第26話 次は、君を後ろに置いていくことになるだろう
先生と別れた後、多崎司は家に戻り、シャワーを浴びながらシステムを開いた。
【星野花見株現在の株価:30】
【星野花見株購入、数量:1000、確認済み。】
【現在の利用可能資金:25000】
なぜか今回は、先生の新株を限界まで購入した後、多崎司は格別の興奮を感じた。体を洗う力も自然と強くなったほどだ。
シャワーを終え、清潔な服に着替えた多崎司は、携帯電話でアルバイト情報を探した。すると、秋葉原で見つけたバイト情報が目に留まる。
「着ぐるみ(ブラウンベア)を着てビラ配り。午後1時から5時まで、4時間」
この種の仕事は大変な分、時給も高い。時給1200円なら、午後だけで4800円稼げる。
多崎司は計算した。現在、コンビニのアルバイトで週に1万8千円稼いでいる。もし毎週週末にこのバイトをすれば、週の収入は2万8千円近くになり、月収は最低でも11万円になる。
そこから家賃4万円、食費4万円、交通費1万円、日用品費5千円、通信費3千円、水道光熱費……ああ、もうこれ以上は無い。
ああ、大都市での生活は本当に大変だ。「北上広(北京、上海、広州)から逃げたい」というスローガンがこれほど多くの人々に叫ばれる理由がよく分かった。
金に困窮した多崎司の頭には、歌舞伎町の暴力団の用心棒にでもなってやろうか、という衝動まで湧き上がってきた……。
電車に乗って秋葉原駅に到着し、改札を出てすぐの場所にあるアルバイト先のACG(アニメ・漫画・ゲーム)用品店を見つけた。ブラウンベアの着ぐるみに着替えて、ビラを手に人通りの多い通りに立つと、彼は再び光栄なる「働きマン」となった。
午後3時になると、空が曇り、数羽のカラスが頭上を横切っていった。東京全体が誰かの喪に服しているかのように、重苦しい雰囲気が漂う。
「わあ、可愛いブラウンベア!香苗、早く来て、一緒に写真撮ろう」
突然現れた二宮の姿に、多崎司は驚いた。幸い、着ぐるみの頭部は大きく、外の様子は見えるが、内側は見えない。
「クマさん、一緒に写真撮りましょうよ」
「ハイ、チーズ!」
「カシャ」
「バイバイ!」二宮詩織はブラウンベアに抱きついてスリスリした後、春日香苗の手を引いて人混みの中に消えていった。
遠ざかる二人の少女と、彼女たちの手に持つ大きな荷物を見て、多崎司は「一緒に買い物に行かなくて本当によかった」と心底思った。
ポケットの携帯が鳴り、多崎司は着ぐるみの頭を脱いで携帯を取り出した。村上水色からの電話だった。
「もしもし、多崎?ビリヤードに行こうぜ」
「忙しい」
「そんなこと言わないでくれよ。今、すごく気分が悪いんだ。付き合ってくれ」
「何があった?」
「さっき親父と喧嘩してさ。毎月20万の小遣いを半分にするとか脅されてるんだ」
多崎司はそのまま電話を切り、彼の番号をブラックリストに入れた。
午後5時に仕事を終え、給料を受け取って店を出ると、空はどんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうな気配だった。多崎司は混み合う電車に乗り、四ツ谷へと帰る。
揺れる車内で、星野花見からクラスのグループチャット経由で個人的なメッセージが届いた。
【多崎司、正直に言いなさい。あなたは試験でカンニングしたでしょう?】
多崎司はフッと笑い、既読スルーした。
四ツ谷駅を出てまもなく、雨が降り出した。彼はあるカフェの前で雨宿りをする。店内は混雑しており、多くの人々が時間をつぶしている。店で働く女の子の制服のシャツにも、客が手に持つコーヒーにも、雨の匂いが漂っていた。
雨のベールの中、街灯が次々と灯り始め、バスはまるで鮭のように混み合う道路を突き進んでいく。中年の女性がジャーマンシェパードを連れてカフェの前を通り過ぎ、何人かの小学生は傘も差さず、レインコートも着ずに、風雨の中を走り抜けていった。
うん、この小学生たちは家に帰ったらきっと怒られるな。
雨が小降りになったのを見計らって、多崎司は一気にアルバイト先のコンビニまで走った。ドアに手をついて息を切らしていると、遠野幸子は「フン」と鼻を鳴らし、腰をひねって大股で去っていった。
女将の機嫌がいつになったら直るのか、見当もつかなかった。
夜10時、東新宿の自宅に戻る。一日中働いたせいで脚はひどく痺れ、足の裏には水ぶくれができているようだった。
多崎司はコンビニからもらってきた無料の弁当を電子レンジに入れ、タイマーをセットした。シャワーを浴びた後、水道の蛇口からグラスに水を汲み、弁当を食べ始めた。
空気にはかすかにカビの匂いが漂っている。雨が降ると、この匂いは消えることがない。あと1ヶ月で梅雨に入る。そうなったら、さらに鬱陶しくなるだろう。
彼は食卓の椅子に座り、壁にかかったカレンダーを眺めながら黙々と弁当を食べる。カレンダーはコンビニで持ってきたもので、富士山の写真が印刷されていた。
多崎司は富士山に登ったこともなければ、東京タワーに登ったこともない。高層ビルの最上階にすら行ったことがない。一番高い場所に立ったのは、学校の校舎の屋上だ。
11時半に電気を消して寝る。布団に横たわり、目を閉じた。
「こんな生活って、あまりにも仏すぎるんじゃないか?」
まるで社会に揉まれた後、諦めて横たわった社畜のようだ。もっと若々しく、もっと積極的に生きるべきなのだろうか?
