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第四話(Beryllium):ペニシリン

病人の容態は刻一刻と悪化しており、高熱と激しい痛みに苦しんでいた。柚紀は、ペニシリンの培養に全神経を集中させていた。


「……培養液の温度は適切か?培地の成分は問題ないか?……くそ、時間が足りない!」


柚紀は、焦燥感を覚えながら、培養の状況を細かくチェックしていた。ペニシリンは、青カビが生成する抗生物質であり、培養には適切な環境が必要だった。温度、湿度、培地の成分、そして時間。どれか一つでも欠ければ、ペニシリンは生成されない。


「……レイリー先生、患者さんの容態は?」


柚紀は、レイリーに尋ねた。レイリーは、疲労の色を隠せない表情で答えた。


「……芳しくありません。熱はさらに上がり、意識も朦朧としています。……何か、他にできることはないのでしょうか?」


柚紀は、レイリーの言葉に胸を痛めた。地球の医療技術であれば、こんな状況はありえない。しかし、ここは異世界。柚紀は、今ある知識と技術を駆使して、患者を救うしかなかった。


「……レイリー先生、柳の葉と蒸留酒を集めてください。それと、氷があれば……」


柚紀は、地球での記憶を頼りに、サリチル酸の抽出を試みることにした。サリチル酸は、柳の葉に含まれる成分であり、解熱作用を持つ。アスピリンのような粘膜保護作用はないが、高熱を下げるには有効なはずだ。


(アスピリン、正式名称アセチルサリチル酸は、柳の葉などに含まれているサリシンからサリチル酸を得てそれをアセチル化、つまり無水酢酸や酢酸を硫酸などの元で反応させた物質は、バファリンなど、解熱鎮痛剤として現代でも広く使われている。最も、現在はサリチル酸は石油から合成されている。)


柚紀とエリンは、錬金術師の下に行き、硫酸や二酸化マンガンはないか尋ねる。錬金術師は、これは危険な液体であると説明を受けた。柚紀は普段から実験で使用し、硫酸の危険性を十分理解しているが、再度気を引き締めた。


(柳の葉などに含まれているサリシンをサリチル酸にするには、分解と酸化を行う必要がある。そのために

硫酸と酸化剤が必要である。酸化剤は、物質を酸素と結びつけたりする酸化を強力に進めるもので、酸素やオゾン、過酸化水素などがある。今回は酸化剤に手に入りやすいマンガン鉱石に含まれている二酸化マンガンを使用している。)


柚紀は、集めた柳の葉を細かく刻み、蒸留酒に浸した。そして、それを加熱し、錬金術師から譲り受けた硫酸と二酸化マンガンを混ぜ、蒸留することで得たエタノールによりサリチル酸を抽出した。


「……これを患者さんに投与します。一時的な効果しかないかもしれませんが、熱を下げることはできるはずです。」


柚紀は、抽出したサリチル酸を患者に投与した。しばらくすると、患者の熱は徐々に下がり始めた。


「……効果があった!しかし、これは一時的なものだ。根本的な治療には、ペニシリンが必要だ。」


柚紀は、ペニシリンの培養を急いだ。しかし、培養には時間がかかり、患者の容態は再び悪化し始めた。


「……くそ、間に合わないのか……?」


柚紀がその病人と出会ってから二週間がたったころ、焦燥感と無力感に苛まれながら、培養液を見つめていた。その時、培養液の中に、微かに青いカビが見えた。


「……青カビだ!ついに、ペニシリンが生成された!」


柚紀は、歓喜の声を上げた。しかし、まだ油断はできない。ペニシリンを抽出するには、さらに時間と手間がかかる。


柚紀は、レイリーの協力を得て、慎重にペニシリンの抽出を行った。そして、ついに、純粋なペニシリンの結晶を得ることに成功した。


「……できた!ついに、ペニシリンが完成した!」


柚紀は、完成したペニシリンを患者に投与した。数日後、患者は劇的に回復し、無事に退院することができた。


「……柚紀様、レイリー先生、本当にありがとうございました。あなたたちのおかげで、私は命を救われました。」


患者は、涙ながらに柚紀とレイリーに感謝の言葉を述べた。この出来事は、瞬く間に街中に広がり、柚紀の名前は、天才的な医術を持つ異邦人として知られるようになった。


「……柚紀様は、神医だ!どんな病気でも治せるに違いない!」


「……柚紀様の治療を受けた者は、皆、奇跡的に回復している!」


「……まだまだ、やるべきことはたくさんある。この世界の医療水準も科学技術も、もっと向上させたい。」


柚紀は、新たな決意を胸に、異世界での科学を続けていく。そして、この世界にも、邪悪な細菌を木端微塵に破壊する、対細菌の最終兵器、ペニシリンが産声をあげたのだった。

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