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第10話 二宮詩織と春日香苗

多崎司はコーラを抱え、静かに冷蔵庫の方へ移動したが、二宮詩織は棚の隙間から彼の姿を見つけ、興奮して叫んだ。「イケメンさん、また会ったね!」


春日香苗も顔を出し、彼に微笑みかけた。「こんにちは」


「ちょっと待ってて……」多崎司はコーラを冷蔵庫に運び終えてから、振り返り、営業用の穏やかな笑みを彼女たちに向けた。「何かお探しですか?」


「イケメンがいい!」


「申し訳ありませんが、私は当店唯一の非売品です」


二宮詩織はははと笑い、「Aセットのおでんを二つください」と言った。


多崎司はホットデリコーナーへ行き、エコ容器でおでんを用意し始めた。


「私は二宮詩織。あなたは?」二宮詩織もホットデリコーナーまでついてきて、彼の名前を尋ねた。


多崎司は自身の制服のポケットを指差した。そこには小さな名札がピンで留められている。


二宮詩織が顔を近づけて見ると、そこには「多崎司」という三文字が書かれていた。


「珍しい名字だね。タザキ……それともダサキ……?」


多崎司は訂正した。「タサキです。フルネームはタサキ・ツカサと読みます」


「タサキ……」春日香苗もホットデリコーナーにやってきて、カウンターの中の白い大根をじっと見つめながら、ごく小さな声で「タスキ……」とつぶやいた。


「タスキ……」二宮詩織は心の中で繰り返すと、たちまちその瞳を輝かせた。


多崎司は平静な面持ちで弁当箱に大根を盛り付けながら、ついでに尋ねた。「他に何か追加されますか?」


「私は昆布巻きと、キャベツの肉団子、それから竹の子巻きも追加して。香苗は何にする?」


「私はパリパリソーセージを一本でいいかな……」


多崎司は彼女たちの要望通りに具材を追加し、竹串を刺してカウンターに置いた。「お食事スペースにサラダドレッシング、ケチャップ、それからチリソースがございますので、お好みの味を自由にお使いください」


二宮詩織は二つのおでんを受け取りながら、彼にウィンクした。「スキ君、ありがとう」


「タサキです」多崎司は再度訂正した。


「はい、スキ君」


東京の女子高生の脳血管は、きっと多かれ少なかれ詰まっているに違いない……多崎司はレジに戻って立ち、二人の女子生徒は笑いながら食事スペースへと向かった。


店内では有線放送から流行りの曲が流れ、スタイリッシュで軽快なメロディが耳元に響く。


少女たちの話し声と笑い声が棚越しに微かに聞こえてくるが、会話の内容ははっきりとは聞き取れない。


多崎司の意識は彼女たちにはなく、明日のことを考えていた。


栖川新浩が剣道で挑んでくるという状況は、多崎司の予想通りだった。


日本の一部の古い家系では、伝統芸能の訓練を非常に重視しており、栖川家も例外ではない。


栖川家の子どもたちは皆、生まれてから茶道、剣道、華道などの教育を受ける。その目的は、子孫たちがこれらの分野で才能を発揮することではなく、むしろ学習の過程でその中に込められた精神を理解することにある。


例えば、剣道を学ぶことで武士道を養い、茶道を学ぶことで心を落ち着かせ、感情を制御し、華道は心身を修養し、高雅な美意識を育むといった具合だ。


栖川新浩は幼少の頃から剣道の訓練を受けており、これまでに七、八年の稽古を積んでいる。


さて、その技量がどれほどのものか、多崎司には定かではなかったが、敗北を喫するとは微塵も心配していなかった。栖川新浩のことよりも、彼は栗山桜良の反応の方が気になっていた。


奇妙なことを考えながら、彼は顧客の商品を受け取り、バーコードをスキャンした。「1200円でございます!」


「2000円お預かりいたします。800円のお返しです。ありがとうございました」


その客を見送ると、向かいの二人の少女も食事を終えていた。二宮詩織が財布を取り出して会計をしようとした時、残念そうに言った。「ああ、残念。明日お休みだから遊びに誘えると思ったのに、私たちの学校の部活が合宿なの。もう、本当に嫌になる……」


