第13話 醜い者には、じっくり見ることもまた残酷なことだ
竹内拓実の呼吸が詰まり、無意識のうちに視線を逸らそうとした。しかし、隣に立つ二宮詩織の姿を認めると、瞳孔が急速に収縮し、呆然とした表情になった。
まるで真昼に雷に打たれたような衝撃だった。
苦しい!
こいつ……まさか二宮さんが好むようなクールなイケメンなのか?
竹内拓実は多崎司を見つめ、こいつの顔つきが自分と同じ淡漠な眼差しで、佇まいも同じ冷峻さで、表情も同じ無表情であると感じた。
唯一の違いは、こいつの無表情はクールで格好良く見えるのに、
自分の無表情は、ただの無表情であるという点だ。
そう考えると、急に胸が締め付けられるほど切なくなった。
「竹内先輩……」二宮詩織は多崎司の袖を引っ張りながら前に進み出て、紹介した。「私の友達で、一年F組の多崎司よ」
「こんにちは」多崎司は淡々と頷いた。
「フン!」
竹内拓実は鼻を鳴らし、まるでひどい屈辱を受けたかのように視線をねじ曲げた。
天照大神よ、どうか格好いい奴らは皆、雷で打ち殺してくれ!
考えれば考えるほど腹が立ち、腹が立つほど考えずにはいられなかった。
格好良くても何になる?剣は顔で振るうものではない。
こんなか弱い男が、可憐な二宮さんを守れるわけがない!
今日、この竹内拓実がお前に一つ教えてやろう——男は、実力こそが全てなのだと!
「いざ、勝負!」
竹内拓実が大声で叫び、手に持った竹刀をゆっくりと振りかぶり、まっすぐ向けた先に……あれ、人がいない?
あれほど大きな男がどこへ行った?
背後から楽しげな話し声が聞こえ、彼はぎこちなく首をひねった。すると、剣道部で唯一の5人の女子部員全員が多崎司の周りに集まっており、彼女たちの顔には、これまで見たことのないほどに喜びに満ちた笑顔が浮かんでいた。
「ゴン」という鈍い音を立てて、手から竹刀が滑り落ち、木の床に転がった。
竹内拓実はこの瞬間、自分の剣心が乱れたことを悟った。
「後輩君、こんにちは。私、二年生なの。ねえ、先輩って呼んでみてよ……」
「連絡先、交換しよ~!」
「多崎君って、きっと本が大好きなタイプだよね?偶然だね、私も大好きなの」
「ねえ、司ちゃん!この近くにすごく美味しいBBQのお店があるんだけど、一緒に行かない?」
まるで騒がしいカモメの群れに囲まれたかのように、元々少しめまいがしていた多崎司の頭は、さらに混乱を極めた。
【矢島葉月株、市場に上場】
【発行価格:10】
【発行数:1000株】
混乱の中、システムから新規上場銘柄の通知が表示されたようだが、彼は今それを確認する余裕もなく、ただどうやってこの場を切り抜けるかだけを考えていた。
「お前ら何やってるんだ……やめろ……それからお前、そんなに顔を近づけて何してるんだ!!!」
「皆、どけ!」
いざという時には、やはり二宮さんが頼りになった。
彼女は多崎司の前に立ちはだかり、両手を腰に当て、目に鋭い光を宿らせて言った。「いいかい、スキ君は私が先に目をつけたんだから、ちゃんと順番をわきまえてよね!」
「それはどうかしら……もしかしたら私のタイプが好きかもしれないし」
「そうだよ、二宮。まだ付き合ってないなら、私たちにもチャンスはあるってことよ」
数人の女子生徒は負けじと反論したが、それ以上厚かましく絡んでくることはなかった。
多崎司は安堵のため息をつき、その隙に包囲網を脱し、窓際の休憩スペースに胡座をかいた。風がカーテンを揺らし、爽やかな空気が流れ込んできて、元々ずきずきと痛んでいた頭が少し楽になった。
「ほら、水でも飲んで」二宮詩織が膝を折って彼の隣に座り、ペットボトル入りのミネラルウォーターを差し出した。
「ありがとう」多崎司はそれを受け取り、蓋を開けて一口飲み、乾いた喉を潤した。
「あなたって本当に人気者ね」二宮詩織は困ったようにため息をついた。「私、一体どれだけのライバルを倒さなきゃいけないのかしら」
「えっと……実は……」多崎司はためらいがちに、彼女の耳元に顔を近づけて小声で言った。「こういった凶暴な女子高生たちは、僕の目には東京湾上空で餓死寸前のカモメと大差ないように見えるんだ」
「その例え……本当にぴったりね」二宮詩織はくすくす笑いながら問い返した。「じゃあ、私は?私は何?」
「君はカモメのボスだ」
「なんか、かっこいい響き!」
「まさか僕が君を褒めてると思ってるのか?」
二宮詩織は身を乗り出し、顔を近づけて尋ねた。「違うの?」
おい……近すぎる!
