第17話 図書館員の島本先生
【自分の先ほどの考えが愚かだったと感じ、あなたに近づきたいと思い、矢島葉月株の指数が50ポイント上昇。現在の株価:52】
【かっこいい~!二宮詩織株の指数が30ポイント上昇。現在の株価:60】
【素晴らしい、さらに観察する価値あり、栗山桜良株の指数が20ポイント上昇。現在の株価:40】
彼女たち3人以外にも、数人が呆然とした表情を浮かべていた。上田という男の口は、驚きで誇張された「O」の形に開いており、他の者たちは基本的に頭が混乱状態にあった。
多崎司本人以外、誰もがこのような結果になるとは予想しておらず、目の前で起こったことはまるで夢のようだった。
その場にいた多くの人々は剣道の基礎訓練を受けており、たとえレベルが低くても、自分を戦局に置き換えて推測する能力は持っていた。
多崎司のあの2回の攻撃を、もし自分だったらと考えると……。
この結果を受け入れた後、心に湧き上がってきたのは、深い崇拝の念だった。彼らは尊敬と好奇の眼差しで多崎司を見つめ始めた。
この感情の変化は、一つには多崎司の「格好つけ」が確かにレベルが高かったからだ。もう一つは、日本人の国民性が非常に矛盾しているためである。
好戦的でありながら和を尊び、武を重んじながら美を愛し、傲慢でありながら礼儀を重んじる……。
この矛盾は、上下関係という点から非常に明確に見て取れる。
後輩や下級の者は、先輩や上級の者に対して、尊敬と謙虚な態度を保ち、決して安易に逆らってはならない。
しかし、それに加えて、先輩・後輩、上下関係の中には、常に存在しながらもほとんど誰も実行しない、もう一つの風潮がある。
下剋上。
先輩が早くから業界に入ったことや、経験が豊富であることなどを理由に高位にいるのに対し、実力で先輩を打ち倒す「下剋上」は、成功さえすれば、大多数の人々から尊敬され、ひいては崇拝されるものなのだ。
多崎司は飲み残した水を手に取り、立ち去ろうとした際、二宮詩織に会釈した。「今日はありがとう」
「それじゃあ……お礼に……」二宮詩織は彼の顔に近づき、瞳を輝かせて尋ねた。「一緒にカフェに行かない?」
彼女の背後の窓から風が吹き込み、彼女の長い髪をなびかせ、黒髪に隠れていたピンク色の耳たぶが露になった。
その可愛らしい小さな耳たぶは、まるで小さなウサギが真っ黒な穴から顔をのぞかせたようで、思わず手を伸ばしてウサギの耳を掴み、ウサギ全体を引っ張り出して、手のひらでゆっくりと愛でたくなる。
コーヒーを飲む?
金がない!
「また今度ね」多崎司は淡々とそう告げた。
その後、彼は栗山桜良に視線を向けた。探求心に満ちた彼女の瞳と目が合う。その視線は、まるで彼女が空気で編まれた籠をじっと見つめていて、その籠の中に「多崎司」という絶滅危惧種が閉じ込められているかのようだった。
「栗山さん、さようなら」
言い終わると、多崎司はくるりと踵を返し、ドアから出ていった。
「おい……この野郎……」栖川新浩は喉を押さえて床から立ち上がり、「待て……」
多崎司のドアノブを握る手が、一瞬止まった。
「誰もいじめられるために生まれてきたわけじゃない。まだ何か言いたいことがあるなら、いつでも相手になる」
言葉が終わるや否や、彼の姿は消え失せた。開け放たれたドアからは、草木が生い茂る中庭が見えるだけだ。数羽の灰色の鳩が、ある木から別の木へと飛び移り、葉の裏に隠れた小さな虫を必死についばんでいた。
4月29日、東京。室温は18度。多崎司は少し肌寒く感じたが、額には細かい汗がにじんでいた。
部活動棟の3階から5階まで階段を上り、渡り廊下で休憩していると、彼はシステム画面を開いた。
【矢島葉月株 保有数:1000】
【全て売却しますか?】
【矢島葉月株 清算完了、資金:52000取得】