「合宿じゃないよ……」春日香苗は親友を小さな声で訂正した。「私、あなたを待っている時に、栖川先輩が『実戦練習』って言っているのが聞こえたんだ」


「あのガタイのいい人、つまらないわ」二宮詩織は鼻で笑い、少しうんざりした口調で言った。「実戦練習なんて、ただ私にいいところを見せたいだけでしょう、幼稚だわ……」


「お二人は剣道部の方ですか?」多崎司は少し驚いた。彼は剣道部には男性しかいないと思い込んでいたので、まさか二人の美少女がいるとは予想外だったのだ。


二宮詩織は一瞬呆れた顔をした後、「春苗は文学部の部員だけど、私は確かに剣道部よ。どうして分かったの?」と問い返した。


春日香苗は少し思慮深く、小さな声で尋ねた。「栖川先輩をご存じなんですか?」


多崎司は頷いた。「ええ、知っています」


「スキ君!」二宮詩織は勢いよくレジカウンターに手をつき、つま先立ちで上半身を乗り出してきた。「あなたも北川学園の生徒なの?」


「一年F組です。それから、タサキと呼んでください……」


「これって運命じゃない!」二宮詩織の繊細で白い顔は、興奮で赤く染まっていた。「香苗と私も一年D組なのよ。一つしか教室が離れてないじゃない!」


「もしこれが運命だとしたら、それは実に厄介ですね……」多崎司は体を後ろに反らせ、その視線を不自然に、熱心すぎる二宮から逸らした。


春日香苗は小さく笑い、多崎司が二宮詩織の視線を避けて自分に視線を向けた途端、慌てて俯いた。


「ねえ、スキ君」二宮詩織はスマートフォンを取り出し、振ってみせた。「LINE交換しよ」


多崎司は一瞬ためらい、小さな声で自分のアカウントを告げた。


二宮詩織の白い指が素早く画面を数回タップし、「追加したよ、早く承認して」と言った。


「私も……」春日香苗の頬も少し赤く染まっていた。彼女はまだ俯いていたが、その視線はわずかに上を向き、多崎司を見上げていた。


多崎司は首を横に振った。「スマホはカバンの中なので、仕事が終わったら承認します」


「じゃあ、これで。お邪魔しないようにするね、またね」


「またね」


【運命の導きを感じ、二宮詩織株の指数が30ポイント上昇。現在の株価:40】

【同級生と知って嬉しい、春日香苗株の指数が10ポイント上昇。現在の株価:20】


この株価の変動には、多崎司も大いに驚いた。


彼は当初、春日香苗の方が早く株価が上がると予想していたのだが、まさか二宮詩織に思わぬ大打撃を食らわされるとは。


やはり、第一印象だけで人を決めつけるべきではない。


二人の少女を見送った後、多崎司は先ほどのコーラを冷蔵庫にしまい、雑誌コーナーから適当なSF月刊誌を手に取ってレジで読み始めた。


雑誌には、溶けゆく南極の氷床保護を訴える記事、急速に発展する人工知能がもたらす懸念、そしてナノ粒子と自然環境との相互作用についての論考が掲載されていた。


夜8時、雨が降り始め、店内にはほとんど客がいなかった。もう一人の夜勤の従業員は、静かに座って携帯電話をいじっている。ザーザーという雨音の他には、店内に雑誌をめくる音だけが響いていた。


多崎司はざっと記事を読みながら、知り合ったばかりの二人の少女にどう接するべきか考えていた。退勤時間が来て、彼は制服に着替え、傘を差してコンビニを後にした。


路上にはかなりの水が溜まっており、雨粒が透明な傘に打ち付けられ、水しぶきを上げた。


雨で服が濡れ、夜風が吹き付けて少し肌寒い。水浸しになった運動靴は重く、履き心地が悪い。


ようやく四ツ谷駅にたどり着き、ホームのコンビニで温かいコーヒーを買いながら、多崎司は携帯電話を取り出して見た。


LINEには二つの友達申請が届いていた。一つのメッセージは「クールなイケメンを攻略するのが一番好きなの、早く承認して」というもので、もう一つは「春日香苗です、よろしくお願いします」というものだった。


「ハックション……」


立て続けに三度くしゃみをして、多崎司は熱いコーヒーを一口飲むと、身体の冷えが徐々に引いていくのを感じた。彼は二つの友達申請を承認し、新宿行きの黄色い電車に乗り込んだ。


通常の交流を保ち、株価を自然に上昇させるに留めること。決して優しい「暖男」になるな、相手に誤解を招くような行動は慎むこと……。


肝に銘じておけ!


己の最終ラインは必ず守り抜くのだ!


決して利益に惑わされて、他人の感情を弄ぶような真似はするな!


多崎司は携帯電話をしまい、窓の外を見た。雨の夜の東京の街並みが、電車の窓にコマ送りのアニメーションのように目まぐるしく映っては消えていった。

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