おでこがくっつきそうだぞ!
「それなら、私が褒めたってことにしておこうか」多崎司は身を少し後ろに引いて譲歩した。
二宮詩織はかっこよく指を鳴らした。「攻略第一歩、成功!」
「何が成功したって?」
「あなたが私を褒めたんだから、成功じゃない?」
多崎司はこめかみを揉みながら、仕方なく言った。「二宮さん、成功への確かな第一歩を踏み出せておめでとう」
「ハハ……」
その笑い声は澄んでいて、乾いたところがなく、若々しい活気に満ちていた。
多崎司は彼女の小さな顔を凝視し、一瞬ぼうっとなった。
見た目からしても、確かに稀に見る美少女だ。艶やかな黒いロングヘアは腰まで伸び、澄み切った黒い瞳、白い肌、そして程よく発達した胸部と、全身どこを見ても完璧な印象を与える。
ただ彼女を見ているだけで、風邪による不快感がかなり和らいだ気がした。
元気な少女はやはり元気だ……多崎司は心の中で密かに感嘆し、視線を逸らして適当な場所を見た。
ん?
あの竹内拓実、どうしてあんなに自分を睨んでいるんだ?
多崎司は無意識に自分の頬を触ったが、何も異常はない。奇妙な男だとは思ったが、彼は淡々と頷いた。
無関心.jpg
多崎司の視線を受け止めた竹内拓実は、またもや自身の剣心がクリティカルヒットを受けたような感覚に陥った。
この広大な剣道部に、竹内拓実の居場所はもうないのか……いや、待て、ここは剣道部だ!
竹内拓実ははっと我に返った。
ここは剣道部であって、ホストクラブではない。彼がどれほど格好良くても関係ない。剣士である以上、実力で勝ればいいのだ!
そう考えると、竹内拓実はゆっくりと気持ちを落ち着かせ、窓際に座り込んでいる少年少女の前に向かった。二宮詩織には目もくれず、多崎司を真っ直ぐに見据え、声を張り上げた。「多崎くん、私の剣道を指導してやろう!」
「え?」多崎司は彼を奇妙な眼差しで見つめ、端正な顔にゆっくりと困惑の表情を浮かべた。
「男は顔だけじゃないぞ」竹内拓実は多崎司の顔を見ながら、心の中で冷笑し、口を開いた。「孔雀がどれほど美しかろうと、強大な鷲に出会えば、ひれ伏すしかないのだ」
二宮詩織は眉をひそめた。その大きな顔には、露骨な嫉妬が読み取れた。彼女が反論しようとしたその時、多崎司が平静な口調で応じた。「孔雀ほど美しくないこと以外は、君も随分と孔雀に似ているね」
この言葉は、竹内拓実の嘲り(あざけり)をそのまま跳ね返し、ついでに彼の容姿まで攻撃した。二宮詩織は思わず小さな魅力的な唇を手で覆い、顔を背けて体が小刻みに震えた。
竹内拓実は一瞬呆然とし、怒鳴った。「よくも私を侮辱したな!」
その怒号と共に、剣道部全体の雰囲気が瞬時に凍りつき、一斉に十数もの視線がこちらに集中した。
二宮詩織は慌てて多崎司の袖を引っ張り、それ以上言うなと合図した。しかし多崎司は彼女に「大丈夫」とばかりの視線を返しただけだった。
続けて、彼は軽くため息をつき、竹内拓実に向かって言った。「口を閉じて愚か者として振る舞う方が、口を開いて自分が愚か者であることを証明するよりも、はるかに賢明だ」
「できるものなら、俺の目を見てもう一度言ってみろ!」
「醜い者には、じっくり見ることもまた残酷なことだ」
言い終わると、多崎司は素早く視線をそらし、隣にいる二宮詩織の清らかな小さな顔を見つめた。
「……」竹内拓実は数秒間呆然とし、ようやく状況を理解した。彼は悲しげに二宮詩織の方を向き、心の中では激しく罵っていた……お前、どこでこんな口の悪い友人を見つけてきたんだ……
この瞬間。
竹内拓実は、すでに揺らいでいた自身の剣心が、再びクリティカルヒットを受けたことを悟った。