剣道部は偶然立ち寄った場所に過ぎず、矢島葉月との接点も今後はないだろう。だから、一儲けして逃げ、資金を回収して別のことに使うのだ。
52000の入金に、残っていた13000を合わせると、利用可能資金は65000に上昇した。多崎司は壁にもたれかかり、思考を整理し始めた。
まず、ショップで交換可能なオプションは明日更新される。
アイテムとスキルの更新オプションは不明だ。
基礎ステータスに関して言えば、今月は「知力」だったから、来月は「魅力」と「体力」のどちらかになるはずだ。
最終的に何が更新されようと、65000の資金では間違いなく足りないだろう。
多崎司は**【株取引画面】**を開き、現在の保有株を確認した。
【アカウント名:多崎司】
【残り資金:65000】
【保有株:二宮詩織(1000)、春日香苗(1000)、栗山桜良(1000)】
【市場株数:6】
【市場指数:312】
二宮詩織の現在の株価は60、栗山桜良は40、春日香苗は20だ。これらをすべて売却すれば120000の資金が得られる。既存の65000と合わせると、総額185000になる計算だ。
それでも足りない……5月の1ヶ月間で、彼女たちの株価がもう少し上がってくれることを願うばかりだ。
多崎司はしばらく考え込み、画面を閉じた。
渡り廊下を通り、総合棟4階にある図書館へと向かう。
ゴールデンウィークは7日間あるが、残りの6日間は一人で家で読書をするつもりだった。
節約にもなるし、自分を豊かにすることもできる。まさに一石二鳥だ。
先週末も、多崎司は学校の図書館で過ごした。物語、小説、伝記、歴史と、手当たり次第に読み、疲れたらイヤホン付きの個室席に座って音楽を聴いた。
この10日間で、学校の図書館は彼が最も訪れた場所となっていた。毎日、本を借りたり返したりするうちに、女性の図書館員とはすっかり顔見知りになっていた。
彼女は多崎司の名前を覚えており、会うたびに挨拶を交わし、言葉には温かさがこもっていた。
多崎司はその図書館員が気に入っていたが、残念ながら彼女は生活指導の教師で、しかも既婚者だった。
図書館の入り口に着くと、多崎司は壁にもたれてしばらく休憩し、呼吸が落ち着いてからドアを押して中に入った。
カウンターの正面には、黒縁眼鏡をかけた27、8歳の女性が顔を上げていた。彼女はかなりの美人で、背が高く、ふくよかな体つきだ。胸元で高く盛り上がった白衣には、「島本」と書かれたプラスチック製のネームプレートがつけられている。
「ゴールデンウィーク初日なのに、もう本を借りに来たの?」
声は軽やかで上品で、親しい間柄の冗談めいた響きがある。音量は控えめだが、滑らかで心地よく、全く重苦しさを感じさせない。
「島本先生、こんにちは」多崎司は会釈し、すぐに彼女を感嘆のまなざしで見つめた。
いつもの服装だ。OL服の上に白衣を羽織っている。髪は長めで、うつむくと前髪が額を隠す。手首は白く華奢だ。黒い眼鏡のフレームは繊細で、彼女の顔の形にとてもよく調和しており、一目見ただけで穏やかな雰囲気が漂ってくる。
「今日はどんな本を借りたいの?」島本佳奈は白い指で鉛筆を挟み、面白そうに多崎司の顔を眺めた。
鉛筆は黄色で、先端に消しゴムがついている。
「適当に見て回ります」
多崎司は気楽な口調で言った。
「分かったわ。多崎君、何か困ったことがあったら、先生に声をかけてね」
「ありがとうございます」
島本佳奈は微笑み、どういたしまして、と言いたげな表情を見せた後、再び鉛筆を手に取り、カウンターに伏せて何かを書き始めた。
時折、彼女は眉間に皺を寄せた。まるで何か難しい問題に直面しているかのように。そんな時、彼女は鉛筆の消しゴム部分で机を軽く叩く。そのリズムは穏やかだった。