第十六話(Sulfur):ラボ
柚紀たちは、次に金属加工について考えていた。工業の発展には、製鉄所など、大量に金属を作り出す必要がある。柚紀たちは、毎日実験を重ね、ヒューストンは次の工作を始めていた。
「……モーターがあれば、様々な機械を動かせる。それに、発電機としても使える。」
柚紀は、モーターの原理を説明した。モーターは、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する装置だが、逆に運動エネルギーを電気エネルギーに変換することもできる。しかし、永久磁石が必要になる。永久磁石は天然のものは極めて少ない。とにかく、今回はいつもの錬金術師達のあれこれ手を伸ばしてみる力によって、永久磁石はなんとか手に入った。
(まあ......錬金術師の目標である、「金を作る」ことは元素が違うから不可能なわけだが......地球でも、彼らが科学に与えた功績は大きいしな......原子炉があれば、金を作ることも可能になるが......」
(モーターの原理:電磁誘導を利用し、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する。回転を与えれば電気を作り出す。)
柚紀は、水車を使ってモーターを回し、発電をしようとしていた。モーター作りはヒューストンに任せ、水車は街の建築業者に依頼しにいった。
「……安定した電力があれば、できることが格段に増える。電球、ペルチェ素子、電熱器、電気分解装置、電気炉……それに、鉄道や自動車にも使える。」
柚紀は、電気の利用範囲の広さに興奮していた。
「……コンデンサやトランジスタなどの部品があれば、さらに色々なことができる。」
柚紀は、電子部品の可能性に思いを馳せていた。
また、柚紀はバッテリーの製作に取り組んでいた。バッテリーがあれば、電力供給を安定させることができる。柚紀は、現代の自動車にも使われている鉛蓄電池の研究を行っていた。
「……鉛蓄電池は、安定した電圧と大電流を供給できる。この異世界でも、十分に使えるはずだ。」
柚紀は、鉛蓄電池の製作に没頭していた。
研究と並行して、柚紀は建築業者とラボの建設工事について話し合う日々を送っていた。そして、春になり少し暖かくなってきた頃、ついにラボが完成した。
「……ついに、ラボが完成した!」
柚紀は、完成したラボを見て、感動の声を上げた。ラボは、広い街外れの敷地に木造の倉庫のような広い建物と、貯蔵庫のような小さい建物が並び立っていた。
「……広い!これだけのスペースがあれば、色々な実験ができる。」
スカーレットは、広々としたラボに目を輝かせた。
「……貯蔵庫も大きいな。これで、材料や薬品を安全に保管できる。」
ヒューストンは、貯蔵庫の大きさに感心していた。
「……さあ、荷物を運び込もう!」
柚紀は、みんなに声をかけ、引越し作業を始めた。柚紀、スカーレット、サーモン、ヒューストンは協力して、荷物をラボに運び込んだ。
「……このラボがあれば、この異世界での科学の発展をより進めていけるだろう。」
柚紀は、ラボを見渡し、未来への希望を膨らませた。
「……これから、どんな研究をしようか?」
スカーレットは、柚紀に尋ねた。柚紀は、少し考えてから答えた。
「……まずは、硝酸の大量生産体制を確立しよう。そして、農薬や肥料の生産も本格的に始める。」
「……他に、何かやりたいことはあるの?」
エリンが尋ねた。
「いつか......空を飛びたい......」
「飛行機があれば人間は空を飛ぶことができる!!......」
柚紀が夢を語った。
「……飛行機?空を飛ぶ乗り物ですか?」
エリンは、驚いた顔で尋ねた。
「……ああ。空からこの世界を見てみたいんだ。」
柚紀は、空を見上げ、夢を語った。
「……素敵ですね。私も、一緒に空を飛んでみたいです。」
エリンは、柚紀の夢に共感した。
「……きっと、いつか叶えてみせる。」
柚紀は、力強く宣言した。
こうして、柚紀たちは新たなラボで、新たな目標に向かって歩み始めた。