ろしている。アイスブルーの瞳は・・・若干、狂気を宿っているように見える。
そして、隣に黒髪、黒い瞳の初老の男がいた・・・異世界人か?
それとも遙か東方にいる東洋人か?
ザーム様は口を開いた。
「お前と私の仲ではないか?少し、歩こう」
「御意」
「ヤマモトもついて参れ」
「はい、ザーム様」
ヤマモトというのか。小柄な男だ。
こいつがエレクシア王国の大改革の中心か?
護衛騎士もつけずに湖の周りを歩く。
ザームとはエレクシア王国に行ったときに会ったな。
単刀直入に聞いた。
「エレクシア国王と王妃・・・王族を処刑したのは本当でございますか?」
「そうよ。皆、私を見ないから・・・いえ、民を見ないからお父様、お義母様、義妹を殺したわ」
「そのヤマモト殿は?」
「異世界の歴史学者ですって・・・」
やっぱり異世界人か・・・こいつがエレクシア王国を躍進させたのか?
「貴方をダキア王にするわ」
「えー、今更良いですよ」
「それから、私の夫になりなさい。すると、ダキア王国が手に入るわ」
話聞かないな。
「俺、遊び歩いたと評判の馬鹿王子ですよ」
「だからよ。遊び歩いて民を見ているから現実を分かっている。ダグネリアやデービットは家門学には詳しいけども実情を分かっていないわ」
「民って、強欲で間抜けですが、馬鹿ではないですよ。一筋縄では行きません」
「フフフ、だからよ。考えておいてね。後、3カ国平定したら迎えにいくわ。この国には総督をおくわ。貴方がお城の増築や遊興にお金を使ったから、この国は戦争に出遅れたわ。民は職に困らなかったと調査に出ているわ」
「考えすぎですよ」
その後、エレクシア軍を見せてもらったが、おかしい。
騎士は下層貴族。歩兵は平民で士気が高い。
何か、ワケのわからない新兵器もある。
ヤマモト殿に聞いて見た。
「これはロケット花火を飛ばす馬車です。カチューシャを参考に作りました。花火程度ですが、騎兵が主体の各国では馬を崩すのに使います」
「この歩兵の長い槍は?」
「ファランクスです。と言っても、私のオリジナルではないです。私のいた世界では殺す技術だけは発展しています」
何だかな。
俺、国王になっちゃうのか?
その後、ザームは出征をした。
「フフフフフ、待っていなさいね。それまでは自由よ。ところで、ダキア王族はどうする?処刑する?」
「いえ、特に殺すのも何か嫌です」
「あら、何故?生かしておくと後々災いになるわ」
「だって、王族は1人殺すと際限なく殺さなくてはいけなくなるからです」
しばらくザーム様はジィと考えて。
「分かったわ。平民に落としますわ」
とだけ言った。寂しそうだった。
後に、連合軍を会戦で破り。
意外だが穏健的な条約を結んで和議になった。
ダキア王国でやったように王族を引き回したりはしなかったそうだ。
元々の戦争の原因は対等の条約を望むエレクシア王国の使者を裸にして王都に引き回したのが原因だ。
報復も等価なのか?
あ、そうだ。元国王の父上と義母上、ダグネリアとデービットは・・・
ヤマモト殿の提案で、湖の島の城をネスミーランド風とやらにして、その島だけの王族にした。
バレードなんかをして結構人気で儲かっている。
少し、悔しいが仕方ない。
 