でも、積極的に生きるって、どうすればいいのだろう?
深く考える間もなく、まぶたが重くなり、眠気が襲ってきた。
5月6日、木曜日、曇り。空気は湿気を含んだ匂いで満ちていた。
学校再開の初日、校門前の坂道を歩く生徒も教師も、皆、強い疲労感を顔に浮かべていた。
校門に入ると、ちょうど「イワシ」が前を通り過ぎていった。デブ猫は振り向き、多崎司に「にゃー」と一声鳴いた。
多崎司は成績を見るのを急ぐこともなかったので、「にゃー」と返した。
「イワシ」は一瞬戸惑い、尻尾を振って「にゃー」と鳴いた。
「にゃー」多崎司も負けじと返した。
一人と一匹はこうして「にゃーにゃー」と鳴き合い、声は次第に複雑になっていった。
多崎司は「イワシ」の口調を真似ようとし、対話を試みる。一方「イワシ」は、徐々に背中を丸めて、「にゃー」と鳴きながら彼に近づいてきた。
両者の距離が10センチメートルほどになったところで、デブ猫は前足を伸ばし、多崎司のズボンの裾に小さな裂け目を作ると、そのまま逃走した。
?
あんなに和やかに話していたのに、どうして暴力を振るうんだ?
「あなたたち、何を話しているの?」
背後から栗山桜良の好奇心に満ちた声が聞こえた。多崎司は、睾丸のないあのデブ猫をじっと見つめながら答えた。「正直、あいつが何を言ったのか、僕が何を返したのかは分かりません。でも、最初の『にゃー』は恐らく罵倒語で、僕が真似た『にゃー』も、おそらく罵倒語だったと思います」
「あなたたち、二人とも……本当に馬鹿ね」
多崎司は振り返って彼女を睨みつけ、無言の抗議を示した。
栗山桜良は顔をそむけ、肩をわずかに震わせている。それは……いや、明らかに笑っていた。
**その黒いロングソックスがとても素敵なのだから、今回は許してやろう……**多崎司は冷たい顔で、校舎へと向かった。
「多崎君、あなたは自分が何位だと思います?」栗山桜良は追いかけてきて尋ねた。
「何位でもいい。栗山さんより上なら」
「それは難しいと思うわ」
「自分に自信があるんですか?」
「私の容姿に自信があるのと同じくらいにね」
二人は話しながら、校舎前の掲示板へと向かった。そこには多くの生徒が集まっていて、近づくことができない。しかし、上位の順位は一番高い位置にあり、外からでもはっきりと見ることができた。
【1位:栖川唯】
ああ、やっぱり。
やはり、小さい頃からずっと1位を取り続けるあの変態か。
【2位:栗山桜良】
栗山桜良は静かに微笑んだ。「多崎君、まだまだ頑張らないとね」
言葉が終わらないうちに、彼女が視線を下げた先にも、また同じ順位が並んでいた。
【2位:多崎司】
【4位:山内順一】
少女の美しい笑顔は顔に固まったまま、閉じられない口と見開かれた瞳は、ただ驚愕という感情を伝えていた。
多崎司は横を向き、彼女の冷淡な口調を真似て言った。「次は、君を後ろに置いていくことになるだろうね」




